企業にフォースのご加護を――Force.comに根付く巨大なエコシステム:Dreamforce 2009 Report
SaaSベンダーからPaaSベンダーとしての地位を確立しようとしているsalesforce.com。同社の年次カンファレンス「Dreamforce 2009」の2日目には、巨大なエコシステムへと成長したForce.comに集うソフトウェアベンダーと企業顧客が示された。
従来のビジネス手法――顧客のサーバに巨大で複雑なプログラムをインストールした上で、毎年高額のアップグレード料と保守費用を請求する手法――が長くは続かないと早くから予見していたマーク・ベニオフ氏が、salesforce.comを立ち上げ、企業の営業担当者の顧客管理をサポートするCRMという人気の業務ソフトウェアをSaaSで提供しはじめたのが10年前。当初、多くの企業はそれに対して懐疑的だった。salesforce.comが万が一倒産したらデータはどうなるのか、スピードは? カスタマイズは? セキュリティは? ――さまざまな懸念が示されたが、懐疑論者を説得することに無情の喜びを感じるベニオフ氏は、そうした懸念を一掃。SaaSという考え方は、すさまじい勢いで世間に受け入れられていった。
あらゆるソフトウェアをオンデマンドで提供しようという同社の野望はこれまでのところ大成功を収めているといっても過言ではない。事実、従来のビジネス手法で構築された時代遅れの社内システムが数多くsalesforce.comに移行した。しかし、同社はこの現状で満足しているわけではない。同社は単なるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)ベンダーとしての枠組みを超え、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)ベンダー、言い換えればアプリケーション開発プラットフォームベンダーとしての地位を確立しようと気勢を上げている。
近年、IT業界の巨人たちがプライベートクラウドやパブリッククラウドを企業顧客に導入するようこぞって進言している。しかし、これらの多くは単にリソースをクラウドの向こうから得られるようにしたSaaSであり、ほとんどのケースで部分最適でしかないことに注意したい。長期的な視点で見れば、アプリケーションの開発プラットフォームレベルで提供されなければ、そこにエコシステムは生まれないといえる。
MicrosoftのWindows Azureが2010年からサービスインすることが発表されたばかりだが、長期的にはAzureもアプリケーションの開発プラットフォームとして育っていくことは想像に難くない。Visual Studioに統合されたWindows Azure開発環境は多くの開発者を取り込める可能性を秘めているからだ。しかし、salesforce.comはすでに実績のある開発プラットフォーム「Force.com」を提供しており、それが競争優位性につながっている。
Force.comにはぐくまれるエコシステム
先週サンフランシスコで開催されたsalesforce.comの年次カンファレンス「Dreamforce 2009」の2日目で同社会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏は、Force.comを基盤とするエコシステムが醸成されていることを強調した。同氏はいつもの調子でOracleなどが課しているソフトウェアの年間維持料金を非難。「メンテナンスにお金を使いたくはないだろう? 本当は誰もがイノベーションに投資したいはずだ。今のIT業界はおかしい」と話し、開発面でもコスト面でもForce.comに分があるとし、このイベントの内容をぜひ自社に持ち帰って検討してほしいと力説した。
「必要があれば、当社の人間が伺って説明する『Private Dreamforce』も提供する。連絡をくれればわたしが出向こう。本気なのだ」(ベニオフ氏)
Force.com上で動作するネイティブアプリケーションは13万5000個以上にも達しているが、ベニオフ氏は「フォーチュン100に入るような企業にもForce.comに参加してもらいたかった。今、それが叶った」と話し、名の知れた独立系ソフトウェアベンダー2社を壇上に招いた。BMC Softwareと米CAである。
BMC SoftwareのCEO、ボブ・ビーチャム氏は、同社のサービスデスク製品をForce.comのネイティブアプリケーションとして作り直し「BMC Service Desk Express on Force.com」の名で2010年第2四半期にリリースする予定であることを明かした。
一方、米CAのジョン・スウェインソンCEOは、アジャイル開発プロジェクト管理システム「CA Agile Planner」をForce.com上のネイティブアプリケーションとしてリリースする計画を明らかにした。リリースは2010年前半を予定しているという。
「アジャイル開発はクラウド時代にこそニーズの高いもの」とスウェインソン氏。アジャイル開発は、開発中もエンドユーザーなどからのフィードバックを継続的に受けることで、柔軟な開発を可能にする手法だ。アジャイル開発手法としてよく知られるScrum(スクラム)では、「スプリント」と呼ばれる短い開発サイクルで開発が進められるが、こうした開発手法により、速度を提供することが重要であると述べた。発表では特別に解説はなかったが、実はSalesforce Chatterもまたアジャイル開発でスプリントを詳細に管理しながら開発されていることを付け加えておく。
スウェインソン氏は、クラウドは時代を変える大転換期であり、基本的な経済性すらも変化させるものになると予想。既存システムが持つ複雑性を、クラウド事業者側にまかせることは大きな意味があるとし、これからは共存の時代であるとクラウドに対する見解を示した。
企業顧客の利用事例にはローソンも登場
基調講演後、ローソン常務執行役員CIOの横溝陽一氏は「Chief Innovation Office Award」を贈られた。日本ではローソンだけでなく、経済産業省や日本郵政公社などもsalesforce.comを採用しており、ベニオフ氏も大規模事例が日本で生まれていることを喜んだ
新たなソフトウェアベンダーの参画を喜ぶだけでなく、企業顧客によるForce.com活用事例の紹介も忘れないベニオフ氏。講演の後半ではForce.comを企業のプラットフォームとして採用した企業の幹部を壇上に招いた。
その中でもベニオフ氏が破顔の笑みをこぼしたのは、ローソン常務執行役員CIOの横溝陽一氏を壇上に招いたときだった。ローソンでは、Lotus NotesからForce.comベースの情報共有基盤を構築した大規模な顧客企業として、まさにベニオフ氏が今後増えてほしいと考える企業の姿によく合致している。
「ローソンは日本有数のコンビニエンスストア。店舗数は全国で約8600店舗」と横溝氏。マーケットや消費者ニーズの変化に、柔軟かつスピーディーに対応することが重要と話し、それらは従来のオンプレミス型のシステムでは対応できないと話す。「実際に構築してみると、従来の5倍開発スピードが高まり、開発コストは5分の1」と、Force.comのメリットを改めて説いた。
chatterはプラットフォームであり単なるアプリケーションではない
Force.comに集うソフトウェアベンダーと企業顧客のエコシステムを紹介した後、ベニオフ氏は、前日発表した「Salesforce Chatter」を再度紹介した。
ベニオフ氏は「エンタープライズの人たちに対し、コンシューマーWebでこれだけできるということをみせていきたい。われわれは(TwitterやFacebookを作った)天才の肩に乗って引っ張っていくのだ」と話す。実際、Salesforce Chatterは、TwitterやFacebookのようなコンシューマーWebのパワーを企業にもたらすものである。
では、なぜTwitterやFacebookを直接利用しないのか。ベニオフ氏は「TwitterやFacebookはデータが社外にあるため、企業側が管理できない」と企業利用におけるボトルネックを簡潔に表現、そのため、TwitterやFacebookが持つ機能をForce.comにプラットフォームレベルで統合することで、セキュリティを担保した上で、コンテンツマネジメントだけでなく、アプリケーション管理も可能にしたと話す。
「もはやエンドユーザー向けのアプリケーションではなく、エンタープライズ向けのソーシャルプラットフォーム。この画期的なプラットフォームを活用し、企業はソーシャルネットワークの使い方を発見してほしい」と新しい時代の企業システムを再考してほしいと話し、講演を締めくくった。
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