12月2日、@IT情報マネジメント開設記念セミナーが渋谷マークシティで開催された。本セミナーで、情報マネージャの最重要課題として挙げられたのは「ROI測定」と「コスト削減」だ。この打開策をパネルディスカッションで明らかにし、セミナー受講者との交流を深めた。
@IT情報マネジメントの開設を記念し、セミナーイベント「@IT情報マネジメント交流セミナー」が12月2日開催された。セッション1ではアクセンチュア シニア・マネジャー 大川秋生氏が「戦略なき情報システム部門からの脱却」のテーマで基調講演を行った。セッション2では現役の情報マネージャがディスカッションを行い、情報システム部が抱える問題の洗い出し、実例に基づく打開策を提示。情報システム部の裏話などもあり、詰め掛けた情報マネージャの注目を集めた。
パネリストは
3氏は@IT情報マネジメントが掲載した記事 激論! 情報マネージャ「情報システム部門の緊急課題」でも情報システム部の課題を訴えている。
「情報システム部にとって緊急の課題は何か」――。モデレータの質問に対する3氏の答えで共通していたのは、「社内への説明責任」の重要性だ。新規システム開発や、次年度の予算、IT戦略立案など情報マネージャが社内で説明を求められるケースは格段に増えた、というのが3氏の共通認識だ。
これまでは、経営トップがITに詳しくないため、ある意味“どんぶり勘定”的なIT投資・戦略が可能だった。しかし、攻めの経営にはITが必要との認識が経営トップに根付くことで、ITの中身とその成果が厳しく問われている。サントリーの片山氏は「緊急課題はトップへの説明責任」としたうえで、「コスト構造をきちんと説明することが求められる。
しかし、情報システム部についての誰もが納得できる説明材料がないのが実情」と訴える。サントリーは今年10月に事業部制から社内カンパニー制に移行し、各カンパニーの独自性が強まった。これまで情報マネージャは経営トップのみへの説明が求められたが、今後は各カンパニーの社長にそれぞれ説明する必要がある。カンパニーは5つ。すべてのカンパニーの社長が納得するIT戦略を提案するのは難しく、片山氏を悩ましているようだ。
ダイアナ 池田氏は社内への説明責任を果たすキーワードとして“値ごろ感”を提案。「ITの現状をトップに理解してもらうには2?3の指標を示すのが関の山」としたうえで、「トップに対してシステムの現状を理解してもらえる期間、人、コストを示し、トップが感じる“値ごろ感”で決めてもらう」と説明した。システムの構築前や導入後の評価に、ROIを測定するのが流行となっているが、池田氏は「ROIを完ぺきに求めるには指標が多過ぎる」として、経営トップに分かりやすい数字を示し、“値ごろ感”に基づき理解を求める考えを示した。
清水建設の安井氏が挙げたキーワードも“値ごろ感”。だが、システムとしての値ごろ感ではなく、ビジネスに対する投資としての値ごろ感が問われるという。清水建設では社内の委員会が会社にとって必要なシステム、アプリケーションを答申し、経営トップが判断を下し、情報システム部が開発することになっている。ただ、情報システム部は依頼に基づき開発するのではなく、「情報システムが開発したいから開発する」という主体的な立場は堅持。「情報システム部自らがリスクを負い、判断し、実行するのがITガバナンスではないか」と安井氏は述べた。IT投資に対する評価指標を見つけにくいだけに、企業の情報システムに関する判断と実行に対して情報システム部門が責任を負わない姿勢では、社内的な位置付けが低下するという考えが背景にある。
本来は経営トップへの説明の有力な武器になるはずのROI測定だが、3氏の発言からは測定の難しさがうかがわれた。片山氏の意見ではCRMやSCMなど新たなアプリケーションに対するROI測定は比較的容易で、「ROIが丸裸になるので、例えば5年で回収できるかどうかがすぐに分かる」。実際にサントリーではSCMの導入などに関してROIを測定し、システム構築の評価に利用している。
問題はインフラやミドルウェアに対するROI測定だ。企業への電子メール導入のROIをどう測定するのか? 仮に測定できたとしても、その数値を正しいと誰が証明できるのか?こうしたインフラ系ITに関しては、池田氏が「電話、ファクスは必要だったから導入したのであって、事前に効果測定したわけではない」というように、そもそもROI測定が困難で、たとえ測定しても意味がないといえる。
