国産LLMのデータ不足に対応できるか NVIDIA、日本文化と統計を反映したデータセット「Nemotron-Personas-Japan」を公開AIニュースピックアップ

NVIDIAは日本社会を反映した合成データセット「Nemotron-Personas-Japan」を公開した。人口統計や文化的背景に基づく600万以上のペルソナを含み、プライバシーを保護しつつ多様で公平なAI開発を支援する基盤となる。

» 2025年09月29日 08時00分 公開
[後藤大地有限会社オングス]

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 NVIDIAは2025年9月23日(現地時間)、合成データセット「Nemotron-Personas-Japan」を公開した。日本の人口動態や地理的背景、文化的特徴を幅広く反映した初のオープン合成データセットとされ、「CC BY 4.0」ライセンスの下で提供される。個人情報を含まず、プライバシーを保護しつつも、日本社会を反映したAIシステムの開発に利用できる基盤を提供するデータセットとなっている。

日本語AIの精度向上へ、NVIDIAが600万ペルソナ公開

 Nemotron-Personas-Japanは、NVIDIAの合成データ生成基盤「NeMo Data Designer」を用いて構築されている。企業向けに設計されている合成データ生成システムで、複雑なテンプレートや構造化出力、再試行機能などを備えている。今回のデータセットは、米国版の「US Personas」データセットに続く取り組みであり、国や地域ごとのAI基盤構築を支援するグローバルなコレクションの一環となる。

 データセットには合計600万のペルソナ(合成された人格情報)が含まれており、1件の記録に22項目の属性が含まれ、その内6項目がペルソナ関連、16項目が人口統計や労働統計に基づく文脈情報となっている。総トークン数は約14億で、そのうち約8億5000万がペルソナ関連のトークンで構成される。約95万件の固有名を収録しており、これまでの合成データにはなかった多様性を持つ。1500以上の職業カテゴリーを含み、日本の労働市場を幅広く再現している。

データセットのイメージ(出典:Hugging Face上のNVIDIAによるブログ記事)

 収録されるペルソナは、職業分野に加えてスポーツや芸術、旅行、料理など多岐にわたる分野をカバーし、文化的背景や技能、目標、趣味などの属性を自然な日本語で記述している。教育水準の表現を詳細化した他、事業主や専門職を含む職業分類の拡張、学生や退職者、失業者といったライフステージが追加され、日本社会の特性を反映した文化的要素が反映されている。世代ごとのデジタルリテラシーの違いも組み込まれており、実際の利用状況に近いデータ生成が可能になっている。

 このデータセットには実在の人物に関する情報は一切含まれていない。年齢や氏名、職業といった分布は公的統計に基づいているが、全てのデータは合成されており、現実の人物と結び付くことはない。これにより、文化的背景を反映した学習が可能でありながら、個人のプライバシーを侵害することはない設計となっている。

 Nemotron-Personas-Japanは、日本国内で独自のAIを構築しようとする開発者が主な利用対象だ。現在、多くの大規模言語モデル(LLM)は英語データを主に利用しており、日本やインドなど非英語圏の開発者は高品質な母語データの不足に直面している。この課題に対応するため、今回の取り組みでは地域固有の統計、命名規則、文化的特徴を基盤に、多様かつ複雑な日本語データを生成可能としている。

 活用方法としては、複数ターンの会話データ生成や特定分野の学習データ構築、公平性検証のためのバイアステストなどが挙げられる。都市部と地方、高齢層と若年層、教育水準の違いなど、さまざまな属性を含むペルソナを利用することで、幅広いユーザー層に対応したAI開発が可能となる。

 今回の公開は、企業の専有データに依存していたAI開発において、研究者や新興企業が利用できるオープンな選択肢を提供する。データの多様性はモデルの偏りを防ぎ、日本社会を忠実に反映したAIを育成するための基盤となる。CC BY 4.0ライセンスの下で提供されるため、商用、非商用を問わず広く利用できる。

 NVIDIAは、このデータセットが日本国内のAI開発者だけでなく、グローバルな開発者にとっても有用と説明している。日本市場への適応を高めたい企業や研究者にとって、文化的背景を反映したデータは価値を持つためだ。今後、Nemotron-Personasの取り組みは各地域に広がり、各国固有の合成データ基盤の整備につながる可能性がある。

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