使い方次第で業務に変革をもたらす生成AIも扱えるスキルがなければ宝の持ち腐れだ。効果的に活用するためには適切な従業員教育とチーム間での連携が求められる。本記事ではこれらを高いレベルで実現した企業の事例を紹介する。
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生成AIは過去2年間でIT戦略を作り変えてきたが、急速に変化するこの技術によって企業には変革への高度なアプローチが求められる。
保険会社のLiberty Mutual Insuranceは生成AIの動向を綿密に追跡していたが、同社の子会社であるLiberty Information Technologyのトニー・マロン氏(マネージングディレクター)はその進化のスピードに「幹部も驚かされた」という。
「われわれは慎重に試しながら取り組んでいた。しかし、ただむやみにユースケースを追いかけるのではなく、まずガバナンスや責任について考えることを重視した」とマロン氏は「CIO Dive」に語った。
同社は基盤を整えた後、OpenAIの「ChatGPT」の社内専用版「LibertyGPT」を導入して4万5000人の従業員が日常業務で生成AIを活用できるようにした。この際、効率的かつ責任ある利用を奨励し、ビジネス全体でデジタル感覚を養うためのトレーニングやワークショップ、ガイドラインを整備した。
マロン氏によると、現在従業員の約4人に1人がLibertyGPTを使用しており、1人当たり平均週1.5時間の業務時間を節約できている。保険商品の引受や請求、技術、マーケティングの各チームが要約やナレッジ管理にこのツールを活用している。
同氏は「従業員第一のアプローチを取った」と話しており、適切なスキルを適切なツールに合わせることに重点を置いたという。
「問題を最もよく理解している従業員こそが最適なプロンプトを作成し、LLM(大規模言語モデル)から望む結果を得られる」(マロン氏)
技術の導入が成功するかどうかは従業員のサポートに懸かっており、ただ生成AIを導入するだけでは不十分だとマロン氏は指摘する。
この点についてはテックリーダーのほとんどが同意している。オンライン教育コンテンツを提供するPluralsightのデータによると、ほぼ全てのIT専門家や経営幹部は、チームがツールの扱い方を理解していない場合、AI施策は失敗すると考えているという(注1)。業界を問わず、多くの企業が従業員の評価やスキルアップの機会提供、導入計画の策定を通じて、従業員のAIへの関心を高める努力をしている(注2)。
Liberty Mutual Insuranceは従業員がAIを使い始めやすいようにプロンプトライブラリを立ち上げ、ツールの効果的な使い方について従業員への教育を行った。
「最初のうちは多くの従業員が『Google』のような検索エンジンだと考えていた。そのため、単に指示を与えるだけではなく、結果を求めて問いを投げかける必要があると彼らに教えなければならなかった。これらは全く異なる考え方だ」(マロン氏)
同社は従業員によりLibertyGPTを活用させるためにユースケースのアイデアコンテストを開催し、2024年10月に開催された第10回「Ignite Hackathon」でもAIに焦点を当てた。
「短期的には従業員を教育し、興味を持たせることが重要だが、長期的には何千人もの従業員や何千もの取引に対応できるスケーラブルなアーキテクチャの構築を見据えている。このバランスを取るのは容易ではない」(マロン氏)
Liberty Mutual Insuranceは全社的なデジタルスキルの向上に取り組む中で、AI導入のスピードを速めるガバナンス基盤にも注力した。
同社の生成AIエコシステムには、従業員が技術をテストするためのサンドボックスや、ポリシー、手順を指導する「責任あるAI」作業グループ、自社で構築した実験プロセスなどが含まれている。
「われわれはここ数年、スケールを見据えた実験に多くの時間を費やした」とマロン氏は述べている。多数のグループがビジネスの異なる場面で同じようなことをするのではなく、価値の高いユースケースを狙い、チームで協力しながら取り組んだという。
マロン氏によると、技術チームは優先度の高いユースケースを「基盤となる機能」として集約し、同じことをしようとしている技術者のグループが利用できるように要約機能やQ&Aサービスを構築した。
同社のAI導入へのアプローチは部門間のサイロを解消し、チームを結束させ、協調することの重要性を示した。
「これはまるで、市場のように『能力のコレクション』を集めているようなものだ。それを各事業部門が活用し、実際にそれぞれのローカル環境やプラットフォームに組み込めるようにしている」(マロン氏)
(注1)AI initiatives fall flat without training, tech pros say(CIO Dive)
(注2)How CIOs gain employee buy-in on generative AI(CIO Dive)
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