日本企業の半数が「仮想基盤」のモダナイゼーションに失敗する ガートナーが警鐘

VMware製品のライセンス変更により、ITインフラの見直しを迫られている企業は多い。こうした中、ガートナーは「日本企業の半数が仮想基盤のモダナイゼーションに失敗する」と警鐘を鳴らす。失敗しないために何をすべきか。

» 2025年04月30日 11時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 「2025年の崖」の本番を迎えたとも言える2025年。レガシーシステムを抱える企業はモダナイゼーション(近代化)にどのように取り組むべきか。

 特に、ITベンダーによるメインフレームのサポート終了や大手メーカーのライセンス変更、それに伴うソリューション提案内容の多様化により既存インフラの見直しを迫られている企業も多い。

レガシーインフラの「負の遺産」をどう解消すべき? 

 ガートナージャパン(以下、ガートナー)の見立てによると、「2026年末まで、日本企業の半数は仮想化基盤の近代化に失敗する」という。どういうことか。

 ガートナーには仮想基盤の中でも、特にサーバ仮想化基盤の維持や移行と、代替製品に関する顧客企業からの問い合わせが多数寄せられているという。

 VMware製品の市場占有率が圧倒的に高かったため、多くのユーザー企業はこれまでサーバ仮想化の選択肢を検討することがあまりなかった。VMware製品をこれまで利用してきた企業を念頭に、ガートナーは「近代化のための代替ソリューションの選択肢として挙げられるコンテナ、『Kubernetes』やHCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)、クラウドサービスでのVM(仮想マシン)インスタンスを含むコンピューティングの抽象化技術とそのトレンドについての理解に遅れが見られ、合理的な判断に時間がかかっている」と分析する。

コスト増や重大インシデント発生の恐れ

 オンプレミスの仮想化基盤の移行先としてクラウドサービスを選択する企業も多い。しかし、ガートナーによると、クラウド移行が既存システムやアプリケーションをただ移行するだけの「リフト」にとどまり、「最適化」「シフト」には至らないケースが多い。この場合、コストが増えるとガートナーは指摘する。

 既存の仮想化基盤にフォーカスして代替テクノロジーを採用したとしても、オペレーションの変更が追い付かず、ユーザー企業に代替テクノロジーに関するスキルやケイパビリティが不足しているために「重大インシデントに見舞われる恐れがある」と注意喚起する。

 ガートナーの青山浩子氏(ディレクター アナリスト)は「オンプレミスの仮想化基盤の近代化を狙うには、そのアプリケーションの近代化とワークロードの再配置までを視野に入れて検討することが重要になる。併せて技術的にレガシー化、老朽化しているものは削減、廃止を検討すべきだ」と説明する。

ITインフラでもAIが重要に

 ガートナーは「2028年末までに日本のIT部門の70%は、オンプレミスインフラの老朽化対応で予算を超過し、経営層から厳しく追及される」という仮説も立てている。

 「いつも通り従来通りであるから安心・安全」「これまでは特に問題が起きていない」「ITシステムの標準化によって複雑さを避ける」「現在、手に負える範囲にとどめる」といった前例にならった説明や「(旧来の)常識的な」対応では、モダナイゼーションを進めるためのIT投資を「正当化」できなくなっているというのがガートナーの見立てだ。

 従来型のITインフラは「枯れたテクノロジー」を使った基盤であったため、インフラストラクチャとオペレーション(I&O)部門にとってはコスト低減が第一のミッションだった。

 しかし、AIや生成AIの実装はインフラレイヤーにも及ぶ。AIや生成AIへの投資マインドが高まっている今、経営層はレガシーインフラの維持や保守に数十億円の固定費をかけるよりも、新たなビジネスを支える新興テクノロジーへの投資を増やしたいと考える傾向にあるとガートナーは分析している。

 レガシーマイグレーションにかかる費用は高額で、改修期間の長期化も見込まれるのが一般的だ。一方、ガートナーが2024年12月に発表した「2025年CIOとテクノロジーエグゼクティブのアジェンダ」の調査レポートでは、レガシーインフラや旧来のスタイルのオンプレミス環境で長きにわたって使い続けてきたデータセンターテクノロジーに対しては、日本企業のCIOの50%が2025年に投資を減らす意向を示していることが明らかになっているという。

 「I&Oリーダーは、今後、老朽化対策をIT部門だけで進めるのではなく、新興テクノロジーへの投資も含めて、経営層やビジネス部門と対話して進めることが重要だ。“断捨離”を実行し、IT投資とコスト最適化のプロセスをサービス運営の視点に立って標準化することが求められる」(青山氏)

 そのためオンプレミスがITインフラの主流だった時代の常識や既成概念から脱却し、オンプレミスかクラウドかに関係なくAIや生成AIを活用したプラットフォーム戦略に転換することがI&Oリーダーには求められていると青山氏は提言する。レガシーインフラという負の遺産を戦略的にどう解消し、次世代インフラに進化させるか。「戦力外通告を待たず、ITインフラの近代化にどう取り組んでいくかが今後の企業の存続に関わる」とガートナーは説明する。

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