生成AIソリューションの4割は今後3年で「あれ」になる ガートナー「生成AIのハイプ・サイクル」

ガートナーによると、今後3年間で生成AIソリューションの4割が「ある特徴」を備えるようになるという。それは何か。注目すべき他の3つのテクノロジーと合わせてチェックしよう。

» 2024年09月13日 11時30分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2024年9月10日、「生成AIのハイプ・サイクル:2024年」を発表した。

 次々に市場に投入される生成AIソリューションの中で、今後最も伸長するのは何か。また、注目すべき「4つのテクノロジー」、今後10年で主流になると見られる「2つの生成AIイノベーション」とは。ガートナーの予測を見てみよう。

4割は「あれ」になる 注目すべき4つのテクノロジーとは?

 ガートナーのアルン・チャンドラセカラン氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)は、「業界再編が始まり、生成AIは幻滅期に入っている。ブームが一段落すれば、今後数年間は急速なペースで機能が進歩し、さらなるメリットを得られる可能性がある」と分析する。

 こうした中で同社は「2027年までに生成AIソリューションの40%がマルチモーダル(テキストや画像、音声、動画など複数のタイプのデータを一度に処理する)になる」との見解を示す。2023年にマルチモーダルが占める割合は1%だった。生成モデルがマルチモーダル化にシフトすることによって、「人間とAIのインタラクションを強化し、生成AI対応ソリューションを差別化する機会をもたらす」としている。

 ガートナーのエリック・ブレテヌー氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)は、「生成AI市場では、複数のモードでネイティブに学習したモデルが台頭し始めている。これにより、異なるデータストリーム間の関係を把握しやすくなるだけでなく、あらゆるデータタイプやアプリケーションに生成AIのメリットを拡張できる可能性がある。環境に関係なく、人間がより多くのタスクを実行できるようAIがサポート可能になる」と語る。

 2024年における生成AIのハイプ・サイクルでは「マルチモーダル生成AI」は、「オープンソースのLLM(大規模言語モデル)」とともに、「早期に採用することで顕著な競争優位性と市場投入までの期間短縮をもたらす可能性があるテクノロジー」として特定されている。どちらのテクノロジーも、今後5年以内に企業に大きな影響を及ぼす可能性を秘めているという。

生成AIのハイプ・サイクル:2024年(出典:ガートナーのプレスリリース)

 また、ガートナーが「10年以内に主流の採用に達する」と予測している生成AIイノベーションの中で、その可能性が最も高い2つとして挙げているのが、「ドメイン固有の生成AIモデル」「自律エージェント」だ。

 この4つのテクノロジーの特徴について、ガートナーは次のように整理している。

マルチモーダル生成AI

 マルチモーダル生成AIは、通常では実現不可能な新しい機能を実現することで、エンタープライズアプリケーションに変革的なインパクトをもたらす。このインパクトは特定の業界やユースケースに限定されず、AIと人間の間のあらゆる接点に適用される。現在、多くのマルチモーダルモデルは2〜3のモードに限定されているが、今後数年でさらに多くのモードが組み込まれるようになるだろう。

 「現実世界で人は音声や視覚、感覚など、さまざまな組み合わせを通して情報を理解する。マルチモーダル生成AIが重要なのは、データがマルチモーダルであるためだ。マルチモーダル生成AIアプリケーションをサポートするために、単一モデルを複数組み合わせると、遅延や精度の低い結果につながることが多く、結果としてエクスペリエンスの質が低下する」(ブレテヌー氏)

オープンソースのLLM

 ディープラーニングのファウンデーションモデルであるオープンソースのLLMは、商用アクセスを民主化する。また、開発者が特定のタスクやユースケース向けにモデルを最適化することで、生成AIの導入から得られる企業価値を増大させる。モデルの改善と価値の向上という共通の目標に取り組む企業や学術機関、およびその他の研究機関の開発者コミュニティーにアクセスできるようにする。

 「オープンソースのLLMは、カスタマイズ性の高さや、プライバシーおよびセキュリティのコントロール性の高さ、モデルの透明性、共同開発を活用できる機能、ベンダーロックインを抑制する潜在力を通じてイノベーションの可能性を高める。低コストで学習しやすい小規模モデルを企業にもたらし、ビジネスアプリケーションと中核的なビジネスプロセスを実現する」(チャンドラセカラン氏)

ドメイン固有の生成AIモデル

 ドメイン固有の生成AIモデルは特定の業界やビジネス機能、またはタスクのニーズに最適化されている。企業内でユースケースの整合性を改善すると同時に、精度やセキュリティ、プライバシーを向上させ、よりコンテキストに沿った回答を提供できる。これによって、汎用モデルほど高度なプロンプトエンジニアリングを使用する必要がなくなり、対象を絞ったトレーニングを通じてハルシネーション(幻影)のリスクを下げられる。

 「ドメイン固有のモデルは、より高度なレベルを起点に業界固有のタスクを実現できるようにすることで、AIプロジェクトの価値実現までの時間の短縮パフォーマンスの向上や、セキュリティの強化を達成する。汎用モデルではパフォーマンスを十分に発揮できないユースケースにも生成AIを適用できるため、生成AIの採用範囲が広がる」(チャンドラセカラン氏)

自律エージェント

 自律エージェントは、人間が介入せずに、定義された目標を達成する複合システムだ。さまざまなAI技術を利用して、環境におけるパターンを識別し、意思を決定し、一連のアクションを実行してアウトプットを生成する。自律エージェントは、環境を学習し続けることで性能が向上し、より複雑なタスクに対処できる可能性を秘めている。

 「自律エージェントは、AIの能力を大きく変化させる。独立したオペレーションと意思決定能力は、ビジネスオペレーションを改善してカスタマーエクスペリエンスを向上させ、新しいプロダクトやサービスを創出する。コストの削減や競争力の強化につながり、従業員の役割を『作業者から監督者』にシフトする組織的なワークフォースの転換をもたらすだろう」(ブレテヌー氏)

 なお、日本で生成AIの領域を担当するガートナーの亦賀忠明氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)は、「生成AIの進化は、インターネットの進化と似ており、まだ2合目だ。進化の過程において、生成AIは『過度な期待』のピーク期の下り方向にある。『想定以上にコストがかかっている』といった幻滅的な事象も発生している。注意が必要なフェーズではあるが、生成AIはこれからヒューマノイドやあらゆるデバイスとアプリケーションへの組み込み、汎用人工知能、スーパーインテリジェンスに向けた進化が想定される」と指摘する。

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