EC-Beans コンソーシアム〜SIPSに宣戦布告?サービスに自信あり〜ITビズ・キーワード(4)

» 2001年02月14日 12時00分 公開
[荒木直子,@IT]

<今回の内容>

■「EC-Beansコンソーシアム」設立

■SIPSがサポートしきれないサービスとは

■どちらを選ぶべきか

■本当のライバルはSIPSではないのかも


 鳴り物入りで始まった米国SIPS企業の日本進出だが、本国ではそれどころではない非常事態宣言が出された会社もある。2001年を迎えてからというもの、電通と組んで日本で合弁会社を設立した米マーチファーストの2001年事業計画においては、従業員550名の追加解雇が発表されたり、米レーザーフィッシュでも400名の解雇が発表されたり、と暗いニュースが続いている。

 聞くところによると、米国ではSIPS企業の顧客にいわゆるドット・コム企業が多く、ほとんどの場合、エクイティ・ペイメント方式によってそのプロジェクト報酬が支払われていたという。つまり、2000年後半にかけてドット・コム企業に暗雲が立ち込めたと同時に、SIPSはその勢いを失い始めたということだろうか。

 国内でSIPS企業が最初に大きくとりあげられたのは、2000年11月、ファーストリテイリングのプロジェクトに関する報道(「日経コンピュータ 2000.11.20(no.509)」に掲載)であった。この報道によって、「ネットイヤーグループ」がSIPS企業であることが広く知れ渡った。

 今のところ、国内ではSIPS企業の成功物語はまだ語られそうにない。このような時期に、SIPSにとってはさらに頭の痛くなる話題をお届けする。


「EC-Beansコンソーシアム」設立

 2001年1月16日、丸紅ソリューション、インテルなど9社が集まって、「EC-Beans コンソーシアム」設立の発表を行った。「EC」「ビーンズ」と聞けば、てっきり「電子マネー」か「電子決済システム」の新規事業発表かと予想して出かけたのだが、どうやらそれは予想とは大きく異なり、ある意味、決起集会のようであった。

 「EC-Beans コンソーシアム」とは、IT関連の企業9社(インテル、システムオリコ、ユニファイジャパン、クボタシステム、アーム、NECドキュメンテクス、日本システムウエア、ウィルネット、丸紅ソリューション)が連携することにより、さまざまな業種・業界向けにインターネット事業を総合的に支援するサービスを提供するというもの。

 丸紅ソリューションの宍戸氏は、サービス概要のプレゼンテーションにおいて、「SIPS企業がサポートしきれないサービスを我々は提供していく」と述べている。これはSIPSに対する宣戦布告ともとれる発言だ。

SIPSがサポートしきれないサービスとは

 彼がいわんとすることは「eビジネス構築の上流から下流まで、SIPS企業1社ですべてをサポートしようというのは、そもそも限界がある。細かいところまで目が行き届かないのは当たり前なのでは?我々は、それぞれのプロセスにおいてのプロフェッショナルなので、問題解決の経験がノウハウとして蓄積されている分、SIPSの個々のプロセスにおけるそれよりも高品質なサービスを提供できる」ということらしい。

 例えば、自宅を新築しようとした場合、ある若手の建築家に家の設計から施工、インテリアまでまかせるのが“SIPS”方式だとする。一方、“EC-Beans”方式というのは、実績のある設計士に設計を頼み、建物は建築業界では名の通った会社に発注し、インテリアに関してはインテリア・コーディネーターにお願いするということになるだろう。

 それぞれの工程において、その道のプロが担当してくれるわけだから、高品質かつ適正なサービスが受けられるだろうということは容易に想像がつく。だが、ユーザーからすれば、窓口となってくれる1社にすべてお願いできるという、便利さとトータル感がSIPSのうりであり、実際、SIPS企業はそこをコア・コンピタンスとしている。

 EC-Beansはそこを逆手に取ろうというのだ。「個々のクオリティにこだわった、そしてきめの細かいケアはプロフェッショナル集団にしか提供できない」「本気でeビジネスを構築するなら、便利で手軽なトータル・サービスよりも、専門企業の複合サービスを選ぶべきだ」というわけらしい。

どちらを選ぶべきか

 今までなら、「Aという製品なら、××社、Bという製品なら○○社」といった具合に、単独サービスを考えた場合には、いわゆる老舗ブランドを指名して選べばそう間違いはなかったのだろうが、複合サービスとなると、そうはいかない。

 「Aというサービスにはどのようなメリットがあって、何が足りないのか……それに比べてBというサービスはどうなのか……」。似たようなサービスを比べるにしても、比べる基準を見出すこと、それ自体が難しい。どれも一長一短だという場合もある。

 何かを決める場合には、必ずメリット、デメリット両方の側面が現れる。そうしたときに、どちらを選択するか……企業が意思決定をする場合には、どんな場合にも“トレード・オフ”がつきものだ。100%こちらがいいという結果が出ない限り、何かを得るためには、何かを捨てねばならない。

 eビジネス構築の場合もしかり。第3回で掲載した「SIPS(後半)」にもあるように、お金を出して依頼したら思い通りのものが出来上がるなどと思ったら大間違いだ。SIPSやEC-Beansの担当者のプロジェクト・マネジメント力が欠如しているからうまくいかない、と開き直ってみたところで、決してeビジネス構築がうまくいくわけはない。

 成功させたいのなら、まずどちらのサービスを選択するか、自社の意思決定プロセスにおいて、確固たる根拠に基づいた意思決定を下さなくてはならない。あくまでも、意思決定を下すのも、最終的に責任を持つべきなのもその企業自身であることを忘れてはならない。

本当のライバルはSIPSではないのかも

 宣戦布告のようにもとれる内容だが、EC-Beansがターゲットとする顧客企業は、SIPSのそれと直接は重ならないようだ。ご存知のように、米国SIPSの多くはベンチャー企業を顧客の主体として業容を拡大してきた。

 しかし、ネット・バブルがはじけた今となっては、ベンチャー企業をターゲットにわざわざコンソーシアムなど設立するわけがない。あくまでもEC-Beansは、既存の、まだECサイトなどを持たない企業を中心に顧客を開拓していくという。

 だとすると、本当のところ、「競合は?」というと、実はSIPSではないのかもしれない。第1回目の「エクイティ・コンサルティング」で書いたように、大手コンサルティング企業が見込みのあるベンチャーのコンサルティングを引き受けるのは、なにもベンチャー企業を主要顧客として取り込みたいからではなく、その延長線上には、eビジネス構築の際にシナジー効果をもたらすであろうベンチャーを巻き込んだ上で、既存企業のeビジネス構築のたて役者になろうという目論見があるからなのだ。

 もはやベンチャー企業に頼ることができないと気づいたSISPたちも、自らの生き残りをかけて、既存企業を主要顧客として取り込もうとしてくるだろう。そうした意味では、すでにSIPSたちもコンサルティング会社のeビジネス構築分野進出に対しては警戒し始めているようだ。

 いずれにせよ、今後eビジネス構築という巨大な河の流域には、その河に集まる魚を求めて、さまざまな形態の支援サービスが生まれるに違いない。顧客の争奪戦は今始まったばかりなのだ。

EC-Beansコンソーシアム
(URL: http://www.msol.co.jp/ecbean/
コンソーシアム参加企業一覧
(URL: http://www.msol.co.jp/ecbean/consortium.html
今後予定されているセミナーなど
(URL: http://www.msol.co.jp/ecbean/event.html

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