SIPS(前半)〜システム構築の救世主となりえるか?〜ITビズ・キーワード(2)

» 2000年12月21日 12時00分 公開
[末岡洋子,@IT]

 「システム構築」の常識に変化が表れた。これまではSI(システム・インテグレータ)やシステム系に強いコンサルティング会社が頼みの綱だった。企業には情報システム部門があり、そこがある程度のシステム企画、保守・管理を任されてきた。

 そこに、インターネットの普及とともに「Webサイト構築」という要素が加わり、企業活動や戦略の中で重要な位置を占めはじめた。その視点から企業システム構築全体をとらえるのが「SIPS(Strategic Internet Professional Service)」だ。

 前半では、日本に進出したSIPS各社の現状にスポットをあて、SIPSの持つ「強み」について解説する。後半では、今後SIPSが日本に定着していくための課題となりそうな点を取り上げる。

救世主? SIPS

 「今までのWebサイトでは機能しなかったという顧客が多いですね」と語るのは、インタービジョン・レーザーフィッシュ社の田中義啓社長だ。同社は、2000年5月17日に米レザーフィッシュ(Razorfish)とソニー系広告会社インタービジョンが合弁で設立した会社だ。

 その生い立ちからも分かるようにデザイン力が強みで、これまでの顧客にはイッセイ・ミヤケのオフィシャル・サイトや先日開催されたROBODEXの公式サイトなどがある。

 “早い段階でサイトを構築して、失敗した”顧客が、SIPS側の要求する少々高い金額を支払ってでも依頼する、この背景には、リードタイム短縮ばかりか、長期的にはコスト削減になる、という失敗体験から学んだユーザーの意図がくみ取れる。

SIではできなかったこと

 失敗した企業からは、「サイトが使いにくい」「ユーザーからのアクセス(ページ・ビュー)が少ない」といった反省点が挙がっている。「(その要求に対し)SI、コンサルティング、デザインの3要素を統合したサイトを提供する」と田中社長。SIが得意としてきた"テクノロジ"だけではなく、ビジネスの理解、さらにはデザインが不可欠ということらしい。明確なゴール(目標)を顧客とシェアし、この3要素を備えたWebサイトやECサイトを構築する、これが彼らの仕事だ。

 米国大手SIPSの1社、サイエント社が目指す方向性も似ている。同社は、2000年11月に本格的に日本での活動を開始したばかりだ。米国本社社長のRobert Howe氏は、Webデザイン、ブランディングの重要性を説き、「われわれは単なるWebサイトを構築するわけではなく、ビジネスそのものを構築する」と述べる。ちなみに同社ではブランディングに認知心理学を用いるという。同じく米国大手セピエントの日本法人も同様のメッセージを打ち出している。

 米国から進出したSIPSたちは、一様に"カスタマー・エクスペアリエンス"とか"ユーザー・エクスペアリエンス"という言葉を口にする。サイエント日本法人代表取締役社長東公明氏の言葉を借りれば「顧客が訪れて気持ち良いサイト」の構築はSIには無理、と判断したユーザーが現在のSIPS人気を支えているようだ。

 現在、日本で活躍するSIPSには外資系やベンチャーが多いが、その中でやや異色なのが富士通だ。2000年11月末、日本の大手メーカーとして、初めてSIPS市場に名乗りを上げた。同社のシステム本部コンサルティング事業部が、米国大手セピエントの日本法人、日本のSIPSの先駆者であるメンバーズと提携した。富士通というブランドの持つ信頼感を後ろ盾に、分かりやすいメニュー構成で市場に打って出た。

 「発表以来、問い合わせが相次いでいる」と語るのは同社コンサルティング事業部長伊藤大挙氏。同社の顧客のほとんどは、本格的にWebでのチャネルを持つのは初めてという。「マネジメント力が強み」という同社では、「Support Desk」を用意、構築後の安定稼働支援で他社との差別化を図る。

ワーク・フローに沿った技の統合

 技術・コンサルティング・デザインの統合に加え、迅速なシステム構築を特徴の1つとするSIPSでは、5カ月程度でサイトを立ち上げるとしている。舞台裏ではどんなことが行われているのか。インタービジョン・レーザーフィッシュ社の例を紹介しよう。同社では、「エンビジョン」「シェープ」「リアライズ」の3フェーズでの作業を行う。

インタービジョン・レーザーフィッシュ社のシステム構築ステップ

  受注の前提として「ヒアリング」と呼ばれるステップが用意されている。「きちんと動く・機能するシステムを構築する」という同社では、顧客の現行システム全体を1週間かけて分析する。

 そして、ビジネス、ブランド、技術の各チームから1名ずつと田中社長と担当者が参加するミーティングにおいて、実現可能なプロジェクトかどうかを審査する。そこで初めて、受注する・しないの決定が下されるのだ。システム構築にあたっては独自の「統合メソッド」を用いる。

インタービジョン・レーザーフィッシュ社のシステム構築における統合メソッド

 SIPSはプロフェッショナル集団だが、適所で各分野のプロの知識やノウハウを発揮するためにはフレームワークが必須なのだという。同社の場合、「戦略」「技術」、インターフェイス開発やデザインを行う「エクスペアリエンス」の3チームに分かれている。

 さらに、プロジェクトの管理を行う「バリュー」チームを中心にネットワークを形成している。各チームの仕事のバランスをうまく統合するため、各フェ−ズでこの4チームが何をしなくてはいけないのか、スキルごとに細部にわたりリストアップする。将来起こり得る問題も含めて「しらみつぶしにチェックする」(田中社長)という徹底ぶりで、業務にあたるという。

 このように明確なワーク・フローを持つのは同社に限った話ではない。SIPSではどこも独自の方法論を持つ。AT&TiSteelAsiaなどのサイトを手がけてきたサイエント社では"エンドtoエンドのビジネス戦略"と銘打って「サイエント・アプローチ」という手法をとっている。セピエントでは、チームのリーダーシップを統合する独自手法を「ワンチーム・アプローチ」と呼んでいる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