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» 2003年05月03日 12時00分 公開

統合CRMを支える情報基盤(3):BIツールで構築する「顧客起点」のビジネスプロセス 真の統合CRMを実現するビジネスインテリジェンス

顧客に真の価値を提供するには、いままで「企業側の論理」で構築されてきたビジネスプロセスを再構築しなければならない。そして自社のプロセスが顧客にとって価値があるかを検証するには、ビジネスインテリジェンス(BI)が必要になる。BI、OLAP、データマイニングツールを使い、その結果を具体的なアクションに結び付けてこそ「顧客視点のビジネスプロセス」が構築できるのだ

[泉谷 章,日本NCR株式会社]

勝ち残りの原点は「顧客価値創造」

 家電産業、自動車産業、住宅産業等どの産業を見ても、一時期までは需要が供給を上回り、量産技術やハードセールスが競合他社との差別化の原点だった。「三種の神器」「新三種の神器」「モータリゼーション」「持ち家信仰」が日本の経済をけん引し、各業界は隆盛をおう歌した。

 ところがいまや、すべての産業で供給が需要を上回っている。このような経済環境を「カスタマーエコノミー」という。市場の主役は、メーカーやベンダから完全に消費者に移ったのである。従来の猛烈なハードセールスといった営業手法はもう通用しない。消費者はモノに飢えているわけではない。モノを通じてそれがもたらす価値を買うのである。

 だが、企業が考える「価値」と消費者が考える「価値」にはギャップがある。それどころか、価値は人によって異なるのである。各人によって異なる価値を提供できた企業だけが、消費者から選ばれるのである。どれだけ「価値」を提供できるかが企業の勝ち残りのカギであり、マーケティングの考え方も「いかに売るか」から「いかに価値を提供するか」にパラダイムをシフトしなければならない。

BPRには「データ統合」と「ビジネスインテリジェンス」が必須

 「カスタマーエコノミー」時代に対応すべく、各社はまず「ビジネスプロセスの変革」に取り組んできた。ところがこの変革への取り組み姿勢に、少々怪しいところもある。本当に顧客に「価値」をもたらすプロセスを再構築しようとしているのか、ブームとなったERPやSCMのパッケージの導入自体が目的となっているのか、はなはだ怪しいのである。

 それはさておき、従来の企業側の組織論・効率論から構築されてきたビジネスプロセスを、顧客の目線から見直して「価値、便益」を顧客にもたらすプロセスに変革するためには、プロセス統合とそれを補完するデータ統合の両方が必要であることを論じてきた。そしてデータ統合のためのデータウェアハウス構築方法を説明してきた。明細データの格納庫としてのデータウェアハウスが用意されても、それは入れ物としての箱が用意されただけである。この格納庫にデータをロードする機能と、格納庫内のデータを有効活用するための機能も重要だ。

 データの発生源である基幹系システムから、いかにクリーンなデータを抽出・変換・ロードするかというプロセスは「ETL(Extract Transformation and Load)」と呼ばれており、データウェアハウスへのデータの転送には、各種ETLツールや「EAI(Enterprise Application Integration)」ツールが利用される。必要なデータの発生源であるソースシステムを特定し、同じデータでもソースシステムによって“けた数”が違ったりフォーマットが異なっているデータを変換したり、コード変換を行ったり、クリーンなデータをロードする工程は地味ではあるがデータウェアハウスを新たに構築するうえで最も開発時間がかかる部分であり、非常に重要な部分でもある。

 蓄積されたクリーンなデータを活用する部分は「BI(Business Intelligence)」と呼ばれ、BIツール、中でもOLAP(On-line Analytical Processing)ツールが一般には使われている(図1)。

ALT 図1 ETLとデータウェアハウスとOLAP
*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属

 

BI/OLAPツールで得た結果をビジネスに生かす

 データウェアハウスが導入された初期の時代には、BI/OLAPツールが世の中になかったため、致し方なくSQLを組んでデータを活用してきた。SQLを組めるユーザーは限定されたパワーユーザーで、それゆえデータの活用も限定されていたといえる。

 その後データウェアハウスは一部のパワーユーザーによる「DSS(Decision Support System)」と呼ばれる「戦略的意思決定支援」から、普通のビジネスユーザーが日常業務の中での戦術的な判断に使うように広がってきた。そこで登場してきたのがBI/OLAPツールである。このツールの登場によって、一般のビジネスユーザーはSQLのコーディングから解放された。日常のビジネス用語を使って、縦・横・斜めからの各種分析レポートをExcel並みの操作性によって作成できるようになった。

 すべてのプロセスをモニタリングし、現状のビジネスプロセスが本当に顧客にとっての価値創造に役立っているのかを分析する。もし役立っていない場合は、その真因は何かを知り改善を実施しなくてはならない。その具体的な「行動力」のためには「知力」が必要であり、適切なBI/OLAPツールの採用は企業の「知力」を左右するものなのだ。 まさに単なる「データ」を「インフォメーション」(知識)に変え、さらに「インテリジェンス」(知恵)に変えるためのツールといえる。

 

検索の目的によって分析システムを選択する

 エンドユーザーから発生する情報要求は、(1)定型検索、(2)半定型検索、(3)非定型検索の3種類があり、検索の種類によってそれぞれ操作性の難易度やパフォーマンス、情報の提供方法が異なってくる(図2)。

