総務省は2025年版「情報通信白書」で、AI技術の進展やデジタルインフラ化の現状、海外企業の影響、日本の対応状況を分析した。大規模言語モデルの競争激化や国内開発の動向、活用格差、国際比較などを紹介している。
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総務省は2025年7月8日、令和7年版「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)を公表した。本白書は、昭和48年の初回発行以来53回目となる。今回の白書では特集として「社会基盤としてのデジタル」の拡大を主題に据え、AIの技術開発動向やデジタル分野における海外事業者の存在感、国内の対応状況などを取り上げている。
白書ではスマートフォンやクラウド、SNSなどが社会生活や企業活動に深く浸透し、「デジタル」がインフラ的な存在になりつつある現状を分析。AIや海外プラットフォーム企業の影響力の高まりを踏まえ、日本社会がどのようにこれらの変化に対応すべきかを分析している。また国内外のICT産業動向、通信や放送政策の現状、総務省の取り組みなど、情報通信政策全体を網羅的に整理している。
白書では人工知能(AI)に関する動向や課題が取り上げられている。2024〜2025年にかけて、AI技術の進展は一段と加速し、特に大規模言語モデル(LLM)の開発競争が世界的に激しさを増している。こうした流れの中、推論性能に優れたモデルや、効率性を重視した小型モデルの開発も進み、AI開発の多様化が進展している。
2024年9月にはOpenAIが「OpenAI o1」という数学などの分野に特化した新モデルを発表し、その性能は東京大学の入試合格最低点を上回ったと報じられた。2025年1月には中国のAIスタートアップ企業DeepSeekが「DeepSeek-R1」というモデルを公表し、同モデルの発表は半導体企業の株価下落を引き起こすなど、市場にも大きな影響を与えた。
こうした超巨大モデルに対し、ローカル環境での活用やセキュリティ上の観点から、より小規模ながら高性能なモデルの需要も高まっている。Microsoftが2024年12月に発表した「Phi-4」は、140億パラメーターという比較的コンパクトな構造ながら、複雑な推論にも対応できる性能を有している。
こうした技術進展により、2018年以降のLLMのパラメーター数は爆発的に増加している。「GPT-2」のパラメーター数は15億だったが、「GPT-3」では1750億にまで増え、近年の「Switch-Transformer」や「悟道2.0」では1500億を超えるパラメーターを搭載している。現在では数百億〜千億超のパラメーターを搭載するモデルが主流となりつつあり、10〜20億程度の小型モデルの研究も活発化している。
国内でもLLMの開発は加速している。産業技術総合研究所と東京科学大学の研究グループは、Metaの「Llama3.1」をベースに日本語性能を強化した「Swallow」を開発。富士通とカナダのスタートアップCohereが共同開発した「Takane」は、日本語性能で当時の世界最高記録を達成したとされる。サイバーエージェントが独自に開発した「LM3-22B-Chat」は、Metaの70Bモデルに匹敵する日本語性能を有する。Preferred Networksも1000億パラメーターを搭載する「PLaMo-100B」やその軽量版を相次いで開発し、「GPT-4o」などを上回る性能を記録したとしている。
ただし、AIの活用については日本は依然として主要国に大きく水をあけられている。個人レベルにおいて、日本では生成AIを使った経験がある人の割合は2023年度は約3倍に増加し、2024年度には26.7%に達した。特に20代の若年層では利用経験者が約45%と高い水準にある。しかし中国(81.2%)や米国(68.8%)、ドイツ(59.2%)と比べて依然として低い傾向にある。
企業においても生成AIの活用方針を定めている割合は増加傾向にあり、2024年度の調査では全体の約50%と前年から7ポイント増加した。しかし大企業では約56%が方針を策定しているのに対し、中小企業では34%にとどまっており、企業規模による対応の差が顕著だ。
国際的に見れば、日本企業は生成AIの活用に関して依然として消極的とされている。中国では48.5%の企業が「積極的に活用する方針」と回答し、米国やドイツでは39.2%が同様の回答を示している。日本ではその割合は23.7%にとどまっている。「方針を明確に定めていない」(31.8%)、「わからない」(14.2%)と答える企業も多く、他国と比べて戦略面での遅れが目立つ。
総務省は今回の白書を通じて、AIをはじめとするデジタル技術の進展が社会にもたらす恩恵やその影響について制度面や倫理面の整備、リテラシー向上の必要性を指摘している。日本がデジタル先進国としての地位を築くには、技術開発と社会実装の両輪を強化することが急務といえる。
白書は総務省のWebサイトで公開されており、今後はHTMLやEPUB形式、電子書籍、英語版、子ども用のWebページ「情報通信白書 for Kids」としての展開も予定されている。
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