IFSが産業AIとサステナビリティの機能を強化 アナリストは評価するが顧客は疑問の解消を求める

IFS Cloud 24R2には、産業用AI機能とサステナビリティモジュールが新たに追加される予定だ。アナリストらは同社のAIに関する実践的なアプローチを評価しているが、顧客はある疑問の解消を求めている。

» 2024年11月22日 07時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 企業向けソフトウェアを提供するIFSは、新たにリリースした「IFS Cloud」において、新機能を盛り込んだ産業用AIアプリケーションに関するビジョンを発表した。新たな産業用AI機能とサステナビリティモジュールが含まれるという。

 アナリストたちは、同社のAIに関する実践的なアプローチを評価しているが、顧客はある疑問の解消を求めている。発表の詳細を解説する。

IFS Unleashedで発表された新AI機能は?

 2024年10月14日(現地時間)の週に開催された「IFS Unleashed」で発表された「IFS Cloud 24R2」の新機能には、「IFS.ai Copilot」のプラットフォームへのさらなる統合が含まれていた。これにより、ERPやエンタープライズアセットマネジメント、フィールドサービスマネジメント、CRM、HRなどのアプリケーション全体から、コンテキストを認識した上での洞察が提供される。IFS.ai Copiloは、プロジェクト状況の可視化、異常の自動検出、修正アクションの提案などの情報を表示する動的なページ「Home」を新たに提供する。

 資産アプリケーションモジュールでは、IFS.ai copilotを活用し、リスク評価手法の「故障モード影響クリティカリティ分析(FMECA)」を実施する。これにより、資産の機能の利用可能性を高めつつ、メンテナンスコストの削減とリスクの軽減を図れる。

生成AIが産業用AIを強化

 IFSのクリスチャン・ペデルセン氏(最高製品責任者)は、IFS Unleashedの基調講演で次のように述べた。

 「今日、AIは至る所で見られるが、新しいものではない。長年にわたり、AIは産業プロセスの自動化と最適化に使用されてきた。2年前に生成AIが話題になってから想像力が解き放たれた。生成AIの登場により、AIは単に最適化するだけでなく、“モノ”を生成できると私たちの心に刻まれたのだ」(ペデルセン氏)

 ペデルセン氏によると、IFSは生成AIについて過去2年間で蓄積した知見を、IFS Cloudの強みである航空宇宙および防衛、建設、エンジニアリング、エネルギー、公益事業、製造、サービス、通信といった業界に特化した技術に応用しているという。

 ペデルセン氏は、「私たちは業界における深い専門知識を持ち、拡張現実や自動化、予測AIに対応できる豊富で精緻なデータモデルを備えている。これらの全てと生成AIを組み合わせることで、非常に大きな力を引き出せる」と語り以下のように続けた。

 「生成AIは幅広い用途を有するが、産業用AIとしての活用は特に際立っている。精度に徹底的にこだわり、生成AIモデルが誤った結論や紛らわしい結論を生成することはない。最も重要なのは、産業用AIにはコンテキストが存在するということだ。AIはあなたの業界やビジネス、データ、従業員を理解する。AIは、現実世界の課題に関するコンテキストの上で行動する」(ペデルセン氏)

 IFSは300以上の産業用ユースケースを開発しており、年内に少なくとも60の有効なユースケースを提供する見込みだ。

 IFSは、オープニングの基調講演でIFS Cloud 24R2の産業用AI機能を紹介した。デモンストレーションでは、新しい空港ターミナルの計画や建設、運用という架空のユースケースに焦点を当てた。実際の顧客である廃金属リサイクル企業のTomraや、電力および天然ガス企業のXcel Energyも登場し、生成AI機能の活用方法を示した。また、IFSが資産ライフサイクル管理のために買収したプラットフォームであるCopperleaf Technologiesと、フロントラインワーカー管理プラットフォームを提供するPokaにおけるAI機能が強調された。

サステナビリティは「良いビジネス」

 IFS Unleashedではサステナビリティも議題として挙げられた。「IFS Cloud Sustainability Management」は、コンサルティング企業であるPwCと共同で開発した新しいツールでIFS Cloud 24R2に組み込まれている。このツールは、顧客が持続可能性に関するデータを収集や追跡、管理することで、規制要件を満たし、業務効率を向上させ、循環型製造プロセスの実現をサポートできるように設計されている。この機能には、作業や輸送、流通で発生する廃棄物を分類する炭素排出量トラッカーなどの機能が含まれている。

 IFSのマーク・モファット氏(CEO)は基調講演で次のように述べた。

 「一般的に、二酸化炭素の削減やプロセスの最適化、生産性と稼働時間の向上、燃料消費量の削減といったアクションは良いビジネスにつながる。これは業界への行動喚起でもある。私たちが顧客のためにそれらを実現し、競合他社も同様の取り組みをすれば、どれほどの影響を与えられるか想像してほしい」

