優秀なスタッフを育てる職場環境とは何かがおかしいIT化の進め方(6)(3/3 ページ)

» 2004年05月14日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]
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新しく社会で活動をスタートした人へ

 最後に、新社会人に向けて3つのメッセージを送りたい。

まず身に付けるべき実務能力とは

 仕事を進めるうえで、テクニカルスキル(実務能力)、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3つの能力が必要である。

 テクニカルスキルというのは、ITの“技術”という狭い意味の技術力ではなく、完結性をもって具体的な作業を遂行できる能力/実務能力のことを意味する。ヒューマンスキルは文字どおり人間関係にかかわる能力であり、仕事上必要な人たちと的確なコミュニケーションを取り、協力して仕事ができることが基本になる。コンセプチュアルスキルは、概念の形成や総合的な判断など、企画・計画やマネジメント(管理)に必要な能力であり、習得にはいろいろの分野の問題を相当経験・理解しておくことが必要なため、少し後で考える問題にしておいてもよいであろう。

 新しく社会に出て活躍しようとする若い人たちに、これらの能力が最初から備わっているわけではないし、一度に習得できるものでもない。最初からカッコいい仕事を、カッコよくやろうなどとは考えないことだ。

 まず第1に身に付けるべきはテクニカルスキルである。狭い対象や小さなことでもよいから、自分で考え、判断して物事をまとめ上げることが大切だ。自分で考え、自分で決めて(ただしきちんと報告すること)進めれば、成功は自信に、小さな失敗は大きな勉強につながる。大きな失敗のできる仕事などは最初からなかなか与えてはもらえない。大切なことは問題の大きさではなく、「自分で考え、判断して、仕上げる」という完結性である。これによって仕事というものに対するイメージをキチッと頭の中に作っていくことが重要なのだ。「マニュアルに従って、訳もよく分からないまま仕事を完成した」というのは、ここでいうスキルには当てはまらない。

 ポイントは「何のために(目的は何か)」、「なぜそうするのか(理由や論理性を明確にする)」を徹底的に考えて仕事に立ち向かうことだ。そんな時間的余裕はないと思うかもしれないが、目的がよく分かっていなければ、課題の中で次々出てくる問題に対する具体的な判断が難しくなり、理由や論理性をあいまいなままにしておくと、試行錯誤に陥り、効率や仕事の質を大きく阻害してしまう。

 やる前に慌てず、考えるべきことをキチッと考える効用に早く気付いた者の勝ちである。たとえマニュアルに従う仕事であっても、「このマニュアルでは、なぜこのようにすることにしているのか」「ほかのやり方には、どんな方法があるだろうか」「そのやり方なら結果はどうなるだろうか」といったことを考えてみれば、いろいろ勉強になる点があるだろう。

ヒューマンスキルについて

 一昔前までは、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの順で能力育成を考えていればよかった。当面必要なヒューマンスキルは新入社員でもほとんどの人が持っていたし、日常の仕事を通じてレベルアップもでき、チームリーダー(昔は「係長」などと呼ばれていた)など部下を使う立場になる前後で意識し直すぐらいで済んだ。

 しかし、最近、仕事のためのコミュニケーションに支障のあるような人や、仕事のルールが守れない人が増えてきているように感じる。仕事となれば、気の合う人と気の向いた話をしておればよいというわけにはいかない。

 苦手なタイプや嫌な相手と、楽しくない問題について話をしないといけないことも起こる。一緒に仕事をして得るところの多い優秀な人には概して厳しい人が多いし、仕事にはお互いに聞きたくないような話も必要になる。

ヒューマンスキルの基本

1. 時間と約束を守ろう。「会議や待ち合わせた時間に遅れるな」「約束したことは守ろう、どうしても守れなくなった場合には、速やかに連絡と謝罪をしよう」「うまく言い逃れができた、勘弁してもらった」と思うたびに、その分だけ自分の信用を落としている。しかられたり、文句をいわれたりする間が花である。

2.あいさつはコミュニケーションの出発点、その場に適切な言葉であいさつをしよう。

3.相手の話をよく聞こう。返事(応答)をしよう。

4.自分の考えを持ち積極的に発言しよう。話すべきことが話せるようになろう。

5.正しい日本語の勉強をしよう。



生活の知恵

 最後に、社会人としての生活のポイントを5つ挙げておこう。

1. 体力を付けよう

体力は精神力・知力の源である。体調が悪ければ弱気になり、マイナス思考に陥る。精神力が弱ると、難しいことへの挑戦意欲もわかなくなる。難しいことをやらないと知力は付かず、そして知力を付けないと仕事は前進しない。

2. 時間とお金は体の中と頭の中のために使おう

自分自身へ投資しよう。体の外を飾ることや遊びで浪費するな。

3. 当面(1〜3年)のスキル獲得目標を持とう

同じ仕事でも、目標を持ち仕事をやるときに意識し考えた人と、そうでない人では3年後には大きな差がつく。努力・辛抱も、すれば身に付く大切な能力である。

4. 基礎・本質を学ぼう

物事の原理・原則を知ろう。会社の業務プロセスの骨格、技術問題なら動作原理や構造を理解しよう。基礎を理解すれば、具体的な問題の理解や評価も容易になる。

5. 現場へ出向こう

情報システムの問題も答えも共に現場にある。システム開発や運用の現場、業務の現場に出ていこう。オフィスの机の上に本物はない。現場の人とコミュニケーションできるようになろう。パソコンより人を好きになろう。

profile

公江 義隆(こうえ よしたか)

ITコーディネータ、情報処理技術者(特種)、情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)

元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる


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