生成AIで「いま最もROIが期待できるユースケース」はこれ PwC調査で判明CIO Dive

生成AIのROI(投資利益率)に悩みを抱える企業は多い。PwCの45日間にわたる集中的な影響分析で判明した、ROIに関して「いま最も有望なユースケース」とは何か。

» 2024年10月04日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 企業における生成AIの活用が進むにつれ、良い面と悪い面が分かってきた。チャットbotとのシームレスな対話や迅速な要約などを通じて、生成AIは基礎的な業務を変革する。ただし、コンピューティングリソースを多く消費するため、IT予算は圧迫される。

調査で判明 「最も有望なユースケース」とは?

 CIO(最高技術責任者)らの興奮が冷めるにつれ、生成AIのROI(投資利益率)に関する深刻な疑問が浮上している。

 企業は生成AIを導入するメリットとデメリットをどう考え、ROIをどのように算出すべきか。また、現時点で最も有望なユースケースとは。

 CIOは、生成AIを本格的に利用して、財務諸表で投資効果を確認できるまでにどのくらいかかるのか疑問に感じている。

 PwCのダン・プリースト氏(米国におけるチーフAIオフィサー)は、「CIO Dive」が開催したライブイベント(開催日:2024年8月14日《現地時間、以下同》)で次のように述べた。

 「AIに関する取り組みにおいて、われわれはまだ比較的容易に手に入る成果を得ているにすぎない。コストはそれなりに掛かっているが、投資回収とそのペースは今のところ良好だ」

 PwCは、コンサルティング業界におけるAI導入競争の先頭を走っている。約1年前、同社は生成AIの開発に3年間で10億ドルを投入することを表明し(注2)、2023年夏には、ChatGPTをベースとした社内アシスタント「ChatPwC」を立ち上げた(注3)。

 2024年4月、Googleのクラウドデータウェアハウス「BigQuery」とAI開発者プラットフォーム「Vertex AI」を使って構築された生成AI税務ソリューションを展開した(注4)。同年5月には10万人の従業員が「ChatGPT Enterprise」にアクセスできるようにした(注5)。同社はプリースト氏の就任によってテクノロジーへのコミットメントを強めている。

 「AIが当社のビジネスにもたらす機会や、AIによって業務に生じる複雑さ、責任を持ってAI利用を進める重要性を検討した。これらの問題は経営陣レベルのリーダーシップが取り組むに値する重要なものだと考えている」(プリースト氏)

 プリースト氏は45日間にわたる集中的な影響分析と、「My AI」と呼ばれる「責任あるAI」導入のためのトレーニングを同社で実施した。

 プリースト氏によると、調査結果は含蓄に富んだもので、生成AIをめぐる従来の常識を補強するものだったという。ROIの観点から最も有望なユースケースは、業界特有のソリューションにおける効率向上を図るものだ。生成AIを活用したコーディングアシスタントやソフトウェアの開発ライフサイクルを補強するツールは、効果的な取り組みをまとめたプリースト氏のリストの中でも特に高く評価されている。

 「これはテクノロジーだけの問題ではなく、解決すべきビジネス課題に関わるものだ。各部門にはそれぞれに異なる重要事項がある。各部門のダイナミクス(集団を構築する力関係)を理解し、AIソリューションにその理解を反映できる人材を揃えられれば、強力な環境を構築できる」(プリースト氏)

生成AIのリスクにどう対処すべき?

 新たなテクノロジーには不確実性が付き物で、コインには表と裏がある。アーリーアダプターは最初に成果を得るが、未知の危険につまずく可能性もある。

 「データに関しては管理が必要なリスクがある。もう一つのリスクは、競合相手に後れを取るリスクだ。これらのバランスを取る必要がある」(プリースト氏)

 データの安全性とセキュリティリスクを軽減するために、プリースト氏は「責任あるAI」の枠組みの必要性を認めた。同氏は「LLM(大規模言語モデル)を訓練するために独自のデータをファイアウォールなしで使用してはいけない」と述べている。一方、硬直したガイドラインが過剰な制限につながらないようにする必要もある。

 これらのバランスをとるために、企業はどうすべきか。プリースト氏は、次のように奨励している。

 「チームが安全に実験できるサンドボックスを用意してほしい。AIの魅力は、業務プロセスを再構築できるところにある。過剰なガバナンスを施すのではなく、適切なバランスを取ることが大切だ」

 リスク許容に関して重要なのは、開発者がユースケースに合わせてビジネス価値を考慮しても、進捗(しんちょく)を妨げることはないと信頼することだ。

 「われわれはマイクロマネジメントをしているわけではない。実験と多少のリスク許容をサポートする形で生成AIを見定めようとしている」(プリースト氏)

 ROIは自然に決まるものではないが、プリースト氏は直感的なアプローチで価値を測定しようとしている。

 「当社には『イノベーションによって成果を出せたかどうか、正しいソリューションを構築できたかどうかは市場が教えてくれる』という考え方がある。当社が市場で競争に勝ち続けられるなら、適切なソリューションに投資していることになり、当社が求めていたROIももたらされるだろう」(プリースト氏)

 プリースト氏は「これまでのところ、市場は当社に対して『実験段階を乗り越える価値がある』と示している」と述べた。生成AIの文脈を理解して自然言語で対話し、認知処理タスクを実行する能力は、いかに応用すべきかが明確になりつつある。

 「私は生成AIの可能性について現実的に捉えているが、これら3つの機能は多くのユースケースが存在することを示唆している。生成AIは長く使われることになるだろう。われわれはまだ生成AIの可能性の一端に触れているにすぎない」(プリースト氏)

原注:本稿は、2024年8月14日に開催された「CIO Dive」のライブバーチャルイベントで話された内容を基に作成している。セッションの模様はオンデマンドで確認できる(注1)。

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