エネファーム、今導入すべきか?:日曜日の歴史探検
日本全体の戸建ての約2600万世帯をターゲットにするエネファームですが、現時点ではまだユーザーから熱い視線を注がれているわけではありません。燃料企業も新しい創エネルギー機器として、数年先を見越した営業体制の強化に努めています。
家庭用燃料電池が注目を集めつつあることはこれまで述べてきたとおりですが、実際にエネファームがターゲットとしているのは、主に戸建てです。日本全体の戸建ての数は約2600万世帯。使用ガス区分でみると、LPG(液化石油ガス)使用が1300万世帯、都市ガスも1300万世帯となっています。また、給湯区分では、LPGが830万世帯、灯油が470万世帯あり、都市ガスが1300万世帯となっています。エネファームは、この市場に参入しようとしています。
エネファームは現在のところ、都市・LP(液化石油)・簡易ガスの供給企業による特約店や系列の販売網のほか、住宅メーカーの販売店や工務店といったネットワークで販売されています。FCや太陽電池(PV)のような創エネルギー機器が家庭に入っていく時代になり、燃料企業は軒並み新しい事業戦略を求められています。
特に、昨今は、電力会社がオール電化攻勢を強めており、高効率給湯器のヒートポンプシステム「エコキュート」が累計で200万台に達する勢いです。IHヒーターを柱とした給湯・クッキングシステムはガス事業に驚異となってきている現状を考えると、FC販売は、ガス事業者にとって、オール電化に対抗できる魅力的な武器であるといえます。
都市ガス事業者の場合
都市ガス事業者は家庭用FCを今後のガス需要の増加と環境に対応する切り札の機器ととらえ拡販戦略を採っています。例えば東京ガスはパナソニックからFCシステムの供給を受けすでにFCの販売を開始。6月上旬までに300台を販売しました。
同社は現在、営業拠点の整備に取り組んでいます。地域ごとに地元と共同出資した企業を設立し、地域密着の営業に当たるライフパルと呼ばれる組織を次々に生み出し、営業体制を強化しています。
販売戦略としては、FC認知の宣伝に加え、ライフパルのネットワークで地元の工務店を回って理解の促進を行いながらユーザーの開拓を行うというもので、2009年にまず新築1000台、既築で500台を販売目標とし、神奈川県を中心に好調に推移しています。新築はハウスメーカーの営業を支援する姿勢で臨んでいるほか、東ガスクレジットと組んで既築住宅でのリースも進めており、FCの先進性をアピールしながらオール電化の中心機器であるヒートポンプと差別化する姿勢です。なお、東京ガス管内では、エコウィル(ガスエンジンで発電を行う家庭用コージェネレーションシステム。価格は90万円程度で5〜6年でのコスト回収が可能)を購入するケースもいまだ多いのですが、FCシステムでも同程度のコストダウンが進めば、新たなユーザー層の開拓につながると考えています。
そのほか、当面はエコウィルと併売での営業を進める大阪ガスや、環境への意識が高いユーザーを狙いFCとPVのダブル発電で新築への営業に力を入れる東邦ガスなどのプレイヤーがいます。
LP・簡易ガス事業者の場合
LP・簡易ガスの事業者は、都市ガス以上にオール電化の攻勢を強く受けており、対抗機器としてFCに掛ける期待は大きいようです。例えばエネルギー企業の大手である新日本石油は、LPG、灯油改質のFCを供給することで、系列販売店のネットワーク網の活性化につなげていく姿勢を見せています。同社は、2009年度はLPG改質機を中心に、計2500台を販売する計画で、ハウスメーカーには新築向けに500台を販売し、地方の都市ガス企業へも販売していく予定です。2015年には4万台のFC設置を目指しており、強い意気込みが感じられます。
今後、同社はオール電化攻勢から商圏を守るための戦略として、販売店による燃料価格引き下げを行うことも予想されますが、より見逃せないのは、系列のサービスステーション(SS)の営業方針が変化する可能性がある点です。これまではガソリンも灯油もユーザーが店内に購入しに来ていたものが、創エネルギー機器の普及により、ユーザーサイドに営業に向かう商売の仕方に変化していくと予想されます。同社は今後のFC販売を通じて、ほかの元売りのスタンドとは差別化したネットワークを構築する営業戦略を構築しようとしており、注目されるポイントです。
そのほか、LPG元売り最大手の出光興産と三菱商事が共同出資している「アストモスエネルギー」は特約店を生かしながら5年間で5000台の販売計画を立てているほか、LPG元売り、卸事業者として最大のユーザーを抱える岩谷産業は、初年度こそ慎重に200台程度としていますが、2011年には1000台以上を販売する計画を立てており、いずれもエネファームの販売拡充に向け動き出しています。
現段階では、エネファームを設置したユーザーがその投資を回収することは困難というのが各社の共通認識です。国は家庭用FCの導入補助金制度を開始しましたが、それでもユーザー負担は200万円前後となります。FCの耐久期間内で投資を回収するとすれば、10年では無理です。つまり、既築住宅にFCを導入する家庭のほどんどが、現段階では、コストメリットを受けられない状態なのです。燃料企業からすると、ユーザーの支払うイニシャルコストが100万円を下回る価格になったときが本格的な普及期になると考えているようですが、そのためにベンダーの量産が待たれるところです。
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