NECは2024年11月、高度な専門業務の自動化による生産性向上の実現を目指し、生成AIをはじめとするさまざまなAIやITサービスなどを連携させ、業務を自律的に遂行するAIエージェントを2025年1月から順次提供開始すると発表した。
同社のAIエージェントは、ユーザーが依頼したい業務を入力すると、AIが自律的にタスク分解し必要な業務プロセスを設計する。さらに、それぞれのタスクに最も適したAIやITサービスなどを選択し、業務を自動で実行するとしている。第1弾として、経営計画や人材管理、マーケティング戦略など、社内外の情報を包括的に検索し、意思決定が求められる業務のプロセスを自動化するサービスを提供する予定だ。
NECは課題として、「さまざまな企業や公共機関で、生成AIを活用した業務の効率化や自動化など、業務変革に向けた取り組みが始まっているが、実際の業務で生成AIを活用する場合、意図に沿った適切なプロンプトを作成したり、複数のAIを組み合わせたりしないと回答精度を上げられないといった課題が顕在化してきた。そのため、業務ごとに最適なAIを構築するアプローチが一般的だが、それには高度な専門知識、時間、コストが必要となる」と指摘。そうした状況を背景に、同社はさまざまなAIやITサービスなどを連携させ、業務を自律的に遂行するAIエージェントの開発に注力し、推進してきたとしている。
NECの取り組みについては、2024年12月2日掲載の本連載記事「AIエージェントが企業に与えるインパクトとは? NECの会見から考察」も参照していただきたい。
日立製作所は、現時点でAIエージェントと銘打ったソリューションとしては発表していないが、生成AIの取り組みについては「生成AIで深刻な社会課題となっている人手不足をカバーする」ことを最大の目標に掲げており、実質的にAIエージェントの実現に向けて注力している。その取り組みについて、2024年9月9日掲載の本連載記事「日立の『人手不足を生成AIで解消する』発言から改めて問う、“何のために生成AIを使うのか?”」から、同社のAIエージェントを見据えた考え方を抜粋して紹介しておこう。
同社は生成AIに対する期待の高まりとして、これまでとこれからの違いについて次のような見方を示している。
「これまでは生成AIへの期待として、生産性の向上や業務の効率化が挙げられ、それに対しては汎用知識を広く学習した汎用LLM(大規模言語モデル)の利用が適切だった。しかし、これからは人手不足の解消や技能継承の実現、競争力の強化が求められるようになる。それに対しては、それぞれの業務に合わせた業務特化型LLMの構築が必要となる」
その上で、生成AIの活用からDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが日本企業でどのくらい進展するかについて、次のように説明した(図4)。
「生成AIは2023年に広く知られるようになり、さまざまな業務領域で先駆けとなるユースケースが見られるようになってきた。当社としては、生成AIの活用によってオフィスワーカーやフロントラインワーカーの人手不足を解消できるように注力したい。さらに今後、各業務全体に変革を進めるためには、生成AIも含めたDXを推し進める必要がある。そのために当社が用意しているのが、(DX支援ビジネスモデルの)『Lumada』によるソリューションだ」
図4の右側に示されている「各業務全体のDX推進」は、まさしくAIエージェントの活用領域だ。
これまで見てきた4社の取り組みは、AIエージェントの活用で先行していると言えるだろう。最後に筆者の問題意識として挙げたいのは、「複数ベンダーのさまざまなAIエージェントが社内に混在するようになれば、やがてデータの管理や活用も含めてマネジメントの観点から収拾がつかなくなってしまうのではないか」ということだ。
筆者はこれを「AIマネジメント」の問題と提起したい。
この問題に対応するためには、どうすればよいか。そのソリューションとしては製品・サービスだけでなく、本来のマネジメントの観点からのコンサルティングやサポートも必要になるだろう。その役割を果たせるのは、複数ベンダーの製品・サービスを取り扱うITサービスベンダーではないかということで、今回、大手4社の取り組みを紹介した。
今後、本連載では4社のキーパーソンに「企業はAIマネジメント問題にどう対処していけばよいか」という根本的な観点から取材し、1社ずつ取り上げながら考察していきたい。ぜひご期待いただきたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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