2008年 情報通信産業「撤退」絵巻:今日から使えるITトリビア
世界的な不況の波は今、IT関連の機器を製造するベンダー各社にも押し寄せている。そのため、2008年は企業の生き残りを賭けた事業の見直しが進められた年となった。今年流れた「事業撤退」のニュースを振り返ってみた――。
BDに一本化された次世代光ディスク
米国の金融危機から始まった世界的な景気停滞により、ビッグスリーと呼ばれる米国自動車大手3社が深刻な経営難に陥るなど、自動車産業はかつて経験したことのない厳しい不況に見舞われている。この余波は、IT関連の機器を製造するメーカー各社にも例外なく押し寄せており、どの企業も生産ラインを縮小したり、事業そのものから撤退したりといった施策を進めざるを得ない状況だ。
2008年になって、最初に流れた大きな「撤退」のニュースと言えば、東芝が発表したHD DVDからの撤退だった。HD DVDは、「ポストDVD」というべき次世代光ディスク規格の1つであり、DVDフォーラムのお墨付きを得て、東芝とNECが中心となり開発を進めてきた。一時は、パラマウントピクチャーズやワーナーブラザーズなどの大手映画会社、あるいはマイクロソフトやインテルなどのPC関連ベンダーがHD DVDを支持するなど、主流になると考えられていた時期もあった。
しかし、対抗するソニーやパナソニックなどのBD(Blu-ray Disc)陣営よりも支持企業が少なく、記憶容量もBDが「片面2層50ギガバイト」であるのに対し、HD DVDは「片面2層30ギガバイト」と60%しかないなどの理由から、徐々に支持離れが起きる。そして、年明けすぐにワーナーブラザーズがHD DVDへのソフト供給の取りやめを発表すると、それに同調するようにソフトや小売の業界が相次いでHD DVDの扱い中止を発表。ついには2月にHD DVD陣営の中核であった東芝が撤退を発表し、3月にはHD DVDの普及を目指すHD DVDプロモーショングループも解散してしまった。
こうした規格争いは、過去にもビデオテープのVHS対ベータがあったが、今回はHD DVD対応製品が登場してわずか2年で勝負が決まることになった。世代光ディスクが本格的に普及する前に撤退した東芝に対しては、英断と評価する向きもある。
iPhone参入の陰で数社が事業終了
もう一つ、2008年に「撤退」のニュースでマスコミを賑わせたのは、携帯電話の分野だろう。1月には、NTTドコモがPHSサービスを終了。また、3月にはKDDIがツーカーのサービスを終了するなど、終息に向かいつつある事業の整理が進められた。
一方で携帯電話端末を供給するメーカーの事業撤退も相次いだ。NTTドコモ向けに「Dシリーズ」の端末を提供してきた三菱電機は、3月に携帯電話事業の終息を発表。4月には、NTTドコモ、au、ウィルコム向けに端末を提供してきた三洋電機の携帯電話撤退に伴い、京セラが事業を継承した。
さらに11月には、世界第1位の携帯電話端末メーカーであるノキアが日本市場向けの携帯電話事業から撤退することを発表した。これを受けて12月になってから、NTTドコモはQWERTYキーを搭載した薄型スマートフォン「docomo PRO series Nokia E71」の発売中止を発表している。なお3月には、一部新聞記事などで「ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズが906iシリーズを最後にNTTドコモ向けの端末から撤退」という観測記事が流れたが、これは事実ではないと同社が否定している。
一方で今年は、アップルが「iPhone」で日本の携帯電話端末市場に新規参入するなどの動きもあった。携帯電話を巡る業界の動きは、2009年にも引き継がれていきそうだ。
さまざまな分野で撤退が相次ぐ
厳しい経済状況により、今年はその他の分野でも「撤退」という言葉をよく耳にした1年だった。特に動きがあったのは、プラズマディスプレイパネル(PDP)の分野である。3月にパイオニアがPDPの生産から撤退することを発表。9月には、日立も撤退を発表し、両社ともにパナソニックからパネルを調達することにしたという。日立はPDPを生産する宮崎の製造拠点の閉鎖も考えたようだが、これに対して東国原宮崎県知事が日立に直談判したというエピソードもある。
大きなニュースにはなっていないが、ソフトウェアベンダーの事業撤退もいくつかあった。Macintosh向け日本語ワープロの代表的な製品だった「egword」を開発していたエルゴソフトは、1月にパッケージソフト事業の終了を発表。また3月には、AOLが細々と続けてきたNetscape Navigatorのサポートが終了している――。
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