あなたはアーキテクトに向いている?[IT Architect特別レポート]After JSAF 座談会(1/2 ページ)

» 2004年05月18日 12時00分 公開
[構成:吉田育代、谷古宇浩司,@IT]

 米マイクロソフトの.NET Enterprise Architecture Teamに所属するMike Burner氏が来日した。Burner氏の肩書は「アーキテクト」である。J2EEの文脈で語られることが多いアーキテクト関連の話題だが、実はマイクロソフトでも、長期的なビジョンに基づいたアーキテクチャの構築や最適なテクノロジの選択、効果的なプロジェクト管理を行うアーキテクトの役割を真剣に討議し、自社製品およびソリューション展開に応用してきているという実績がある。実際米国では、マイクロソフトのアーキテクチャ・ビジョンやテクノロジのロードマップを紹介する「Microsoft Strategic Architect Forum」をアーキテクト向けに開催してきた。

 そして今年、日本でも国内の有力アーキテクトを集め「Microsoft Japan Strategic Architect Forum 2004」を開催した。本記事は、同フォーラム開催後に行われたBurner氏を囲む座談会の抄録である。そもそもアーキテクトの定義とは? アーキテクトは社会的地位の高い職業なのか? アーキテクトに求められる素質とは? といった素朴な質問にBurner氏がユーモアを交えて回答する。マイクロソフトという一企業のアーキテクトとしての発言を超えた部分に注目してほしい。

 なお、座談会出席者については、文末の出席者一覧を参照されたい。

アーキテクトの定義

―― Burnerさんはアーキテクトをどのように定義されますか。多くのソフトウェア技術者がアーキテクトという仕事に興味を持っていますが、その解釈についてはいろいろあるようです。

ALT Mike Burner氏(米マイクロソフト Architect Platform Strategy Group)

Burner アーキテクトには数多くのバリエーションがあります。ソリューション・アーキテクトもいれば、システム・アーキテクト、ネットワーク・アーキテクトもいます。一口にセキュリティ・アーキテクトといっても、その専門分野は多岐にわたるのです。アーキテクトという言葉の定義は、用いられる分野によって変わるのではないかと思いますね。

 米国では、率直にいってしまうと、ほとんどの人はアーキテクトという仕事を認識していません。ところが欧州では、アーキテクトという言葉がかなり戦略的に用いられています。ある分野における専門性を他者と差別化してもらう期待を込めて、この肩書を使うことがあります。

 米国の大手コンピュータベンダのサービス部門では、この肩書をかなり厳密に区別して用いています。もし彼らが、シリコンバレーの小さな企業からアーキテクトという肩書を持った人間を呼ぶような場合、そのアーキテクトは副社長などであってはいけないのです。アーキテクトはあくまでアーキテクトであって、そのほかの肩書と兼務ということはないんですね。

―― (一般的な意味での)ソフトウェア技術者とアーキテクトの違いというのはどのようなところにあるんですか?

Burner アーキテクトという言葉は、もともとマスタービルダーを意味するラテン語から来ています。アーキテクトとは、より良く構築するノウハウをしっかり学んだ構築の上手な人のことです。そして、アーキテクチャというのは、アーキテクトが考える誰もが利用可能な構築法を指しています。

ALT 萩原正義氏(デベロッパーマーケティング本部 Software Architect)

 現実には、米国のほとんどの地域において、現場のエンジニアは自分の設計を信頼してソフトウェアを構築するのですが、経営陣は彼らの設計をあまり信頼せず、「レスポンスはどうなんだ、設計を見せろ」というようなトラブルが起こりがちなのです。

 私が考えるに、アーキテクトというのは、設計を検証したり、性能が出ないときにどうしたらいいかを対処できる、自然発生的なリーダーだと思います。1日でなれるものではない。ハンマーの使い方もよく知らない建築学校の生徒がうまく家を建てられないのと同じように、ソフトウェアの世界でも、徒弟制度のような伝統的な枠組みの中で、数多くのシステムを構築してきた先輩から多くを学んだ人物がアーキテクトになっていくのだと思いますよ。

アーキテクトは社会的地位が高い仕事か

―― 米国において、アーキテクトは社会的地位の高い職業といえるのでしょうか。

Burner ソフトウェア技術者の、あるいはハイテク業界のとても小さなコミュニティの中では、確かにアーキテクトという職業は認識されており、高い評価を受けています。しかし、いったんIT業界の外に出てしまうとアーキテクトは建築家と解釈されていて、ソフトウェア開発に携わる職業だというふうには見られていません。そういう意味では、エバンジェリストと同じようなものですね。

太田 エバンジェリストには社会的地位があるのかな(笑)。

Burner 確かに、(ソフトウェア開発の)技術分野に適用するには、アーキテクトというのはおかしな名称ですね。米国でアーキテクト・エバンジェリストというと、ときどき非常に変なリアクションが返ってきますよ。「ほう、それで宗派は?」とかね。

古山 最近、IT業界における給料の記事を読んだんですが、アーキテクトは少なくとも年棒15万ドル以上ということだったんですが、それは本当ですか?

Burner それは平均で?

ALT 古山一夫氏(.NETソリューションアドバイザー)/株式会社オムニドメイン

萩原 平均だと思います。私の同僚によると、ある外資系金融機関のアーキテクトは年棒100万ドルだそうです。

Burner それでいったら、業界のチーフ・ソフトウェア・アーキテクトはビル・ゲイツでしょう。

古山 残念なことに、日本ではソフトウェア技術者のトップの給料はあまり良くありません。それこそ、エンジニアがあまりアーキテクトになりたがらない理由の1つなのではないかと思います。ビジネスマネージャ(プロダクト・マネージャ)の方が給料が高いので、どうしてもそちらに流れてしまうのです。

Burner 私は逆に、米国のソフトウェア技術者の多くは、過剰に給料が支払われていると思いますよ。その副作用がインターネット・バブルの崩壊だと考えています。

 シリコンバレーの小さな企業がエンジニアを採用するために他社と差別化しようとすると、どうしても給料の金額を増やすしかなかったんです。マイクロソフトやIBM、ヒューレット・パッカードといった企業は、スタッフがそちら(シリコンバレーのベンチャー企業など)へ流出するのを防ぐために、彼らの給料を上げざるを得なかったのです。

 ところが、経済情勢は後退し、市場はエンジニアの高い給料を賄うほどには成長していないのが実状です。だからといって、自分の給料を自分で減らすのはとても困難でしょう? まじめな話、現実的には、米国のソフトウェア開発者の過剰報酬は調整の時期に入っていると思います。ソフトウェア開発者の経験しかない人間が、年棒10万ドル以上を稼ぐなんて異常ですからね。

[座談会出席者](時計回り)

◇ Mike Burner氏 (米マイクロソフト Architect Platform Strategy Group)

◇ 萩原正義氏 (デベロッパーマーケティング本部 Software Architect)

◇ 古山一夫氏 (.NETソリューションアドバイザー)/株式会社オムニドメイン

◇ 荒井省三氏 (デベロッパーマーケティング本部 .NETマーケティング部 デベロッパーエバンジェリスト)

◇ 野村一行氏 (デベロッパーマーケティング本部 .NETマーケティング部 アーキテクトエバンジェリスト)

◇ 太田佳伸氏 (デベロッパーマーケティング本部 .NETマーケティング部 アーキテクトエバンジェリスト)

◇ 西尾知子 (デベロッパーマーケティング本部 .NETマーケティング部 アーキテクトエバンジェリスト)

◇ 成本正史氏 (デベロッパーマーケティング本部 .NETマーケティング部 アーキテクトエバンジェリスト)


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