ALT 図2 検索要求と機能分類(クリックすると図版を拡大表示)
*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属

 図3の分析型検索機能である「MOLAP(Multi-dimensional On-line Analytical Processing)」とは、データウェアハウスに蓄積されたデータから生成した要約情報をサーバ側で多次元データベースに格納し、クライアントからの処理要求に応じてデータを切り出して送出する。対して「ROLAP(Relational On-line Analytical Processing)」は、データウェアハウスに格納されたデータを直接検索・集計し、結果をクライアント側で多次元データに構成して視覚化するためはるかに自由度が高い。MOLAPはROLAPに比べて「処理が速い」という利点があるが、「あらかじめ多次元データベースを定義・生成しておかなければならない」という欠点もある。

ALT 図3 MOLAPとROLAPの違い
OLAPとは、OnlineAnalytical Processingの略でエンドユーザーが直接データベースから多次元的に分析を行い、視覚化するシステムのこと。OLAPには、大別すると「MOLAP」と「ROLAP」の2種類があり、用途・要件により使い分けられる*図の著作権は日本NCR株式会社に帰属

 いずれにしても万能のツールはなく、エンドユーザーの目的に応じたツール選択が必要となる。

データマイニングで何ができるのか?

 蓄積された大量の生データ、明細データという“宝の山”から、コンピュータで自動的に分析することによって、経験や勘だけでは思い付かないような有益なルールなどを、金塊を発掘するように見い出すことを「データマイニング(Data Mining)」という。人間が仮説を立て、検索や集計を繰り返して何らかの答えやルールを発見するOLAPに比べ、これはルールをコンピュータに自動的に発見させようとするものである。

 データマイニングの成果の例として、いまや伝説となった「紙おむつを買う男性は、缶ビールを一緒に買うことが多い」というルールの発見が挙げられる。米国のあるスーパーマーケットで「マーケットバスケット分析」(1回の購買に関するデータを分析することで、商品の並買関係を探ること)を実施した結果、「紙おむつと缶ビールが同じ顧客によって同時に購入されている事実が明らかになった」という伝説である。

 このように、データマイニングを活用すると、一見何の関係もないことからも有益なルールを自動的に発掘できる。そのルールを利用し、将来を予測することで、意思決定に役立てることも可能だ。ただし各種マイニングツールの利用に当たっては、モデリングのアルゴリズムに使われている線形回帰法やロジスティック回帰法、決定木導出法、ニューラルネットワークなどの高度な数学的知識と、ビジネスへの深い理解の両方が求められる。

「顧客起点経営」を実現・維持するためのクローズド・ループ

 「短納期」は、顧客にとっての価値の中でも代表的なものだ。同じ業界のトップ企業と二番手の企業では、納期に明らかに差があるといわれている。「すぐ持ってきてほしい」という顧客の要求を「顧客のわがまま」と片付けるのではなく、調達・生産・販売・物流のプロセス変革の原動力と考え、ビジネスプロセスを顧客目線で再構築すべきである。そして再構築されたプロセスが顧客価値を最大化しているかどうかを常にモニタリングする必要がある。モニタリングし、問題が発生していないかどうかを見極めるには、適切な評価指標(KPI : Key Performance Indicator)の設定も大切である。

 例えばサイクルタイムのKPIで、ある商談の納期に異常が発見されたとしよう。サイクルタイムに責任を負う物流担当者は、直ちにその異常の原因を探らなければならない。受注情報の約束納期、製品マスターの標準納期、工場からの出荷実績データ、物流センターからの出荷実績データ、デポからの出荷実績データ、物流委託業者からの受領データなど多岐にわたるソースシステムの複数のテーブルからデータを検索し、ジョインし、多次元分析を行った結果、ある物流委託業者のある運転手に問題があることが分かり、この物流委託業者に改善を指導した。

 これはデータウェアハウスに物流の明細データが履歴としてストアされており、担当者が使い慣れたOLAPツールで複雑なクエリを発行できたために、真因というビジネスナレッジを発見し改善に結び付けられた例である。もし途中にサマリデータしか残されていなかった場合には改善のアクションには結び付かなかったであろう。このように、データウェアハウスは決して高度なマイニングやDSSだけのものではない。ましてや定型レポート作成のためのものでもない。

 以上のように、ビジネスプロセスを実行する基幹業務システムを再構築し、情報系のデータウェアハウスでプロセスをモニタリング・評価し、明細データから問題点を発見し改善し続けることは「顧客起点経営」を実現し維持するためのクローズド・ループである。

著者紹介

▼著者名 泉谷 章(いずみたに あきら)

日本NCR株式会社 ソリューション統括部 エグゼクティブ・コンサルタント

ERP・SCMの前身であるMRPのソリューション・ビジネスに長年携わり、1996年には日本で最初のコールセンター、SFA、フィールド・サービスなどのオペレーショナルCRMビジネスを立ち上げる。2000年からはアナリティカルCRMに活動領域を広げ、現在は統合CRMのみならずERP、SCMを含む顧客起点経営のためのビジネス・プロセス革新とデータ統合のコンサルティングに従事


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