生成AIの「PoC地獄」、脱出できない企業の共通点は?CIO Dive

生成AIの活用が進む中で、効果の高いユースケースを生み出す企業と足踏みが続く企業がある。2023〜2024年の試行錯誤から導き出されたシンプル、かつ納得の「PoC地獄脱出の方策」とは。

» 2025年05月15日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]
CIO Dive

 多くのCIO(最高情報責任者)は、一時的な“訪問者”以上の存在として生成AIを歓迎した。

 好むと好まざるとにかかわらず、生成AIはクラウドプラットフォームやソフトウェアパッケージ、PCに急速に広がり、チャットbotやAIアシスタント、最近ではエージェント型ツールにも搭載されている(注2)。

PoCから前に進めない企業の共通点は?

 コンサルティングサービスを提供しているBoston Consulting Group(以下、BCG)のアマンダ・ルーサー氏(マネージングディレクター兼パートナー)は、2025年3月12日(現地時間)に開催された「CIO Dive」のオンラインイベントで次のように語った。

 「われわれはあらゆる場面でAIを活用している。さまざまなツールを開発してきたが、今はそれらをチームの一般メンバーの業務フロー全体に統合しようとしている」

 こうして幅広い業務内容、多くの従業員に利用が拡大する企業がある一方で、一部の企業は果敢な取り組みにもかかわらず、いつまでたっても限られた用途、一部の従業員による利用から前進できずにいる。この明暗を分ける要素は何だろうか。

 KPMGも生成AIを活用している。KPMG U.S.のティケ・ティケ・チョー・ソー氏(アドバイザリーデジタル部門マネージングディレクター)は同イベントで「当社は、生成AIがどこでどのように効率向上をもたらしているのかを注視している」と述べた。

 「われわれは、業務の進め方や構築の考え方の全体プロセスに生成AIを統合している。また、社内のどこに価値を生み出せる可能性があるのかについて、厳しく見極めようとしている」(チョー・ソー氏)

 生成AIは手軽に導入できるように見えるが、安全かつ収益性のある形でスケールさせるのが非常に難しい。ユーザーと同じ自然言語で対話できるといった親しみやすさがある一方で、LLM(大規模言語モデル)の豊富な語彙力を企業のユースケースに生かすのは容易ではない。

 オンライン学習プラットフォームを提供するPluralsightによると(注3)、多くの企業が短期的かつ戦術的に生成AIの導入を進める一方で、戦略的な導入計画の実行に苦戦している。ベンダー各社が生成AIを搭載した自律型エージェントを次々と展開する中、クラウドベースの統合プラットフォームを提供するSnapLogicの最新調査では(注4)、ITリーダーの間でデータセキュリティやプライバシーに対する懸念が依然として根強いことが明らかになった。

 スキル向上への取り組みが続いているにもかかわらず、AI人材不足は依然解消されず、生成AI導入を阻む要因になっている。

 BCGやKPMGのようなITコンサルティング企業は、社内での活用を拡大しながら業務に利用できる企業向けAIツールの開発を進めている。

 ルーサー氏によると、BCGの従業員の約80%が生成AIを毎週活用している。同社では、この技術を活用して社内のナレッジ検索ツールを強化し、社内プレゼンテーションやレポート作成用のコンテンツ生成アプリケーションも開発したとのことだ。

 BCGのテキサス州オースティンのオフィスでは、生成AIのさらなる活用を促進する取り組みが進んでいる。ルーサー氏は「月例の全社ミーティングで『生成AIの時間』を設けている。その月に生成AIを使って業務を効率化した事例を、誰かが前に出て紹介している」と述べた。

「重要なのは何をやるかよりも、何をやらないか」

 生成AIの導入プロセスにおいて、誤ったスタートや失敗に終わったパイロットプロジェクトは痛みを伴う。情報サービスを提供するS&P Global Market Intelligenceの最新レポートによると(注5)、平均的な企業は2024年に、AIに関連するパイロットプロジェクトの約半数を本番運用前に中止していた。

 直感に反するかもしれないが、CIOは時には失敗を受け入れ、AIの取り組みを幾つかの有望なユースケースに絞るべきだ。

 「陳腐に聞こえるかもしれないが、こうした取り組みにおいては失敗をたたえることも大切だ」(ルーサー氏)

 チョー・ソー氏もルーサー氏の意見に同意して、次のように語る。「『失敗』という言葉を聞いただけで不安になる人もいるが、それでいい。さまざまな方法を試すことが大切だ。うまくいくものもあれば、そうでないものもある」

 BCGの調査によると、生成AIをうまくスケールしている企業はPoC(概念実証)の数をある程度絞り込んでいることが分かった。ルーサー氏によると、AIで解決したい課題を3〜4個に絞って取り組む企業は、10件以上のパイロットプロジェクトを同時に進める企業と比べて、成功する可能性が倍になるという。

 「2023年が『PoCだらけの年』だったとすれば、2024年はそれを整理して本当に重要なポイントに焦点を当てようとする年だった。何をやるかよりも、何をやらないかが重要だ」(ルーサー氏)

 AIを活用したチャットbotやAIアシスタントを導入する際には、従業員の納得と受け入れが不可欠であり、それを当然のことだと考えるべきではない。CIOは、新しい技術には習得のための学習曲線があることを認識する必要がある。「たとえ小さなことでも、最初は難しく感じるものだ」(チョー・ソー氏)

 「われわれが直面しているのは、次のような声だ。『チャンスをもらっていると理解できるが、最初に何を聞けばいいのかが分からなくて困っている』。このように感じる人が多いのだ」(チョー・ソー氏)

 より広範な関係者の意見や感情は、導入のスピードを迅速化させることもあれば、遅らせる要因にもなり得る。

 CFO(最高財務責任者)が売掛金管理におけるAI活用に前向きであれば、そこから導入を進めるのが適切なアプローチだ。「開いているドアから入ろう。仮に、最終的なユーザーである上層部がAIでできることに興味を持っていないのなら、それは苦しい戦いになるだろう」(ルーサー氏)

原注:この記事は、2025年3月に開催された「CIO Dive」のバーチャルイベントで得たインサイトに基づいて作成されている。各セッションはオンデマンドで視聴できる(注1)。

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