IT部門による業務部門改善・改革支援は2つのレベルがある(図2参照)。IT部門の通常業務による「IT改善支援レベル」と、戦略IT投資をベースにした「戦略プロジェクトによる改革レベル」である。前者のIT改善支援レベルは、地道かつ連続的であり、後者の戦略プロジェクト改革レベルは非連続の跳躍が必要で、新発想が不可欠だ。
前者のサービスレベルは、後者が開始され、IT部門メンバーがプロジェクトにアサインされると、開始前との比較では必然的に下がる。図では、「く」の字にサービスレベルが変化しているところに注目してもらいたい。このことを念頭に置き、IT改善支援レベルが多少下がってでも改革レベルプロジェクトにリソース配分可能な時期を数年単位で計画を立てて置くことが、ITマネージャに要求されている。
ITマ ネージャが計画範疇(はんちゅう)に入れてないにもかかわらず、突如として(トップダウンで)改革レベルプロジェクトの要請が来るかもしれない。そのときには、対応すべく、現行の改善レベルにアサインされている人材のうち、改革レベルプロジェクトに対応できる、もしくは対応できるようにしたい人材をプロジェクトに振り分ける。ただしこのときに、経営層および現場の業務部門の人と、改善レベルのサービスレベルが下がることを共有しなくてはならない。こういった1つ1つのサービスレベルの変化をその都度共有し、将来問題に発展する可能性のあるリスクの芽を摘んでおきたい。
いずれにしろ、改革レベル(戦略プロジェクト・規模の大きいプロジェクト)にもアサインできる/するメンバーと、通常業務(改善レベル)を“縁の下の力持ち”のように地道にこなしていくメンバーとに色分けする必要がある。それぞれのメンバーにはモチベーションが必要なので、きちんと目標や指標(目標値)、機会を与え、共有してほしい。
少し回り道をしたが、ITに関する人的リソースの配分=「適正配分」とは、「通常業務でカバーすべきサービスレベルを維持できる人材・工数を確保したうえで、流動的に(サービスレベルの増減の共有をして)プロジェクトに人材・工数を配分すること」と考えられる。ポイントは、サービスレベルのコミットメントとその変更管理だ。
読者の方々は、業務部門の人々に「これだけのサービスレベルを提供しますよ。でも変更があるときには相談してから変更しますから協力してください」といえる関係を成り立たせているだろうか? この辺りの反省から始めてみてほしい。本来、通常業務に必要な人材・工数はいかほどかと常に振り返り、微調整したり、あるいは大胆に変化させたりしなくてはならない。人ありきの計算でなく、業務遂行のために必要な工数を基点にして計算することが重要だ。
改革レベルの仕事を進めようとするならば、まずは自部門(IT部門)内の改革を進めなければならない。自部門もままならないのに、業務部門の改革ができようはずもないからだ。
「人材およびその工数を経営層から預かり、その最大限のパフォーマンスを引き出し、経営に貢献する」という本来的な位置付けは、IT部門も業務部門と何ら変わりはない。
しかしながら、この意識を持ってリソース(人材・組織)をマネージしているITマネージャはそれほど多くない。これがコンサルティングの現場からの声だ。だから、ベンダのいいなりになってしまい、予算を垂れ流し、思ったように効果を得られず、「IT化に失敗」へとつながっている。目前のことだけに固執せず、少しの将来──それも会社の将来を見据えたリソースの配分やマネージを心掛けたい。
会社と顧客の間には、必ず契約もしくはそれに準ずるものが発生している。そしてそれに基づいたサービスを提供しなければ、会社は成り立たない。IT部門から見ると、業務部門は「顧客(社内顧客)」である。IT部門の長としてのITマネージャは、IT部門だけを見ると経営者であり、顧客(内部顧客としての業務部門)へのサービス提供でその存在意義を証明する立場であるはずだ。サービスの定義がなくては、IT部門は成り立たない。
IT部門はサービスを提供することを生業(なりわい)としていることを肝に銘じてほしい。社内顧客(経営層/業務部門の人々)に対して、IT部門として提供するサービスは何かを定義し、それを「当たり前のことを当たり前に」こなしていく(これがなかなかできないのが問題なのだ)。
