Salesforceの新サービスから探る 「AIエージェント時代に人は何をやるべきか?」Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2025年03月31日 14時30分 公開
[松岡 功ITmedia]
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マーケターとして求められることとは

 Salesforceはマーケティング業務向けのアプリケーションとして、日本でも2014年から「Marketing Cloud」を提供してきた。三戸氏によると、「これまでの10年で日本でも多くのお客さまに利用していただいている。お客さまは蓄積したマーケティングデータを活用して顧客の理解を深め、パーソナライズされたマーケティングキャンペーンを展開している。さらには、そうした活動を当社のプラットフォーム上において、セールスやサービス、コマースなどのアプリケーションとも連携して効果を広げている」とのことだ。

 そんなプラットフォームにおいて、マーケティングそのものをさらに進化させるべく登場したのが、Agentforce for Marketingである。

 「マーケティングによって企業の成長を支える上で、テクノロジーの進化のスピードを考えると、顧客との接点は今後もっと増えるし、複雑化する。さらに接点が増えれば、それに伴って顧客データはますます膨大に膨れ上がる。そうした中で、マーケティング部門が企業の成長へ向けて進化するためには、マーケターがもっと顧客の期待に応える業務に集中できるようにしなければならない。あるいは、マーケターが保持する能力を最大限に発揮できるようにして、マーケター自身が進化することが求められる。AIエージェントはそんなマーケターの能力をもっと高め、これまで対応しきれなかった顧客への対応、さらにはマーケティング部門として継続的な進化を遂げるために、非常に重要なテクノロジーだと認識している」

 こう説明した三戸氏は、Agentforce for Marketingの価値について、次の3つの段階を挙げた。

 第1段階は、データの統合と活用だ。「全ての顧客体験を通して顧客生涯価値や売り上げの向上を目指すことができるよう、あらゆる企業や顧客データを統合し、マーケティングでの活用が可能になる」(三戸氏)

 第2段階は、マーケター業務の自動化だ。「マーケターの業務を支援、自動化し、マーケターが戦略やクリエイティブな仕事に集中することを可能にする」(同)

 第3段階は、一貫性のある顧客体験の提供だ。「人とAIエージェントが協業し、マーケティング、セールス、サービス、コマース間のシームレスなハンドオフにより、部門を超えたコネクテッドジャーニーを構築できる」(同)(図3)

図3 Agentforce for Marketingの価値(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

 同氏によると、第2および第3の段階へと進められるのが、Agentforce for Marketingの真骨頂とのことだ。キーワードは、マーケティング業務の「自動化」、そして部門を超えた「コネクテッドジャーニー」である。

 では、マーケターとAIエージェントが協業して成果を上げる上で、マーケターとして求められること、一方でAIエージェントができることとは、それぞれどんなことなのか。この点についてはAgentforce for Marketingの中身について説明したセールスフォース・ジャパンの由井晴菜氏(製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャー)が、それぞれ5つの段階を挙げた。

 マーケターとして求められることとしては、「ブランド認知とパイプの構築」から「営業がより多くの取引を成立させる」「顧客生涯価値の向上」「満足度の向上と解約の最小化」、そして「マーケティングROI(投資対効果)の証明とパフォーマンスの最適化」といった具合だ。

 AIエージェントができることとしては、「キャンペーンプランニングと作成の支援」から「見込み客へのアドバイスやリードの獲得、育成、ルーティングを自動的に行う」「次善のコンテンツ、製品、オファーを自動的に推奨」「24時間365日、あらゆるチャネルでプロアクティブなサポートを自動で提供」、そして「パフォーマンスを自律的に分析し、予算を最適化」といった点を挙げた(図4)。

図4 マーケターとして求められること、AIエージェントができること(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

 AIエージェントを提供するベンダーとしてこうした対比を示したのは、筆者の知る限り同社が初めてだ。先に紹介したAgentforce for Marketingの価値でマーケター業務の自動化を挙げた上で、マーケターとして求められることを示しているところに、同社としての思いが感じ取れた。

 Agentforce for Marketingの詳細については発表資料をご覧いただきたい。

自動化が進む世界で、人に求められる能力は?

 会見の質疑応答で、「Agentforce for Marketingはマーケティング業務のどれくらいの割合を自動化できるようになるか。自動化が進んだ場合、マーケターに一番求められる能力は何か」と聞いてみた。すると、由井氏が次のように答えた。

 「(AIエージェントができることの最初に挙げた)キャンペーンプランニングと作成については、既に8割の工数の削減という実績が上がっている。今後、マーケティング全体としても相応の割合の業務を自動化する可能性がある。そうした中で、マーケターの皆さんにはAIエージェントの意見も踏まえた上で、より戦略的な仕事を担っていただきたい」

 最後に筆者も一言述べておく。マーケターはホワイトカラーに分類される職種の一つだ。ホワイトカラーの業務がAIによってどこまで自動化が進むかについては、これまでの取材で「PCで扱える業務は全て自動化される」と言う人もいた。すなわちデジタル処理できる業務は全てが自動化の対象になるということだ。

 ただ、マーケターでいうならば、AIエージェントが煩わしい業務を代行するのを機に、初心に立ち返って「なぜ、マーケターになりたいと思ったのか。マーケターとして何がしたいのか」を自問自答してみてはどうか。これはどの仕事にもいえるが、そうして一生懸命考えて導き出したことこそが、「人としての矜持」ではないだろうか。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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