「プラスのROIが見えるAI導入」を実現する方法は 調査から成功パターンを知るITベンダーの声

生成AI導入企業の6割以上が「プラスのROIを実感」し、全社的な展開を進め始めている。だが、全社展開には大きな「障壁」がある。壁を乗り越えて成長するには何が必要だろうか。

» 2025年02月20日 08時00分 公開
[佐藤 豊Dataiku Japan]

 本稿は、DataikuとDatabricksが世界のシニアAIプロフェッショナル400人を対象に実施した調査レポート「AIの“今”を探る」(注)から、日本のAI活用の状況について解説していきます。

注:調査期間:2024年4月17日〜5月14日、調査方法:インタビュー調査。


著者紹介

佐藤 豊(Dataiku Japan株式会社 取締役社長 カントリーマネージャー)

Dataiku japan佐藤豊氏

BIとビジュアルアナリティクスの専門家。データドリブン文化の醸成、DDDM(Data Driven Decision Making)の定着、データ活用の国際・地域格差を無くすことに情熱を注ぐ。

Tableau Japan株式会社カントリーマネージャー、株式会社セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 Tableau事業統括カントリーマネージャーとしての経験を経て2023年4月よりDataiku Japan株式会社にカントリーマネージャーに着任。データサイエンス・機械学習、AIの民主化を目指す。

好きな言葉は“Unleash”(解き放つ)。


生成AI投資企業の6割が「プラスのROI」を実感も、全社展開には障壁が

 今や生成AIは多くの企業にとって事業運営に不可欠な要素となっています。調査では、9割の組織が生成AIに投資しており、およそその半分の組織が、今後12カ月以内に100万ドル(約1億5000万円)以上を生成AIに投資する計画だと回答しています。

今後12カ月間の生成AI専用予算の有無(出典:Dataiku、Databricks調査「AIの“今”を探る」)

 日本でも生成AIへの関心は引き続き非常に高く、企業における積極的な活用が見られます。AIを経営戦略の一環として位置付け、中期経営計画に盛り込み、積極的に投資を進める企業も増えています。

 最近は生成AIだけでなく、目標に対して自律的に判断し実行する「AIエージェント」に注目が集まっており、企業における人材不足や超過労働に対する解決策として関心が寄せられています。

AI導入の効果とROI測定の問題はどうすれば解決できるのか

 調査によると、65%の組織が生成AIの投資から「プラスのROI」を実感しています。生成AIへの投資が経済的利益をもたらしていることが明らかになりました。

生成AI投資でポジティブな(プラスの)ROIを実感している組織は多い(出典:Dataiku、Databricks調査「AIの“今”を探る」)

 AI導入のROIは「適用対象をどのように設計し、目的を明確に定義できているか」に大きく依存します。データやAIを使うこと自体が目的になっていると、ROIを得ることも測定することも困難です。中期経営計画にAI活用を掲げているものの、具体的な適用領域や目標が明確でない場合などがこれに該当します。

 AIを導入して成果を上げている企業では、以下の例のように具体的な指標に基づきROIを測定しています。

  • マニュアル作業の削減: 従来手作業で行われていた業務の効率化
  • 予測からの乖離(かいり)削減: 需要やリスクの予測精度向上による乖離の減少
  • 期間の短縮: 業務プロセスのリードタイム削減

 このような目標を事前に明確に定義し、達成度合いを測る仕組みを組み込むことで、AIの導入効果を実感しやすくなります。導入初期に得られる小さな成功を積み重ね、経営層や現場のさらなる理解を得ることで、全社的な展開へとつなげられます。

上層部の理解と事業部門でのAI活用の広がり

 本調査でAIに対する上層部の理解が広がっていることが分かりました。調査結果によると、AIのリスクとメリットについてリーダーが理解していると答えた割合が、1年前の48%から2024年は56%に増加しました。

経営層のAIに対する理解度は高まっている(出典:Dataiku、Databricks調査「AIの“今”を探る」)