とはいえ、顧客を選ぶ権利も普通に持つべきだ。むちゃな客は断ればいい。これまでのIT部門は情報システムの構築・メンテナンス・運用を中心にしてきたし、経営層もそれを期待してきた。しかし、ひととおり情報システムが行き渡り、かつインターネットが鳴り物入りで登場して「IT武器論」の時代になったこともあり、その位置付けが変わってきた。IT部門はITガバナンスをつかさどり、ITの基軸でもって業務環境・働く環境を総合的に変革し、個々人ひいては全社のパフォーマンスを向上させるというミッション(使命)を持つように経営層から期待されるようになってきた──もしくは近い将来、そうなるだろう。
縁の下の力持ち的な部分を持ちながら、業務部門のパフォーマンスを引き出すリーダーシップ的な役割部分を併せ持つ、経営の中でも重要な位置を占め始めている。社内コンサルタントとして、働く環境作りを担わなければならなくなってきているはずだ。名称はともかく、読者の中には業務改革部的役割をも担い始めている方もいらっしゃるだろう。
この変化を敏感に察知し、事前に上出の対応策を講じていくことがITマネージャに求められている。対応策の中には、@ITのほかの記事で書かれているように、「企画部分以外はアウトソーシングする」といったドラスティックなものもあるかもしれない。組織改変・人材育成の詳細については、他記事を参照していただいたり、必要に応じて問い合わせをしていただくことにしよう。
今回は「ITガバナンスの確立」=「IT化に失敗しない」ための項目のうち、「IT組織力」を解説した。「IT組織力」向上するために、ITマネージャ(読者)に目前で手を下していってほしいことをまとめておこう。
とにかく、経営層、業務部門の幹部、業務部門の方とのコミュニケーションを心掛けることだ。コミュニケーションには、「十分」ということはない。会議を長くすればよいわけではない。ポイントをかいつまんで分かりやすく伝える術(すべ)を持つ。リーダーシップも改革も相手の理解促進から始まる。会議の仕方や議事録の書き方も、向上していかなくてはならないのだ。
池袋マネージャを中心にした議論が続く。
大崎さん(企画・業務部門サポート担当): ITに詳しい人は営業部門の中でも、開発部門でも、あ、人事総務にもいるな。まぁ、めちゃくちゃ多いというわけではないけれど意外といるもんです。個人的に「こんなこと考えてるんだけど」なんて相談に来てくれる方も結構いらっしゃるんですよ。そんな方を中心にして推進していくように考えられないですかね、巣鴨さん。
巣鴨リーダー: (苦虫をかみつぶしたような顔で)それって、人事総務の新橋課長とか、営業の日暮里くんとか、開発の代々木課長とかだろ? みんな口うるさくて……。なんだか、言い負かされちゃうから苦手なんだよね。
秋葉原さん(運用担当): 大崎さんが先ほどいっていた役割を業務部門の方が担ってくれるようになったら、運用コストも随分と下がると思いますよ。技術的な変更やシステムの再構築以上の削減効果があると思います。そうしたらメンバーのうち、数名は新しいことに取り組む時間が持てるはずです。
巣鴨リーダー:(今度は皮肉そうな顔で)そんなにうまくいくのかなぁ。
大崎さん(企画・業務部門サポート担当):「うまくいくのか」じゃなくて、「うまくいかせるように考え、行動」しましょうよ。それに、言い負かさされるのはこちらに確固たる考えや軸を持ってないからじゃないですか? 巣鴨さん。営業なんかは、どうやったら去年導入した営業支援システムをもっと活用できるか悩んでるみたいなので、そのあたりも聞いて、次の施策にしていきたいですね。
池袋マネージャ: なるほど。じゃ、明日は無理だから、明後日、その3人プラス主だった方を数名呼んで、彼らが考えていることを聞いてみようじゃないか。打ち合わせの設定を頼む。
池袋マネージャは、大崎さんがまとめてくれた議事録の中で、特に決定事項と宿題事項を確認した。そして大崎さんに、神田取締役を含めた関係者全員に議事録を送付することをお願いしながら、会議室をあとにした 。
▼三原 渉(みはら わたる)
フューチャーシステムコンサルティング株式会社 ビジネスディベロップメント&インターナショナル事業本部 執行役員。大手外資系コンサルティングファームを経て、2003年より現職。これまで外資系を含む50社あまりの企業の戦略・改革プログラム・プロジェクトの立案と実行、および効果のモニタリングに携わる。特に経営戦略と連動した全社改革プログラム・IT戦略立案に詳しい。改革推進の障害の1つであるトップ層とミドル層の意識・IT知識の乖離(かいり)を埋めるべく、両者への働きかけを精力的に手がける。ご意見、ご感想、問い合わせのメールは、mihara.wataru@future.co.jpまで。
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