優秀なスタッフを育てる職場環境とは何かがおかしいIT化の進め方(6)(2/3 ページ)

» 2004年05月14日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

「集中力」が理解力の鍵

 まず「理解力」という問題を考えてみよう。物事の理解には次のようなレベルがある。

レベル1:見聞きしたことをそのまま知っている

レベル2:そのままの内容なら、他人に話すことができる

レベル3:状況や相手に合わせた説明ができる、そのままの内容でなら行動できる

レベル4:本質を理解してほかの問題に応用できる、応用に必要な修正行動ができる

レベル5:自分自身の考えになっていて自然に行動している、それを基に創造ができる



 レベル1はいわゆる「ROM状態」(外からの評価は0)のこと。レベル2は「受け売り」で、どこかのイベントで商品説明をするアルバイトのキャンペンガールやテープレコーダーと変わらない。

 レベル2までは記憶力のみの“受け身”の世界である。受け身の態度でもまじめに勉強すれば到達できるし、試験にも合格できる。だが仕事に生かせるのは最低レベル3で、多くの場合はレベル4、5が要求される。この段階に到達するには、“覚える”を超えて“理解”しなくてはならない。そのために「自分で考えてみる・やってみる」という能動的な発想や行動がどうしても必要になる。

 新しく知ったことを身近な問題に当てはめ、「なるほど、つまりこういうことか」と分かるまで考えてみる。大切な点は短時間でも良いから「集中して考える=没頭する」ことである。集中すると深く脳に刻み付けられる。そのときにはよく分からなかったことが、後日自然に分かってくることもある。また、「自分で少しやってみる」ことも大切だ。実際に手を動かしてみて、少し結果が見えるとすべての疑問が氷解する場合がある。

 そのほか、周囲の人とのディスカッションも有効だ。話している間に(相手は何もいっていないのに)自分で何となく分かってくるケースもある。好奇心旺盛な若いときには少ないと思うが、経験を積んでくると自分に都合の悪いことはアナログ脳が直感的に察知し、「分かりたくない!」と思考をストップさせているようなことがある。こんなときには「やっぱりそうか」と割り切り、あきらめるために他人の助言が有効である。

 どの組織にも1人ぐらい知識欲旺盛な勉強家がいる。その人は何でも知っているが、レベル2、3で満足してしまう傾向がある。周囲から重宝はされるが、知識が行動につながらないと仕事を任せられる戦力にはなれず、便利屋で終わることが多いようだ。

プロフェッショナルへの要件――工夫する習慣を付ける

 最近人事管理の分野で「コンピテンシー」という言葉が聞かれるようになった。コンピテンシーとは「どのような種類の行動を、どのような水準でしているか(一般には行動特性と呼ばれている)」という観点から、“成果につながり、かつ再現性のある能力”と定義されている。

 人事コンサルタントの川上真史氏(ワトソン ワイアット)は、次のような5つのレベルを設定している。

レベル1:いわれたことしかしない。追い込まれてからしかしない

レベル2:いわれなくても行動するが、当たり前のことしかやらない

レベル3:複数の方法から、最良の判断を行い実行できる

レベル4:独自に工夫した行動を取り、状況を変えていく

レベル5:新しい別の状況を独自に作る



そして「出すべき成果を見据え、独自の工夫で自ら状況を変えていける」というレベル4、5をプロフェッショナルの要件として掲げ、そのためには「工夫する習慣を付けること」を挙げている。

column:慌てるな! よく考えよう(2)

 ビジネススクールの研究者やコンサルタントが提唱する新概念の多くは、成功企業にある特異な方法の分析結果やその解説である。ユニークな仕組みや手法という形のはっきりしたものに要因を求める成功物語は、確かに面白いし分かりやすい。これらは、成功物語の事実の一部ではある。だが成功の真の要因と言い切れるだろうか。成功物語の“形”を後からまねしてうまくいったという話を聞くことは少ない。これらの過去の事例??昔話がいまでも通用するという保証もない。

 成功企業は、まだ誰も成功していないやり方を自ら考えて実行した。つまり真の成功要因は、新しい方法を考え出し、実行する企業の価値観や意思決定力、行動力や実行の徹底力ではなかったかと私は思う。

 事例内容について、「なぜそのような考え方をしたか/できたか」は参考になっても、「How to=どのように」を詳細に知っても仕方がないように思うのだが、セミナーや研究会では後者の質問は数多くても、前者についてディスカッションがされることは少ない。

 情報化や情報システムの問題は、問題もその答えも、自身の会社の中にある。普遍的な唯一の成功モデルが世界のどこかにあるといった問題ではない。自社の問題への答えや自社のベストプラクティスは、自ら考えるしか仕方のない問題だ。

 うまく事を運べるか否かは、必要性の度合いや組織の意思、社員の知恵と行動力にかかっている。世界のどこかに自分の知らない名案があるなどと追い求めてみても、しょせん見果てぬ夢に終わる。

   山の彼方の空遠く 幸い住むと人のいう

   ああ、われひとと尋(と)めゆきて、涙さしぐみかえりきぬ

   山のあなたになお遠く 幸い住むとひとのいう

                (カール・ブッセ、上田敏訳)



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