片山氏は1997年に社内システムをWebベースに移行させた経験や2001年にJ2EEを導入した自社の先進的な実例から、「情報システム部門が自ら事業の中期計画を立て、それに基づき自立的にやっている。ROIではない」と語る。インフラのシステム構築ついては自立的に事業計画を策定し、その中で例えば5年後にコストを1割削減するなど具体的にコミットメントを行う。そして、情報システム部の判断に基づく手法で、責任を持ち実行するというのが3氏の意見だ。
企業が情報システムに使う予算では、単純にいって「システム/アプリケーション開発」が3割で、その運用に7割の予算が掛かるといわれる。この7割の予算内でいかにコスト削減するかが、情報マネージャの腕の見せどころといっていい。
先進的な情報システム部では、運用コストはギリギリまで削減している。片山氏は「自分たちの中で3年なりの中期計画をしっかりと策定し、コストダウンに関して各カンパニーと合意していくしかないと気付いている」と説明。「現在、CIOが中期計画に対して各カンパニーの社長と合意形成をしている」という。各カンパニーに対して情報システムに関する中期計画を示すことで、情報システム部の自立的な立場を確立し、自らで判断・実行する“ITガバナンス”の確立につなぐという考えだ。
「コスト削減の秘策は仕事をしないこと」というコメントで注目を浴びたのはダイアナの池田氏だ。情報システムの運用でアウトソーシングを積極的に活用し、コストを削減している。IT戦略の立案にかかわる上流部分は社内で行い、実際の作業は外部のSIベンダなどを活用し、コストダウンにつないでいるという。また、いくつかのSIベンダを競争させることで、コスト削減の幅を大きくしている。ただ、事前に決定していた業務プロセスを改善しないことには、これ以上のコスト削減は難しいという認識もあり、池田氏は「今後は仕事の仕方自体を変えていかないと大幅なコスト削減は厳しいだろう」と述べた。
コスト問題解決の一手として、今後エンタープライズ分野での普及が見込まれるオープンソースソフトについては、3氏とも積極的な姿勢を示した。オープンソースソフトはライセンス料が無料なため、コスト削減効果が大きいとして注目されることが多い。
しかし、サントリーの片山氏は「すでにLinux、JBossを本番環境で使っている。2004年にはPostgreSQLも検討する」としたうえで、「コストダウンを期待して利用するのではなく、ユーザー側でバージョンアップの時期を決定できることに注目した」と述べた。既存のソフトではサポートの期限切れなどで、ベンダが決めるロードマップに応じてバージョンアップする必要があり、自社のIT戦略に合致しないことが多い。対してオープンソースソフトでは主導権はユーザー企業側にあり、バージョンアップの時期などを自社の都合に合わせて決定できる。オープンソースソフトのエンタープライズ利用で不安視されることが多い保守・サポートについても、サントリーは社内にスタッフを抱えているため、問題ないという。
片山氏の意見には安井氏、池田氏も同調。池田氏は自社のオープンソースソフトへの取り組みを説明したのち、「ソフトの利用を5年なら5年と決定できる。その期間内は何をしても使い切る。ベンダに“首根っこ”をつかまれたくない」と述べ、オープンソースソフトがユーザー主導のIT戦略に有効であることを強調した。
セッションの最後では「情報マネージャの今後の役割」についての提言が行われた。清水建設の安井氏はキーワードとして「共有」を挙げ、「情報システムのいまある問題、あるべき姿、あるべき姿になるための方法を共有する」のが情報マネージャの役割と指摘した。
サントリーの片山氏は、「社内カンパニーへの移行でいままでの自分たちに足らなかったものを知らされた」として、「マーケティング感覚」を挙げた。社内顧客の満足度を上げるためには、情報システム部のスキルとしてマーケティングが必要と訴えた。ダイアナの池田氏は「いまと内面から」。「いまに対する認識を目標作りの基礎にすることを、もっと真摯にやるべき。目標に近づくためには、まずいまの状態をしっかりと把握することが大切」と指摘した。内面については「大量の情報があふれているが、自分のアイデンティティを外側に移さず、自分で決めていくのが課題になる」と述べて、外部情報に寄りかかったIT戦略の危険性を指摘した。
▼著者名 垣内郁栄
アットマーク・アイティ編集局
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