Gartnerは2025年の行政サービスのハイプ・サイクルにおいて、ソブリンAIとAIエージェントを中核技術と位置付けた。各国政府がテクノロジー主権や市民対応の自動化を推進する中、日本でも導入が進むと予測される。
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ガートナージャパン(以下、Gartner)は2025年9月9日、行政分野のAI導入をけん引する重要なテクノロジーとして「ソブリンAI」と「AIエージェント」を挙げた。同社のレポート「行政サービスのハイプ・サイクル:2025年」では両技術が「過度な期待」のピーク期にあるとされ、今後2〜5年以内に導入をけん引するとの見解が示されている。
Gartnerのハイプ・サイクルは、技術やアプリケーションの成熟度、普及度合い、それらが実際の業務課題や新たな機会創出にどう関連するかを視覚化した枠組みだ。
Gartnerが今後有力とするイノベーションには、ソブリンAIとAIエージェントの他、プロンプト・エンジニアリング、マシン・カスタマーなども含まれる。前者は2〜5年以内に、後者は5〜10年以内に主流採用に至ると見込まれている。
公共機関におけるソブリンAIは、国家が自国の目的に基づき独自にAIを開発、活用する取り組みを指す。行政運営の自動化、従業員エクスペリエンスの改善、市民エンゲージメント強化などが期待されており、Gartnerは2028年までに世界の政府機関の65%が外国の影響から独立性を確保するため、テクノロジー主権に関する要件を導入すると予測している。
AIエージェントとは、デジタル空間および現実世界の環境を認識し、自ら意思決定し行動する、自律型または半自律型のソフトウェアを指す。公共機関でのAIエージェントは市民からの申請受付、法令の解釈、定型作業の処理といった領域で導入が進むとみられており、2029年までに世界の政府機関の60%が市民とのやりとりの半数以上をAIエージェントで自動化すると推計されている。
プロンプト・エンジニアリングは生成AIモデルに対し入力を設計する技術であり、応答の品質や信頼性を高める。公共機関がAIの効果を引き出すには、この分野に投資し、再利用可能なプロンプトを蓄積することが有効とされる。
マシン・カスタマーは、人間に代わりサービスや製品を購入する非人間の経済主体だ。Gartnerは2030年までに、B2B分野のマシンが30億台から80億台に増えると予測している。公共機関は認証や規制、サービス提供の枠組みを整備する必要があり、既存の行政モデルの見直しが迫られる可能性がある。
バイスプレジデントアナリストのディーン・ラチェカ氏は、公共セクターが直面している状況について、市民の要求水準の高まりや地政学的な不確実性、限られた資源で成果を上げる必要性を指摘した。その上で、AIエージェントを活用すればこれらの課題に対応できるが、実現には「イノベーション目標」と「政府機関の広範な優先課題」との間にある隔たりを埋め、投資がサービスや信頼、レジリエンスの向上につながるよう調整する必要があると述べる。
日本市場に関して、ディスティングイッシュトバイスプレジデントアドバイザリーの松本良之氏は、限られた予算や人員の中で多様化する市民ニーズに応えるには、効率化と信頼性の両立が不可欠と指摘。その中でソブリンAIは、セキュリティや規制、データ主権の観点から公共機関にとって戦略的な選択肢になり得るとした。日本の行政現場での導入に当たっては、現場の実情と制度的要請を組み合わせたアプローチが求められるという。
Gartnerは公共機関におけるAI導入の方向性を提示し、その中でソブリンAIおよびAIエージェントを中心的な位置付けと捉えている。今後、各国政府や自治体がどのように取り組みを実施するかが注目される。
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