Zoomの進化から探る「AIを融合させた次世代コミュニケーションの在り方」Weekly Memo

これからのコミュニケーションにおいて、人とAIはどのような関係になるのか。AIファーストを掲げる「Zoom」の進化を通して考察する。

» 2026年03月02日 16時15分 公開
[松岡 功ITmedia]

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 これからの業務、さらに広くいえばコミュニケーションの在り方として、人とAIはどのような関係になるのか。AIエージェントが、これまで人がやってきた作業の相当部分を担えるようになったとしても、重要な意思決定や信頼の積み重ね、不測の事態への対応には生身の人間による関わりが不可欠だというのが、これまでこの分野を取材してきた筆者の感触だ。

 どうすれば、人とAIを融合させたコミュニケーションを実現できるのか。ビデオ会議ツールとして普及した「Zoom」の進化にその可能性を感じたので、今回はZoomの話を通して人とAIの関係について考えたい。

Zoomの「AIファースト」とはどんなものか

 「Zoomは今やビデオ会議ツールだけでなく、いろいろなアプリケーション、さらには柔軟なAI機能を提供し、AIファーストのコミュニケーションプラットフォームへと進化している」

 米Zoom Communicationsの日本法人ZVC JAPANの坂井悠樹氏(日本事業戦略部長)は、同社が2026年2月19日に開いた最新のビジネス状況に関する記者説明会で、こう切り出した(図1)。

ZVC JAPANの坂井悠樹氏(日本事業戦略部長)(筆者撮影)

 図1は、AIファーストのコミュニケーションプラットフォームとしての最新のZoomの全体像だ。「業務の効率化」や「仕事の成果を早く出す」とともに、「人間関係を深めて『EX』(エンプロイエクスペリエンス:従業員体験)と『CX』(カスタマーエクペリエンス:顧客体験)を向上」できることを特徴に挙げている。

図1 Zoomコミュニケーションプラットフォームの全体像(出典:ZVC JAPANの会見資料)

 図1の左側にある「Zoom Workplace」が社内業務向けでEX向上を、右側にある「Business Services」が社外業務向けでCX向上を目的としており、AI機能の「AI Companion」がこれら全体に適用される構図となっている。同社はこのAI Companionを2023年9月に生成AI機能として発表し、2025年10月にはAIエージェント機能を搭載した「AI Companion 3.0」を投入し、ミーティング日時の調整やタスクの管理・実行を主体的にサポートできるようにした。

 坂井氏はさらにこのAI機能の特徴として「フェデレーテッドアプローチ」を挙げ、その仕組みを次のように説明した。

 「フェデレーテッドアプローチはZoom独自のAIモデルとともに、サードパーティーのLLM(大規模言語モデル)やSLM(小規模言語モデル)を用途に合わせて最適なコストパフォーマンスで組み合わせて提供するものだ。AIモデルも人と同じで得意領域、適材適所がある。それを生かそうという考え方だ」(図2)

図2 フェデレーテッドアプローチとは(出典:ZVC JAPANの会見資料)

 同氏によると、最新のAI Companionではこのフェデレーテッドアプローチによって、図3に示すように「対話型」「電話対応」「営業支援」をはじめとしたさまざまなAIエージェントを提供している。

図3 ZoomのAIエージェント(出典:ZVC JAPANの会見資料)

 こうした状況を踏まえた上で、同氏は「Zoomはこれから、ビジネスモデルはいろんな形に変わるかもしれないが、いずれにしてもAIファーストで成長を続けたい」と力を込めた。

コミュニケーションの「デジタルツイン」へ

 坂井氏に続いて会見に登壇した佐藤仁是氏(執行役員 パートナービジネス本部長)は、Zoomのグローバルにおける実績について次のように説明した。

ZVC JAPANの佐藤仁是氏(執行役員 パートナービジネス本部長)(筆者撮影)

 図4に挙げたのは、Zoomの顧客ベースの現状だ。目を引くのは20.4万社という顧客社数と、金融機関や病院、製薬企業、大学といった各分野のトップ機関において高い採用率が見られることだ。

図4 Zoomの顧客ベースの現状(出典:ZVC JAPANの会見資料)

