OpenAI長崎氏が語る、日本企業のAI導入の“劇的な変化” Snowflakeイベントで語られた未来像Snowflake World Tour Tokyo 2025

「Snowflake World Tour Tokyo 2025」に登壇したOpenAI Japanの長崎忠雄氏は日本企業におけるAI導入の変化と、今後の展望を語った。データ基盤の整備とAI実装が企業競争力の源泉となる時代に、IT部門は何から取り組むべきか。

» 2025年09月22日 08時00分 公開
[平 行男, 編集:村田知己合同会社スクライブ]

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 Snowflakeは2025年9月11〜12日に「Snowflake World Tour Tokyo 2025」を開催し、世界20都市以上で開催される同イベントの中で最大規模となる1万人以上の参加者を集めた。同イベントでは90以上のセッション、30以上の顧客事例が紹介され、企業のデータ戦略とAI実装の具体的な道筋が明らかになった。

ラマスワミCEOが示すSnowflakeの戦略

Snowflake スリダール・ラマスワミ氏(出典:筆者撮影)

 基調講演の最初に登壇したSnowflakeのCEO、スリダール・ラマスワミ氏は、同社の使命を「全ての組織がデータとAIによってその潜在能力を最大限に発揮できるよう支援すること」と定義した上で、「Snowflake」によるAI活用の実績を強調した。

 「6000以上のお客様がSnowflake AIと機械学習を週次ベースで活用しています。前四半期に展開されたユースケースの約4分の1にAIが含まれています」(ラマスワミ氏)

 同氏は「データ戦略なしにAI戦略なし」という考え方を提示し、「データはAIの燃料です。Snowflakeはプライバシーやセキュリティを妥協することなく、サイロを越えてデータへの流動的なアクセスを可能にします」と述べ、強固なデータ基盤の必要性を訴えた。

 日本企業の成功事例も紹介された。NTTドコモは全社のデータプラットフォームをSnowflakeに構築し、マーケティングとモバイルネットワーク分析の基盤を開発。ビジネスチームが「Streamlit」とモダンアナリティクスツールを使用して日常分析を自分たちで実行し、集中レポートを待つことなく、最前線でのデータ駆動型意思決定を推進している。

 富士フイルムは270以上のグループ会社でデータを統合し、生成AIを活用して経営陣の意思決定を促進している。塩野義製薬は「Healthcare as a Service」(HaaS)という野心的なビジョンの実現に向けて、大規模データ分析を30%から70%高速化し、研究とイノベーションを推進。「これらの企業事例は、強固なデータ基盤があってこそ可能になるものです」とラマスワミ氏は総括した。

SnowflakeにおけるAIデータクラウドの4つの主要機能を説明するラマスワミ氏

 続いて、日本企業のデータ活用事例も対談形式で紹介された。全日本空輸の加藤恭子氏(上席執行役員 グループCIO デジタル変革室長)は、同社がグループ横断的なデータマネジメント基盤「BlueLake」の中核にSnowflakeを採用し、4万人の全社員によるデータ活用を推進していることを説明。データは時間とともに価値が劣化するため、適切なデータマネジメントが重要だと強調した。

 dentsu Japanの松永久氏(データ&テクノロジープレジデント)は、Snowflakeを活用した企業間データ連携基盤「Tobiras Shared Garden」について紹介した。日本の企業間データ連携率が25%と欧米の80%に比べて大きく遅れている現状を指摘し、Snowflakeの特性を生かして安全なデータ連携を実現していると述べた。

OpenAI長崎社長が語る日本のAI戦略

OpenAI Japan 長崎忠雄氏

 基調講演後半では、OpenAI Japanの代表執行役社長を務める長崎忠雄氏がSnowflakeのAPJプレジデント 兼 会長執行役員、ジョン・ロバートソン氏との対談で、日本におけるAI活用の現状と未来について詳細に語った。

 長崎氏は日本市場について、「AIが日本を根本的に変える力を持っていると確信しています。労働人口減少に悩む日本にとって、AIテクノロジーを社会の隅々まで実装することが、GDP世界4位を維持し続ける唯一の道だと考えています」と語った。

 日本企業のAI導入への姿勢については、この1年で劇的な変化が起きているという。長崎氏が2024年3月にOpenAIに入社して以来、多数の日本企業トップと対話する中で実感したのは、経営課題と紐づいていないPoC(概念実証)ばかりが行われている状況だった。しかし、わずか1年で「ChatGPT」の利用者数は世界全体で4倍以上に増加し、日本でも「ChatGPT Enterprise」を導入する企業が急速に拡大。現在では業種・業務を問わず、あらゆる領域でAIが実際の業務フローに統合され始めている。

 特に重要なのは、AIそのものの進化だ。「1年前のChatGPTは単なるチャットツールでした。しかし今のChatGPTはAIエージェントです。つまり、何かタスクをお願いしたら、自分に成り代わって処理してくれる。しかも、コネクターを使うことで、企業が持っているデータと簡単につなぐことができます。ここでデータが非常に重要になってくるのです」と長崎氏は説明する。

 活用例として経営計画策定プロセスの革新が挙げられた。従来1週間から1カ月を要していた中期経営計画の作成が、ChatGPTの「Deep Research」機能と企業内データの連携により、わずか5〜10分程度で数十ページの詳細なレポートとして完成する。ChatGPTが必要に応じてPythonを自動実行し、データ分析やチャート作成まで処理する。

 長崎氏はセキュリティと信頼性についてのOpenAIの姿勢についても語った。同社は「安全、責任、信頼」を最重要視しており、「GPT-5」の発表前には数カ月にわたって安全面を検証した。悪意のある使用やジェイルブレークへの対策など、社内だけでなく第三者の認証機関とも連携して徹底的に検証したという。日本企業の「データを国内で処理したい」という要望に応えるため、ログデータの日本国内での処理が始まり、今後は推論処理も日本国内で実行できるよう準備を進めている。

 今後の展望について、長崎氏は「AIが組織のOSになっていく」と語る。製造ラインやロボティクス、その他のあらゆるビジネスプロセスに統合され、AIが企業活動の中核となる。業種や職種の垣根を越えて、自然言語で誰もが高度な業務を遂行できる時代が到来するとのビジョンを示した。

 長崎氏は企業のIT部門リーダーへの提言として、理論より実践の重要性を強調した。

 「最新のAIツールを実際に使ってみて、その可能性を肌で感じることが重要です。何かを作り込む必要はありません。ただChatGPT Enterpriseを使うことで、組織全体が“AI-ready”になる。これが競争優位性確立への最短の道だと思います」

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