製造業の米国回帰はホンモノか? IBMがメインフレーム製造拠点を強化CIO Dive

IBMが、最新のメインフレームの製造設備を含む、米国での多額の投資計画を発表した。「トランプ関税」によるIT投資への影響が懸念される中、この計画を発表したIBMの思惑とは。

» 2025年06月03日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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 IBMは2025年4月28日(現地時間、以下同)の発表で(注1)、今後5年間で、米国を拠点とするテクノロジー分野の取り組みに1500億ドルを投資する計画を明かした。同計画には、メインフレームおよび量子コンピューティングの研究および開発、製造を推進するための300億ドルの投資が含まれている。

米国での製造拠点強化を発表したIBMの思惑は?

 IBMのアービンド・クリシュナ氏(会長兼社長 兼 CEO)は、同計画について次のように述べた。

 「当社は114年前の創業以来、米国における製造と雇用創出に注力してきた。今回の投資と製造への取り組みによって、コンピューティングとAIの分野において、IBMが最も先進的な企業であり続けることが確実になるだろう」

 いわゆる「トランプ関税」によるIT投資への影響が懸念される中、この計画を発表したIBMの思惑とは。

 2025年4月、IBMはメインフレーム「z17」の販売サイクルを開始した。z17は同社の長年にわたるZシステム製品ラインの最新世代だ。AIワークロードの実行を目的に設計されており、2025年6月18日から一般提供が開始される予定だ(注2)。

 IBMの今回の大規模投資は、米国の貿易政策によるIT投資への影響が懸念される中で実施された(注3)。企業のCIO(最高情報責任者)は、裁量権のある支出への即時的な影響を慎重に見極めようとしている。

 ドナルド・トランプ米大統領が2025年4月2日に提案した大規模な輸入関税は市場を動揺させ、サプライチェーンの混乱や景気後退への懸念を呼び起こした。トランプ大統領による関税施策を受けて、GPU製造の大手であるNVIDIAは独自の投資計画を打ち出し、台湾積体電路製造(TSMC)やFoxconn、Wistron、Amkor、Siliconware Precision Industriesと提携して、アリゾナ州とテキサス州に半導体製造工場を建設するために最大5000億ドルを投資すると表明した(注4)。

 政権は一部の関税を保留し、さまざまな電子部品に対して一時的な免除措置を講じた。それにもかかわらず、アナリストは2025年のIT支出予測を下方修正した(注5)。

 クリシュナ氏は、2025年4月23日に開催された2025年の第1四半期の決算説明会で「年初の3カ月間に顧客の購買行動に大きな変化は見られなかった」と述べた。ただし、同氏は経済の不確実性が今後の投資減速につながる可能性があることも認めた(注6)。

 また同氏は「マクロ経済の環境が悪化した場合、当社のポートフォリオには変動が大きくなり得る分野がある」と述べ、コンサルティングサービス領域における顧客の調達に関して、裁量権のある支出を削減する可能性に言及した。

 クリシュナ氏によると、IBMのサプライチェーンは関税の影響を大きく受けにくい構造になっており、同社の支出に占める輸入の割合は5%未満だという。「関税の影響を緩和するために、代替調達先やその他の戦術を戦略的に検討している」(クリシュナ氏)

 技術製造の米国回帰は前政権時代に大きく推進され、2022年の「CHIPS and Science Act」(チップス・アンド・サイエンス法)によって勢いを増した(注7)。この法律により、米国の半導体製造に330億ドル以上が投じられた。

 IBMが発表した今回の投資は、ニューヨーク州ポキプシーにある同社のメインフレーム製造施設を含む工場の強化に充てられる予定だ。

 IBMは2025年4月28日の発表で「世界中の全取引額の70%以上が、米国で製造されたIBMのメインフレームを通じて処理される」と述べた。IBMは2025年の第1四半期におよそ20億ドルを研究開発に投じ(注8)、前会計年度には約75億ドルを費やした(注9)。同社は2024年における総費用およびその他の収益を300億ドル未満と報告している。

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