顧客のAI導入準備には依然として課題がある

 IFSは、産業用AIの実践的なユースケースを提供し、顧客やアナリストからおおむね好評を得ている。しかし、広範な導入に向けては、解決すべき課題や回答が必要な疑問が残っている。

 調査企業であるForrester Researchのリズ・ハーバート氏(アナリスト)は、IFSが実際の顧客からの意見を取り入れたユースケースを示したことを評価している。

 「多くのイベントでベンダーはユースケースのアイデアを示すが、顧客がそれをどのように使っているかについては触れられない場合が多い。特に産業用AIは業界のコンテキストなしでは効果的に稼働しないため、業界特化の要素はIFSにとって強みとなるだろう」(ハーバート氏)

 ハーバート氏によると、IFSは過去数年間でERPの基盤をオンプレミスからクラウド、AI機能へとシフトさせている。IFSは一部の顧客に対してオンプレミスのサポートを継続しているが、同社のこの移行能力は競争上の優位性となり得る。特に、SAPをはじめとする従来のERPベンダーが顧客のクラウド移行に苦労している中で、この点が優位性を発揮する。

 「これはIFSのような企業にとって大きなチャンスになる可能性がある。なぜならば、同じ分野にありながらコストがはるかに安いためだ。仮に、IFSが10億ドル以上の規模の企業で活用されていることを示せば、扉は開き始めるだろう」(ハーバート氏)

 テクノロジーコンサルティング企業のTechVentiveの創設者兼社長であるブライアン・ソマー氏は、「製品デモでIFSがAI機能をどのようにライフサイクル全体にわたって追加しているかが示された」と語った。計画や予測から調達や運用に至るまで、産業用AIの実用性に重点を置くことは、AIに対する誇大宣伝を打ち破る助けになると述べた。

 「IFSは、AIをどこに導入し、顧客とどのように取り組んでいるかを的確に示している」とソマー氏は言った。「AIを導入したと主張するだけでは不十分であり、顧客にとってアクセスしやすく、親しみやすく、実際に使えるものにすることが重要だ。空想に過ぎてはいけない」(ソマー氏)

 しかし、「顧客側が産業用AIを活用する準備がでどれほど整っているのかには疑問が残る」とも指摘した。また、IFSは利用可能な具体的な内容やコストについて詳細を明らかにする必要があるとも述べた。

 「概念は豊富だが、それを裏付ける明確なデータポイントが不足している。AI関連の技術はまだ新しいため、顧客には希望を与える必要があるが、それでも価値を検証し証明しなければならない」(ソマー氏)

 持続可能性についてもIFSが注力している分野だ。ヨーロッパでは既に重要な課題となっており、アジア太平洋地域でもその重要性が増しているとソマー氏は語る。「多くの企業がスコープ3の排出量について顧客やサプライヤーから質問を受け、その情報を提供する必要に迫られている。どのようなデータを収集する必要があるのかを理解するプロセスはまだ始まったばかりだ」と同氏は指摘した。

AIを実装する前にさらに詳細な情報が必要

 一方、コロラド州ボルダーのBAEシステムズでアプリケーション開発主任を務めるマーク・デアントーニ氏は、「IFS CloudとAIは間もなく登場するが、より詳細な情報が必要だ」と述べた。

 BAEシステムズは現在オンプレミスのIFS ERPシステムを使用しており、IFS Cloudへの移行とAI機能の導入を検討しているという。「産業AIには関心があるが、航空宇宙および防衛業界におけるAI利用には多くの課題がある。オンプレミスでAIが何をでき、何に接続しているのかを明確にする必要がある」と語った。

 持続可能性の課題はデアントーニ氏にとっても重要だ。同氏は「当社は以前、金属包装会社の子会社で、持続可能性への強い推進力があった。しかし、移行期の現段階ではまだ多くの課題が残っている。IFSの持続可能性ツールについて情報を収集しているところだ」と述べた。

 また、スコットランドの蒸留酒製造企業であるWilliam Grant & SonsのIT契約マネジャーであるトレバー・ダンカン氏も、IFSがクラウドとAIでどのような取り組みをしているかを知るためにIFS Unleashedに参加した。

 同社は現在オンプレミスのIFSを主要ERPシステムとして使用しており、2025年にはクラウドへの移行を開始する予定だという。「産業AIの情報は非常に興味深い。AIは日常業務でもますます話題に上るため、IFSの取り組みや方向性を知ることが重要だ。オンプレミスではまだ対応が進んでいないが、将来に向けて何が起こるのかを見極める必要がある。AIに関しては多くの不安や疑問があり、それに答える必要がある」と語った。

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