SIPS(後半)〜「契約ビジネス」という壁をこえられるか?〜ITビズ・キーワード(3)

» 2001年01月10日 12時00分 公開
[末岡洋子,@IT]

 前回は、SIPS企業の「強み」とは何かについて解説した。後半部分では、日本市場においてSIPSが本格的に展開する上で越えなければならない壁とは何かについて解説する。

日本ではウェルカム・ムードのSIPS

「SIPSではなくDSP――デジタル・ソリューション・プロバイダ、と名乗っています」と田中社長。“デジタルをビジネスに生かす”という発想からだそうだ

 米国で誕生したSIPSビジネス、今のところ、日本ではウェルカム・ムードだ。2001年には、電通と米大手マーチファーストとの合弁会社が本格始動する。こんな動きを、市場は好意的に受けとめている。実際、需要に対して供給が追いつかないというインタービジョン・レーザーフィッシュ社の田中社長は「コンペティタの登場はウェルカムだ」と語る。

 だが、ビジネスとして定着するかどうか、答えが出たわけではない。田中社長の言葉の裏には、SIPSコンセプトを広めるためにも、プレーヤは多い方がいいという考えが見え隠れする。

 その一方で、早くもその可能性に後ろ向きな声も上がり始めている。先日、報道されたSIPSを用いて構築したシステムの失敗例に対しては、SIPS側のマネジメントの能力不足が指摘された。本場米国では、主要なSIPS企業の株価を見れば、市場での評価が厳しいことが分かる(参照:米国の「SIPS」事情)。


顧客側に求められる意識改革

 だが、一方的にSIPS側を責めるのではなく、顧客側に対し、意識の変化が必要だという見方もできるだろう。SIPSは、どちらかというと顧客の指示通りにシステムを構築してくれたこれまでのSIとは違う性質を持つ。そのため、顧客側で新たな付き合い方ができるか否かによっても成果が左右される。

 今後、SIPSが日本市場に根付くかどうかにおいて懸念される点の1つに、契約ビジネスという特性が挙げられる。前半で触れたSIPSビジネスの流れからも分かるように、このビジネスにはあいまいさがない。つまり、顧客となる日本の企業側が、日本のビジネスにおける商習慣(口約束や暗黙の了解など)とは違って、互いの責任関係を明確にした付き合いを受け入れられるかどうかという、越えなければならない壁である。

 田中社長はこれまでの経験から「受発注を含めたエンゲージメントが日本の土壌に合わないようですね」と、日本での展開の難しさを暗に認めている。例えば、顧客である企業側には、窓口となる担当者の選出、厳しいスケジュール管理が求められる。「書類を期日までに提出しないとペナルティ、つまり契約違反です」と説明すると、困った顔をされることもあるらしい。

 「確かにシビアです。われわれは成功を約束しますが、それは顧客側からのコミットなしにはあり得ません」(田中社長)。契約を交わし、契約金を支払えば、あとは手放しで素晴らしいサイトが出来上がるという顧客側の目論見ほど、現実は甘くはないということだろう。

 厳しいコミットメントが求められる代わりに、プロジェクトの透明度が高いという長所もある。同社では顧客にも進捗状況が把握できるようにエクストラネットを張り情報を共有しているという。

 もう1つ、人材も課題に挙がる。企業のビジネスと情報システムの構築のみならず、さらにはブランディングやマーケティングまで行う彼らのビジネスは、SI単独ではなし得なかった全方位的なものだ。

 現時点では、米国系のSIPSは、本国からの支援部隊なしでは業務をこなせないようだ。日本生まれのSIPSでも、コンサルティング分野でのスキル不足などが指摘されており、このままでは本格展開の前に息切れしてしまう可能性もある。

岐路に立たされる情報システム

 SIPSという新たな選択肢の登場は、“情報システムに対する考え方を根本から変える必要がある”という各企業が直面する課題を浮き彫りにしている。田中社長は「日本はハード面からシステムをとらえがちだが、米国ではまずビジネスという側面からシステムをとらえている」と指摘する。

 確かに、日本企業でCIO(最高情報責任者)という役職が定着していないように、戦略の1つとしてとらえられていなかった事実は否定できない。企業と情報システムのあり方が根本から変わるのかもしれない。

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