 図5は、年間売上高のここ5年間の推移だ。佐藤氏はこれについて「Zoomは新型コロナウウイルス(COVID-19)の感染が拡大する中で売上高が急増した。コロナ禍が収束するにつれて成長が止まったのではないかとの見方もあったが、実際には着実に増収増益を続けている」と説明した。

図5 Zoomの年間売上高の推移(出典:ZVC JAPANの会見資料)

 そして、図6にはZoomの財務基盤や研究開発に対する取り組みにおけるキーとなる実績を示し、信頼性と将来性をアピールした。同氏はこの中で、「Zoomは強固な財務基盤を持ち、新興のSaaSベンダーが陥りがちな(大きな障壁や溝を指す)“キャズム”も経験することなく現在に至っており、ほぼ無借金経営を続けている。内部留保も8000億円近くあり、これを今AIにどんどん投資している」とも述べた。

図6 Zoomの信頼性と将来性(出典:ZVC JAPANの会見資料)

 日本でのビジネス戦略については、特にZoom Workplaceの展開に注力する考えだ。同氏によると、「『Zoom Workplaceで日本の未来をデザインする』ことを掲げ、従来のビデオ会議ツールに加えて広範な業務を支援し、日本の生産性向上と効率化に貢献したい」とのことだ。

 図7が、Zoom Workplaceによるサービスを細かく示したものだ。同氏はこの中でもクラウドPBXサービス「Zoom Phone」を活用した音声AIによって、電話をはじめコンタクトセンター、バーチャルエージェントへと利用拡大を図りたい考えだ。

図7 Zoom Workplaceによるサービス(出典:ZVC JAPANの会見資料)

 今回のZVC JAPANの会見を聞いて、筆者の頭に2つのことが浮かんだ。

 一つは、Zoomの特徴とそれを生かしたビジネスについてだ。

 筆者がZoomの特徴として、かねて興味深く見てきたのはブランド力だ。佐藤氏が語ったように、Zoomはコロナ禍の中でテレワークのツールとして大ブレイクした。その要因として、使いやすいサービスをタイミングよく出したのとともに、多くのユーザーを獲得するために無料でも使える「フリーミアム」方式を採用したことが挙げられる。その結果、Zoomは誰もが知る商品となった。

 振り返ってみれば、今ビッグテックと呼ばれるMicrosoftやGoogle、Amazonはそれぞれに企業向け(BtoB)だけでなく個人向け(BtoC)にも幅広くビジネスを展開し、ブランドとして不動の地位を築いている。Zoomと同じフリーミアムからスタートした企業としては、生成AIの「ChatGPT」で大ブレイクしたOpenAIも引き続き注目を集めている。Zoomもそのポテンシャルがあるのではないかというのが、筆者の見方だ。

 そのためには、図1に描かれているZoom WorkplaceやBusiness Services、その周辺に記されているサービスにとどまらず、その外側にある業務、さらには業種を対象に「Zoom○○」と銘打てるようなソリューションを展開すればどうかというのが筆者の提案だ。自社サービスだけでなく、パートナーやユーザー企業とのエコシステムを形成する見せ方もあるだろう。こうしたビジネス展開はZoom自体でも検討されているだろうが、AIを活用してスピーディーに動くことが同社にとってビッグチャンスを掴つかめるかどうかの試金石になる気がする。

 もう一つは、冒頭で述べた人とAIの関係についてだ。特にAIエージェントが動き回ってさまざまな業務を自律的にこなすようになっても、重要な意思決定や信頼の積み重ね、不測の事態の対応において人と人が顔を合わせて話すことは不可欠どころか、ますます重視されるのではないか。その点で、Zoomのようなサービスが人とAIエージェントを融合させたコミュニケーションの新たな在り方を提案できるのではないか。

 Zoomの創業者でCEOを務めるエリック・ユアン氏は講演や会見で、ZoomとAIを融合させた形として「デジタルツイン」という言葉をよく使う。リアルとバーチャルの空間を行き来するデジタルツインによるコミュニケーションとは、果たしてどのようなものか。それが、業務や生活にどのような影響や変化をもたらすのか。そうしたことを追求する意味でもZoomの今後の活動に注目したい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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