顧客をリードするProject Management手法ITビズ・キーワード(8)

» 2001年05月16日 12時00分 公開
[荒木直子,@IT]

 「会議は踊る」、そんな状況に出くわしたことはないだろうか? 自社の大規模なシステム構築プロジェクトにおいて、あるいは顧客のSCMやCRMなどを構築するためのシステム・コンサルティングの現場などで、一向に意見がまとまらない……あなたがもしそうした場面においてプロジェクト・リーダーあるいはシステム・コンサルタントだとしたら、その場をうまくまとめるためのメソッドは持っているだろうか。

複雑かつ大規模なプロジェクトが増えている

 オールド・エコノミーと呼ばれる既存の大企業などは、以前から「経営改革」「業務の効率化」と銘打ってはコンサルティング企業からのアドバイスを受けたり、自社開発の大規模システムを導入したりしてきた。

 最近では、「eビジネス構築」という名のもとに、CRM構築やWebを使ったECなど、いままで以上に複雑かつ大胆な変革を目指している企業が増えている。しかも、それにつれてソリューションも多種多様になり、製品1つ選択するにもさまざまな角度からの検討が必要になっている。

 そうした大規模なシステム構築プロジェクトでは、検討すべき課題が全社にわたることが多いし、プロジェクト関係者も複数部門から集まってくる。そんな混沌とした状況の中で、いつまでたっても仕様が決まらない、いったん決まったはずの仕様がたびたび変更される、ということはよくある話なのではないだろうか。

 プロジェクトを効率的に進め、顧客をうまくリードするために、押さえておきたいポイントと参考になる手法を紹介しよう。

プロジェクトを成功に導くポイント

 まず、一番肝心なのはプロジェクトのゴールを明確に定めることであろう。そのために欠かせないのが、顧客の問題意識をきちんと探ることである。集まったさまざまな部門の人々はそれぞれ違う問題意識を持っていることが多い。どこか1つの問題意識にとらわれすぎては、他部門からの協力を得ることが困難になってしまう。つまり、自分には関係のないことだ、と思われたら、全社一丸となって、という足並みをそろえることが難しくなるからだ。

 次に、プロジェクトを成功に導くのにだいたい50%のカギを握るのは、キーマンとなる意思決定者をうまく巻き込むことができるかどうか、ということではないだろうか。つまり、意思決定権のない者だけで合意していたとしても、最終的に意思決定をするのはその権限を与えられた者であり、意思決定という最終関門において、それまでのプロセスがすべて覆されることもあり得るわけだ。一番望ましいのは、プロジェクトの仕様を固めるまでのプロセスに、そうした意思決定者全員に参加してもらうことだろう。

 それから、大規模なプロジェクトを成功させるためには、初期段階においてはプロジェクトのゴールとなるビジネス・モデルを策定するためのメソッド、また実際に開発の段階になった場合にはプロジェクトのプロセスを管理するためのメソッドを持つことが重要であろう。

プロジェクトのプロセスを管理するための手法

 自社開発(この場合の自社というのはすべて自分たちで賄うという意味ではなく、1から10まで、自社向けにオーダーメイドでという意味である)システムや経営コンサルティングなどでは、プロジェクトそのものが大規模になるため、必ずといっていいほどそのプロジェクトを遂行していくための管理手法が必要となる。

 その場その場で問題を解決していても、一貫したプロセス管理の手法がなければ、開発の遅れやリソース配分のミスなど、プロジェクト全体の遅延の原因ともなり得る問題が次々に起きてくる。

 プロジェクト・マネジメントとは、タイム・スケジュール策定やプロジェクト・メンバーの手配、予算管理、進行管理にとどまらない。プロジェクトのゴールに向けてあらゆる作業手順を整え、問題点の把握や処理、社内外の調整など、さまざまな場面で意思決定を下すための手法ともいえる。それは知識だけで補うことはできないが、同時に経験だけで醸成されるものでもない。

 システム構築の現場では、こうしたプロジェクト・マネジメントの経験者が少なく、大規模なプロジェクトになればなるほど全体を見通して管理できる人材の不足が叫ばれているのが現状だ。アメリカでは「Project Management Professional」という資格も整備されているが、日本ではアイシンクのオンライン教育によりこうしたプロジェクト・マネジメント手法を学ぶことができる。

eビジネス構築におけるコンサルティング手法

 eビジネス構築における事業戦略のコンサルティングを手がけるヘッドストロングでは、「headwayアプローチ」というユニークなコンサルティング手法を携えている。

 この「headwayアプローチ」では、まずキーマンとなる意思決定者を集めて、短期間(通常3日程度)に自社の問題点などの現状分析やeビジネスのゴールとなるビジネス・モデルの策定を進めるが、そのプロセスにおいては、視覚に訴えるよう、図が描かれたカードを用いて顧客をリードしている(図1)。カードにはさまざまなデジタル・ビジネス・モデルが描かれており、それらを話の流れに応じて提示し、また組み合わせながら顧客をリードしていくということだ。

図1 1枚1枚のカードにこうしたビジネス・モデルのイラストが描かれている
(出所:ヘッドストロング)

 こうしたカードを用いた手法は、そこに集まった人の視線を1点に集中させることで、議論があらぬ方向へ発展してしまい、肝心なポイントがずれてしまうことを防ぐ効果があるという。また、その場で交わされるさまざまな意見に沿ってカードを提示していくことで、議論を1つの流れとして参加者の理解を深めるとともに、最終的には合意に達するよう仕向ける効果も発揮しているとのことだ。

 ヘッドストロング社では、こうしたカードを用いたコンサルティング手法に対して、社内研修を行い、実際のコンサルティングに近い形で研修の成果を測り、独自のCertification(認定)を授与しているという。

 「実際、システム・インテグレータなどでコンサルティングを担当しているところからは、このカードを用いた手法を使わせてほしい、という引き合いもいただきました。独占する気はないですが、手法自体をライセンス供与するなどということは、いまのところ考えてはいません……」と同社の代表取締役社長の大金正氏は戸惑い気味に話す。

コンサルティングはeビジネスには欠かせない羅針盤

 米国のコンパック・コンピュータ社が2001年4月に、eビジネス向けのコンサルティング会社であるProxicom社を2億6600万ドルで買収すると発表した(ただし、その後この案件はキャンセルとなってしまったが)。こうした動きをみても、これからのeビジネス・システムの構築にはコンサルティング会社が持つ手法、つまり顧客をうまくゴールへとリードしていく羅針盤のような役割が欠かせないものになっているということではないだろうか。

 CRMやECなどのシステム構築を含め、eビジネスそのものを成功させなければならない役割を担う人は、プロジェクトのゴールを明確に定め、そこまでのプロセスをコントロールできるだけの手法を身につけておいた方がよさそうだ。

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