 この信頼の拡大が、生成AIの戦略的な導入を推進し、イノベーションを加速させ、組織の業績向上につながると予想されます。

1年前と比べて今回の調査結果では、企業全体でデータサイエンスやAIの活用範囲をより多くの事業分野に広げる動きが見受けられました。特に、以前は予測や機械学習のユースケースがなかった部門が、現在では生成AIの明確なユースケースを持つようになっています。

 例えば、人事部は人材獲得や従業員管理において生成AIを活用し、法務部はコンプライアンス業務の自動化や文書レビューの効率化に生成AIを活用しています。

日本のAI導入シナリオ、2つのパターン

 私の経験から、日本でのAI導入においては大きく分けて2つのパターンが見られます。

 一つは、問題意識を持つ部署が先行してデータやAIの取り組みを始めるケースです。製造業のR&Dや製品企画系、生産系などによく見られる傾向です。この場合、事業部内での展開となりますが、先進的なユースケースや事業の核となる領域で適用が進むことが特徴です。

 もう一つは、DX推進などの企業横断的な部署が全社的な取り組みとして人材を集約してAIを導入するケースです。

 どちらのケースも、いったん一つの成功事例が生まれると、経営層の理解とサポートとともに全社的な取り組みへと広がっていきます。他の先進国と比較すると全社的に展開する企業の割合はまだ少ない状況ですが、国内でも着実に取り組みが拡大しています。

企業が直面するAI導入の障壁と課題

 組織がデータや分析、AIからより多くの価値を引き出す際の障壁としては、「質の高いデータの不足、または適切なデータに容易にアクセスする能力の欠如」(58%)、「データ、分析、Alプロジェクトの迅速な運用やイテレーション(反復利用)ができない」(53%)が挙げられています。人材不足については、43%の回答者が障壁となると回答しています。

 これらの課題は日本でも顕在化しており、私が訪問する企業の多くでデータ分析やAI人財の不足が重要な経営課題として挙げられています。

 データ活用人材の育成に関して希望が持てる側面としては、日本はBIの幅広いユーザー層があり、データの扱いや分析に慣れている人材が多いことが挙げられます。また技術的な障壁を下げられる、ローコード/ノーコード型のデータ分析やAIモデル開発ツールを利用することで、データ活用人材の幅を広げ、数を増やすことが期待できます。また従業員のスキルアップやキャリアアップ支援の一環としてデータ人財育成プログラムを提供したり、社内でのコミュニティー活動や知見、ナレッジの共有をサポートしたりすることが企業のデータカルチャーを育み、人材の底上げに役立ちます。

 ただし、日本特有の課題として、企業が過去の成功体験に縛られて、新規提案やチャレンジを避ける傾向が挙げられます。AI導入に関して言えば、市場調査やPoC(概念実証)を繰り返して業務への適用が進まない場合もあります。これらの主な原因としては以下が考えられます。

  • データ分析やAIモデルの精度に過度にこだわる
  • 成功が完全に保証されたユースケース以外に着手しない
  • 現行業務プロセスの変更に対する抵抗感

 データ活用やAI導入は、トライ&エラーを繰り返しながら成果を積み重ねていくプロセスが不可欠です。プラスのROIを生み出すユースケースを開発するためにも、恐れることなく新たな取り組みを推進、奨励し、従業員がチャレンジしやすい環境を整備する必要があります。

結論:企業全体でAIの可能性を最大化するには

 グローバルにおけるAI活用の状況をかんがみると、多くの先行企業がAI導入による成果を確信して全社的な展開に進んでいる段階です。そのため、現在がまさにデータ活用やAI導入を推進するための最適なタイミングと言えます。特に、生成AIを活用した具体的なプロジェクトを全社的に展開することが、企業の競争力向上に直結していきます。まずは事業部の一部門からでも取り組みを進めていくことが全社的な導入につながります。

 AI導入は試行錯誤を通じて進化するものであり、トライ&エラーが不可欠です。経営者や企業の上層部が、データやAI活用の意義を理解し、新しい挑戦、人材育成を力強くサポートすることが重要です。このようなサポートが、企業全体の成功への道を開く重要な鍵となります。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR