極力コストをかけずに、優秀なAI人材を確保する方法CIO Dive

大手テクノロジー企業は巨額の報酬でAIの専門家を惹き付けている。一方、そのような資金を持たない企業であっても、優秀な人材にアプローチする魅力を自社が想定する以上に備えているものだ。

» 2025年10月31日 10時00分 公開
[Kjell CarlssonCIO Dive]

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CIO Dive

 大手テクノロジー企業は途方もない報酬でAIの研究者を惹き付けようとしているかもしれないが(注1)、大手以外の企業に必要なのは手の届くAI人材だ。

巨額の報酬に頼らずにAI人材を採用する方法

 AIを活用して価値を生み出すために、組織にはAIに関するリーダーやデータサイエンティスト、AIエンジニア、プロダクトマネジャーなどの人材が必要だ。事業全体にわたってAI活用の最適な機会を見極め(注2)、AIツールを導入し、機能を業務アプリケーションに統合し、特定のユースケースに合わせて差別化された変革的なAIソリューションを創り出すために、CIO(最高情報責任者)はこれらの人材を求めている。

 しかし、課題は依然として残されている。それは数百万ドル規模の報酬を提示するスタートアップ企業や大手テクノロジー企業を相手として、CIOはいかにして人材獲得競争に挑むべきかという課題だ。

 Gartnerの最近の調査によると、社内に十分な数のAIの専門人材がいると報告した企業はわずか17%に過ぎない。Gartner Peer Communityが実施したアンケート調査では(注3)、回答者の約半数が「人材獲得にかかるコストによってAIプロジェクトの効果が薄れている」と答えた。

 朗報があるとすれば、多くの企業において、AI人材をめぐる競争に勝ち抜くための準備が想定以上に整っていることだ。適切な戦略とリーダーシップがあれば、どのような組織でも自らの規模以上の力を発揮し、卓越した成果を生み出すAIチームを採用し、定着させられる。

 そのためにはビジネスのニーズを理解し、求めるべき資質を見極め、人材パイプラインを構築し、組織を働きたい場所に変える要因に関する洞察を得る必要がある。

高い潜在能力を持つAI人材を採用・育成する秘訣とは?

 AIの分野は新しく、多くの企業は自社に本当に必要な人材がどのようなものかを把握できていない。リーダーたちは、AIに関する取り組みを成功させるために、本当に必要な人材を明確にするのではなく、大手テクノロジー企業での経験や上級職の肩書き、名門大学の学位をはじめとする一般的な指標に頼りたいという誘惑に駆られている。

 しかし、これらの指標への依存はAI人材を探すための戦略として失敗に終わるだろう。これらの人材はコストが高く、定着させるのが難しいためである。

 組織は自社のAIプロジェクトにおける具体的かつ現実的なニーズや、将来の展望に合わせて人材を採用すべきだ。ローコードの技術を使ってシンプルなチャットbotを作るのみであれば、大規模言語モデル(LLM)のファインチューニングの専門家は必要ない。エージェント間プロトコルの知識は魅力的だが、検索拡張生成(RAG)ソリューションの構築経験の方が即戦力になる可能性がはるかに高い。

 当然ながら、CIOは詳細なAI戦略を策定し、計画中のAIプロジェクトを整理するという骨の折れる作業に投資する必要がある。努力は人材を効果的に採用できるという点で十分に報われるだろうし、言うまでもなくAI施策全般を実行する能力の向上にもつながる。

 実際のところ、経験の面に焦点を当てると十分な現場経験を持つAI人材はほとんど存在しない。急速に変化するAIの世界に対応するためには、誰もが新しいスキルを継続的に学び続ける必要がある。

 成功に必要な技術的スキルと対人スキルの両方を学んでおり、それらを活用できるだけの適性および好奇心、起業家のマインドセットを持つ候補者を企業は採用すべきだ。丁寧なオンボーディングと研修プログラムを整えれば、組織はコスト効率に優れた形でAI人材を育成できる。

自社の価値提案を伝える

 他の人材と同様に、AI人材も目的意識に基づく仕事を求めている。AIチームに投資できるほどに成功している組織であれば、働く場として魅力的に映るだけの独自性を数多く備えている可能性が高い。

 重要なのは、これらのポジティブな特徴に加えて、チームが取り組む刺激的なプロジェクトやAI人材が推進に貢献する独自のミッション、支援を提供するコミュニティ、活用可能な豊富なデータリソースおよび最先端のツール、現実世界にインパクトを与える機会を強調することだ。

 また企業は人材が自らやって来るのを待っていてはいけない。大学や専門団体との提携は、新たに登場する人材層へのアクセスに役立つ。インターンシップやハッカソンは、潜在的な候補者を早期に巻き込み、それらの人材のスキルに関する貴重な洞察を得る助けとなるだろう。

 既存の従業員も貴重な資産だ。ビジネスアナリストやデータエンジニア、ソフトウェア開発者を対象とした研修プログラムでスキルを向上させれば、AI分野における従業員の潜在能力を引き出せるとともに、既に事業の文脈を理解している従業員の忠誠心を強化できる。このような多角的なアプローチにより、CIOは自社の戦略にAIが中核として組み込まれる状況に意欲的に貢献したいと考えるモチベーションの高い人材を活用できるようになる。

AI人材獲得競争で賢く戦う

 優秀なAI人材をめぐる競争はますます激しくなっている。勝者となるのは、自らの強みを最大限に生かせる組織だ。

 組織は従来型の採用手法を超え、自らのミッションや文化、意義あるインパクトを生み出す機会を積極的に打ち出さなければならない。その中には、AIの環境負荷や社会的貢献といった注目の課題に取り組む姿勢も含まれる。

 リーダーは自分たちの仕事が株主にとって重要というだけでなく、獲得を目指す人材にとっても重要である理由を伝えなければならない。

 先進的な組織は市場に訪れた機会を逃さない。例えば、業界でのレイオフの際に熟練の人材層を新たに取り込んだり、高い柔軟性のためにハイブリッド勤務やリモート勤務を求める専門家を受け入れたりする。最良の候補者が追い求めているのは給与ではない。それらの候補者が望んでいるのは、優秀な同僚との協働や自らの能力を広げる魅力的なプロジェクト、顧客および従業員、さらには社会全体に実際に貢献できる機会だ。

 仮に、意欲のあるAI人材を惹き付ける要素が自社に一つもないのであれば、CIO自身もキャリアチェンジを検討すべきかもしれない。

本記事は、調査企業であるGartnerのシェル・カールソン氏(バイスプレジデント兼アナリスト)による寄稿記事である。

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