断捨離すべきシステムは「これだ」 専門家が指南する“納得の基準”CIO Dive

AIエージェントや生成AIの活用が急務となる中、古びたITシステムがその足を引っ張っている。しかし、全てのITシステムを刷新できる企業ばかりではない。限られた予算とリソースの中でどのシステムを維持し、どのシステムを捨てるべきか。

» 2025年12月24日 08時00分 公開
[Makenzie HollandCIO Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

CIO Dive

 ITサービスプロバイダーであるEnsonoが2025年9月に発表したレポート「Ensono 2025 State of Modernization Report: Progress Without Disruption」によると(注1)、企業のモダナイゼーションを半ば強制的に促進しているのは老朽化したIT環境だという。

 同社が実施した調査は、年間売上高が5億ドルを超える米国および英国の企業に所属するIT領域の意思決定者500人を対象としている。このレポートでは大規模な予算を持つ企業でもレガシーシステムに頭を悩ませていることや一斉に刷新できない状況が浮き彫りになった。

どのシステムを残し、どのシステムを捨てるべき?

 では、限られた予算とリソースの中で企業はどのシステムを残し、どのシステムを捨てるべきなのか。専門家は「ある基準」で評価すべきだと指摘する。その基準とは何か。

 まず、Ensonoの調査によると、企業がITシステムのモダナイゼーションへの投資を急ぐ主な要因は、サイバーセキュリティリスクやリリースサイクルの遅延、レガシー技術の保守にかかる高額なコストだ。

 特にコストの問題は深刻だ。回答者の約半数は「過去1年間におけるレガシーシステムの保守コストが想定を上回った」と述べた。また、ITインフラを刷新する上で、レガシー技術を扱える人材の不足が障害となっていることも明らかになった。

 CIO(最高情報責任者)やITリーダーは、生成AIやAIエージェントといった新しい技術の波に乗り遅れまいと必死だ。しかし、足元のレガシーシステムがその俊敏性を奪っている。

 Ensonoのブライアン・クリングベイル氏(最高戦略責任者《CSO》)は、同調査のプレスリリースで次のように述べた。「CIOやITリーダーはモダナイゼーションを推進する必要性を認識している。しかし、専門性の高い人材の不足や予算の変動といった問題が逆風となり、取り組みのスピードはスローダウンしがちだ」

 アナリストも、生成AIやAIエージェントの台頭によってもたらされる変化のスピードが、企業にITシステムのモダナイゼーションを優先させる要因になっていると指摘する。

 調査とコンサルティングを手掛けるIDCのニール・ニコライセン氏(ITエグゼクティブ・プログラムでリサーチアドバイザー)は次のように分析する。「俊敏性を損ない、業務の足かせになる要因の一つが、レガシーなITインフラやワークロードの維持にかかる時間と手間だ。これらは、現在のような急速なスピードで起こる変化を前提に設計されていない」

「捨てるべき領域」を見極める判断基準

 2025年8月に開催された「CIO Dive」と「Cybersecurity Dive」のバーチャルイベントに登壇したパネリストたちによると(注3)、CIOはレガシーシステムを廃止できる領域、もしくは依存度を下げられる領域を評価する必要があるという。調査企業Gartnerのジェフ・ヴォーゲル氏(バイスプレジデント兼アナリスト)は、企業が急速な変化に直面する中で、IT部門はレガシーな環境ではスケールしない、つまりビジネスの拡大に対応し切れないことを強く認識していると指摘した。

 古いITシステムは、サポートや保守に高いコストがかかる上に、運用に必要な人材が年々確保しにくくなっているという課題も抱えている。ニコライセン氏は「レガシーシステムの維持に必要なスキルが希少になっている場合、そのシステムをモダナイズする優先度は高い」と述べた。

 ニコライセン氏によると、ITシステムのモダナイゼーションを進めるには、レガシーシステムを維持し続けるコストと(注5)、新たに置き換えるコストのどちらが組織にとって妥当かを、IT部門が冷静に見極める必要がある。「システムごとに個別に見る必要がある。維持するためにどんな負担が生じるのか、他のシステムと連携させる際にどれだけの手間がかかるのか。置き換えにかかるコストとそれらの負担を比較して判断すべきだ」(ニコライセン氏)

モダナイゼーションの遅延は「連携」「互換性」にこだわるせい

 一方で、Ensonoの調査では、モダナイゼーションに着手した企業の多くが、レガシーシステムと新しいプラットフォームとの「相互運用性」(連携や互換性)にこだわることで、かえって取り組みのスピードが落ちている実態も明らかになった。

 同調査によると、回答者の約6割がハイブリッドなIT環境で業務しており、日常業務においてレガシーシステムは依然として重要な役割を果たしている。

 AIの進展によってレガシーモダナイゼーションへの注目は高まっている。「しかし、IT部門は当面の間、完全なクラウド移行ではなく、ハイブリッド環境での運用を続けざるを得ないだろう」(ニコライセン氏)

© Industry Dive. All rights reserved.

アイティメディアからのお知らせ

注目のテーマ

あなたにおすすめの記事PR