CRM製品の賢い選び方ITビズ・キーワード(9)

» 2001年05月19日 12時00分 公開
[荒木直子,@IT]

 2001年4月に行われた日本ガートナーグループ主催のE-Business & Commerce Conference 2001で、「CRMアプリケーション・ベンダー:1社だけでは、不充分」という大変興味深いセッションが行われた。

 ガートナーグループのバイスプレジデント兼サービス・ディレクターのエドモンド・トンプソン氏によれば、米国におけるCRMアプリケーション(スイート製品)を選ぶ際に重要視するファクターは以下のとおりである。

図1 CRM製品(スイート)を選ぶ際に重要視するファクター
出所:日本ガートナーグループ 2001年4月

CRM製品は「Suites」と「Best of Breed」の2つ

 CRM製品を選択する際に、まず基本的な製品の特徴をつかむ必要があるだろう。「Suites」製品というのは、CRMを構築するのに必要と思われるひととおりの機能を包括的に取り入れたパッケージ製品である。

 その一方で、「Best of Breed」製品と位置付けられるものは、例えば、「コンテンツ・マネジメント機能」「キャンペーン・マネジメント機能」「パーソナライゼーション機能」など、ある特定の機能のみ、あるいは幾つかの機能を組み合わせた製品群であり、マーケティングや営業支援、コールセンターなど、ある特定の分野において特に優れた機能を提供するものである。

 例えば、CRM製品ベンダとして大手のシーベルやオラクル、ピープルソフト、SAPなどが提供する「Suites」製品群などはCRM構築に必要なほとんどの機能は有しているが、それですべてが足りるというわけでもない。というのも、自社の戦略や組織にとって最適なシステムを考えた場合、どこかに力点がくるはずで、「Suites」製品をそのまま採用したとしても、それはあくまでも全体最適であって、部分最適とはならないからだ。

 エドモンド・トンプソン氏は「CRMを構築する際にはCRM製品ベンダ1社では不十分であり、必ず『Suites』と『Best of Breed』の製品をうまく組み合わせることが重要。その目安としては『Suites』7割、『Best of Breed』3割の組み合わせが妥当」との見解を示している。

ベンダ選択の際のもう1つの指標

 図1で示した中に、「Viability」17.2%というのがあるが、これは何を意味しているかお分かりだろうか? 直訳すれば“生存能力”となるが、これはつまりCRM製品を提供する会社そのものが存続していくための企業体力だけでなく、その可能性自体も含まれているということだ。

 システム・インテグレータの担当者であれば、いまさら何を……と思われるかもしれないが、最近は米国でのドットコム企業の相次ぐ倒産や、吸収や合併、統合によって、ユーザーの意図には関係なく、しかも想像以上に急激にベンダは姿を消したり、姿を変えたりしているのだ。こういう時代だからこそ、なおさら「Viability」に対して、神経質にならざるを得ないことは納得していただけるはずである。

 単純に「歴史のある会社の製品だから」「規模の大きい会社の製品だから」「新しい製品だから」「価格が安いから」といった理由だけで製品ベンダを選んでしまっては、思わぬときに、製品のサポート・サービスを受けられなかったり、当初見込んでいた製品開発スケジュールが大幅に変更されたりで、自社システムの存続さえも脅かす状況になりかねないということではないだろうか。製品サポートは、いうまでもなく、ベンダ企業の存続と密接にかかわっているということなのだ。

 大規模な自社開発システム構築の場合には、将来にわたってのサポート体制を完全な形で保全するために、サポート体制を協力会社などに任せっきりせずに、開発手順や仕様書などを第三者機関に登録するという手段もあるにはある。しかし、パッケージ・ソフトを購入する際には、いかにして、その製品のサポートを長期間にわたって受けられるかを、製品購入時に見極めることが大きな課題となっている。

 「とりわけCRM製品業界では、今後2、3年以内にはさまざまな企業が淘汰され、大手ベンダへの統合などが進む」とエドモンド・トンプソン氏は警告している。多くの企業がCRM構築にやっきになっているからこそ、大小さまざまな企業がCRM製品ベンダとして名乗りを上げるが、製品そのものを選ぶとともに、業界の動きや企業そのものへの与信調査なども、これからのCRM製品選択の際には必要な指標となりそうだ。

「コスト」という指標

 最後にコストについても考えてみよう。CRM製品購入担当者にも「予算」はつきものであろう。予算に上限がない場合には、好きなだけ製品を試して、あるいは可能な限りカスタマイズしてもらえばよい。だが、そんな担当者は皆無に等しいはずである。

 システムを導入する際に、コストを削減する方法としてASPがもてはやされているが、部分最適を考えた場合、適当なASP業者が見つかったならば利用しない手はない。だが、ASPはそもそも薄利多売的な製品で、カスタマイズには向かなかったり、あるいは自社にとっては「帯に短し、たすきに長し」的な製品であったりすることが多いのも事実だ。

 ASPはさておき、前回「顧客をリードするプロジェクト・マネジメント手法」を書いたが、実はこのプロジェクト・マネジメントにかかる費用というのが実は案外ばかにならないらしいのだ。

 この点についてもエドモンド・トンプソン氏は次のように述べている。「プロジェクト管理やシステム要件の定義、製品ベンダの評価は自社で手がける方がコストはかからない。こうしたプロセスを外部に委託する場合にはシステム導入コスト全体の20%程度はアップすると考えた方がよい」

 CRM製品の価格はたいていの場合、ユーザー企業へのカスタマイズの程度によって変わってくる。システムそのものの定価はないものと思った方がよいのだが、サポート体制やカスタマイズの程度、システム導入プロジェクトにおけるサービス範囲など、製品以外のところで予想外にコストがかかるということも念頭においておかなければならないだろう。

 すべてをベンダ任せにせずに、「自社に最適なCRM製品とは何か」を「機能」ごとに評価し、必要な機能の実現に向けては「どの製品を導入すればよいか」をきちんと評価/判断すること、それがコストを上昇させないテクニックの1つということらしい。

 多岐にわたる機能を備えたCRM製品では、その製品の評価は大変難しいものとなってはいる。が、ここで紹介した幾つかの指標も参考にしていただき、自社にとっての最適なCRM構築に向けて、さまざまな角度からCRM製品を眺めてみてほしい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