「合わない機能は自社開発」 ShopifyがそれでもクラウドERPを使い続ける理由SuiteWorld 2025

「SuiteWorld 2025」には、多くのNetSuiteのユーザー企業が登壇した。本稿では、その中から印象に残った企業のコメントを紹介する。

» 2025年10月22日 07時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 「Oracle NetSuite」(以下、NetSuite)は、スタートアップなどの成長企業が利用するクラウドERPとして知られている。米国ラスベガスで2025年10月に開催された年次イベント「SuiteWorld 2025」の講演では、多くのNetSuiteのユーザー企業が登壇し、各社が直面するビジネス課題をどう解決し、成長を持続させたかを語っていた。本稿では、その中から印象に残った企業のコメントを紹介する。

9四半期連続25%以上の成長を続けるShopifyが求めたシステム

 Shopifyは、2004年にカナダで創業したECプラットフォーム企業だ。専門知識がなくても簡単にネットショップを開業できるツールとしてグローバルで利用されている。オンラインだけでなく、リアル店舗の運営を管理するツールも提供する。

Shopify ボビー・モリソン氏(筆者撮影)

 同社最高収益責任者(CRO)のボビー・モリソン氏は、「当社は2015年からNetSuiteを使っている。私自身中途入社で、初めてのスタートアップだが、非常にスピード感がある企業だと感じている。特にソフトウェアに対するこだわりは強く、自社に合うものだけを使い、合わない領域は自社開発している。NetSuiteは当社にフィットしており、創業当時から株式公開時、現在まで利用を続けている」と語る。

 同社は直近9四半期連続で前年同期比25%以上の成長を続けており、世界175カ国で利用されている。

 「当社が成長するにつれて取引額が大きくなり、数億ドルの売り上げがあるグローバルブランドも顧客になってきた。また地域も北米から欧州、アジアへと拡大しているため、通貨の問題もある。その拡大にシステムが障害になってはいけないが、NetSuiteによってスムーズに業容拡大に対応できている」(モリソン氏)

 ShopifyはAIの活用にも積極的だ。モリソン氏は「社内で楽しみながらAIの利用を拡大している。「Slack」のチャンネルでAIの事例を共有しているが、自宅で家族と遊びながらAIを使った小さな話をしてもいい。また業務では、どうすれば面倒な仕事をAIで楽にできるかを考えることが大事だ」と語った。

失敗はすぐやり直し、自社に合う機能にたどり着く

 Cymbiotikaは、米国サンディエゴに拠点を置くサプリメントの開発、販売企業だ。自社開発による微細なカプセルを含んだ液体(リポソーム)によって、錠剤よりも身体の負担を減らして栄養を吸収できるのが特徴だ。

Cymbiotika キンバリー・デュバム氏(筆者撮影)

 同社最高財務責任者(CFO)のキンバリー・デュバム氏は、「これまで個人向け(D2C)のビジネスを中心に成長してきたが、今は小売店向けのB2Bも展開している。マルチチャネル化を進めるに当たって、取引は複雑でスピードが求められた。また数多くのコンプライアンスレポートにも対応しなければいけなかった」と話す。

 同社は現在、全米約1900の小売店向け流通網を確立している。しかしここに至るまで、NetSuiteの機能実装を20年以上の間で10回以上実施してきたとデュバム氏は語る。

 「最初の数回は失敗の連続だったが、この経験が後に生かされた。特に、直面する課題の解決だけにとらわれず、自分たちが5年後といった長期的に何を成し遂げたいのかに立ち返ることの重要性を学べた。これは、特に企業が大きくなったときに後から効いてくる」

 デュバム氏は、NetSuiteは短期間で機能の追加や削除ができる柔軟なシステムであるため、このような試行錯誤ができたと説明する。今回のSuiteWorldに、同社はデュバム氏以下十数名の開発チームを率いて参加しており、NetSuiteの最新情報を入手して自社のシステムに何が生かせるかを探っていた。

創業の日から大規模ビジネスを意識したシステムを選定

 映画『スパイダーマン』主演として知られる英国出身の俳優、トム・ホランド氏が立ち上げたノンアルコールビールブランド「BERO」も、NetSuiteユーザーだ。自身の禁酒をきっかけに高品質なノンアルコール飲料の必要性に気付き、生まれたという商品で、既にロンドンでは人気が定着し、現在は米国など世界に売り込みをかけている。

 同社の共同創立者であるジョン・ハーマン氏が、イベント2日目の基調講演後半に登壇。NetSuite創業者兼EVPであるエバン・ゴールドバーグ氏に、次のように語った。

「BERO」を創業した俳優のトム・ホランド氏は、撮影現場からビデオメッセージを寄せた(筆者撮影)

 「当社は単なるセレブリティのブランドではなく、お酒が飲めない人のライフスタイルを豊かにする商品を作っている。創業時から、本気で世界の市場を狙ってマーケティング、オペレーションを考えてきた。その基盤として、世界で通用するシステムを入れることは必須だった。それが、当社が創業初日からNetSuiteを使っている理由だ」

 現在同社は170社の卸売業者と取引しており、4000以上の商圏で販売を展開している。売り上げや在庫の管理は既に巨大なデータを扱っており、スケールアップに対応できるクラウドERPであるNetSuiteのメリットを享受できているという。

人に依存したプロセスから脱却して成長を目指す

Oracle NetSuite サム・レヴィ氏(筆者撮影)

 ユーザー企業との対談を中心にしたエグゼクティブ基調講演に登壇してホスト役を務めた、NetSuite成長戦略・実行担当SVPサム・レヴィ氏は、変化する環境に対応し、成長する企業には共通する特徴があると語った。

 「従来のビジネスのやり方で事業を拡大しようとすると、より多くの人を雇い入れることになり、業務がどんどん複雑化し、成長の限界に突き当たる。これを当社は『オールドフロンティア』と呼んでいる。それに対して『ニューフロンティア』を目指している企業は、拡張性のあるプラットフォーム、戦略的に行う自動化、そして業界別ノウハウの3つの要素で、ビジネスの拡大に対応している」

 業務プロセスやそれを支えるシステムが、成長のボトルネックにならないようにするためには、起業の段階から拡張性や業務の自動化を見据えた組織やシステムの設計が必要になるというのが、NetSuiteの主張だ。

 ビジネスプロセスに人が組み込まれていると、事業が拡大するに連れて増員しなければいけない。それに対してニューフロンティアを目指す企業では、取引の拡大はシステムが自動的に対応し、人はさまざまな業務をAIの助けを借りながら監督する立場に回っているという。

 「ニューフロンティアを目指す企業のシステム選定は、機能で決めるのではなく、実行を重視している。それがバックエンドの卓越性を生み、フロントエンドの優位性につながる。NetSuiteの拡張性は実行力で選ばれている」(レヴィ氏)

 SuiteWorldに登壇したNetSuiteユーザー企業に共通していたのは、業容拡大に伴う環境変化に合わせてシステムを見直す必要がなく、本業に集中できている点だ。ビジネスの裏方である基幹システムだからこそ、拡張性と自動化の能力を重視すべきということが、彼らのコメントから分かった。

(取材協力:日本オラクル)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR