図4が、Zoomが提供するワークプラットフォームの全体像だ。左の「Zoom Workplace」はEX(エンプロイエクスペリエンス:従業員体験)領域、右の「Business Services」はCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)領域に向けたソリューションで、その全体を同社の生成AI機能「Zoom AI Companion」(以下、AIコンパニオン)が包み込む形を描いている。
図4を示した深海氏は、「これからのAIの重要な役割は、人と人のつながりを再構築することではないか。そのためにさまざまな業務を支援して生産性を向上させ、組織全体のレベルアップを図り、収益の拡大へとつながるソリューションを提供していく。これにより、人々が一層つながりながら、より重要なことに集中できるようにしていきたい」と力を込めた(図5)。
また、深海氏はAIコンパニオンの進化について、図6を示しながら次のように説明した。
「当初はZoomミーティングの内容を要約して議事録を作成するという『個人の能力を拡張』することから始まった。バージョン2.0では、生成AIによって『業務を効率化』できるようになった。そして、これからはエージェント型AIとして『仕事の価値向上をサポート』していく」
さらに、AIコンパニオンにおけるエージェント型AI機能の特徴として、「推論」「記憶」「タスクアクション」「オーケストレーション」の4つを挙げた(図7)。
この4つの特徴のうち、オーケストレーションは他のAIエージェントとつながって管理、活用できるという、AIエージェントの世界では重要なキーワードになっている機能だ。
実際に、Zoomは2025年7月9日(現地時間、以下同)、AIコンパニオンがServiceNowやBoxなど16社の業務アプリケーションと新たに連携して相互のAIエージェントをやり取りできるようにしたことを発表した。この動きはまさしくオーケストレーションへのステップと見て取れる(図8)。
改めて、今回のキーワードであるパーソナルエージェントとは、個人に帯同して個人が行うさまざまな作業を自律的にこなすAIエージェントのことだ。AIエージェントについては、業務アプリケーションベンダーをはじめ、ハイパースケーラーやITサービスベンダーなどが、それぞれのスタンスでソリューションを打ち出しており、ユーザー企業では必要に応じてそれらを個別に使う形で活用され始めている。
パーソナルエージェントはそうした動きとは別に、個人向けとして、さまざまなAIエージェントがつながるオーケストレーションの世界において、まさしく人と業務ごとのAIエージェントをつなげる「窓口役」になると見られている。
今はまだその存在は明確になっていないが、有力なのは既に生成AIとして数多く使われているOpenAIの「ChatGPT」やMicrosoftの「Copilot」がエージェントに進化した形だろう。Microsoftは今春にCopilotのエージェント化を打ち出し、今後、着実に移行させる考えだ。OpenAIも2025年7月17日に「ChatGPT agent」を発表した。この動きはまさしくパーソナルエージェントの座を狙っているといえるだろう。
さらに、こうした生成AIツールでなくても、業務アプリケーションとして広く使われているコミュニケーションツールが起点となったAIエージェントならば、パーソナルエージェントになり得るのではないかというのが筆者の見方だ。その有力な提供元の一つが、Zoomというわけだ。
Zoomに期待したいのは、同社のパーソナルエージェントが広く使われるようになれば、新たな働き方改革につながるのではないかということだ。これは、深海氏の「これからのAIの重要な役割は、人と人のつながりを再構築することではないか」との発言から着想した。パーソナルエージェントをはじめとしたAIエージェントは「人と人のコミュニケーションの“潤滑油”」といった捉え方もあるのではないか。今回の取材でそう感じた。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
AIエージェントはCX分野をどう変えるのか? AIを実装したZoomから探る
もう元には戻らない、これからの働き方とは――Zoom日本法人の「働き方改革」イベントから読み解く
生成AI時代にZoomはどう変わるのか? Zoom Communicationsに社名変更後の動き
なぜ“様子見は禁物”か? IBMの戦略から探る「ユーザー企業はAIエージェントをどう採用すべきか」Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.