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» 2004年08月20日 12時00分 公開

オブジェクト指向の世界(5):全体最適とアーキテクチャ (2/2)

[河合昭男((有)オブジェクトデザイン研究所),@IT]
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コーディネーション

 エクスポはコーディネーションを重視します。専門のコーディネータがいて顧客のライフスタイル・趣味に合わせた部品の組み合わせ方法について個別に相談できるサービスを提供しています。(2)の機能性、つまり「リフレッシュの場」としての全体最適を求める顧客を対象とするのがエクスポの企業戦略です。ここで求められるものは、個々の部品としての機能の総和以上の価値をいかに創造するかです。これがエクスポの顧客満足です。

ALT 図2 部品集合以上の価値を追求する

 今回見学したエクスポには、正面入り口近くからキッチンのショールームが通路を挟んで両側に10くらい並んでいました。キッチンも、棚・流し台・レンジ・調理台などの部品の集まりで良しとするか、部品集合以上の価値を追求するかです。キッチンはエクスポのポリシー実践のための戦略商品で、ショールームにコストを掛け、専任のコーディネータによるコンサルティングサービスを提供しています。

 スウェーデンから来た家具店IKEAは、アメリカの重たい家具と対照的な軽くてシンプルで洗練されたデザインの家具を一般大衆向けの価格帯で提供します。収入の少ない若い世代を対象とした価格、デザインです。低価格ですが、ここにもコーディネーションがあります。子供部屋のショールームがいくつかありました。高めのベッドの下に勉強机があり日本の狭い部屋にもマッチしそうです。来秋横浜港北にオープンの予定だそうですが、シンプルなデザインで価格帯も低めなので日本でも若い世代に売れるのではないでしょうか。ただし顧客の側に部屋のコーディネーションの概念がなく、単品買いならIKEAの価値は半減ですね。コーディネーションとは全体最適です。個々の家具が素晴らしいものであってもそれは部分最適にすぎません。

コーディネーションとアーキテクチャ

 住宅はリビング、ダイニング、寝室、バスルームなどの部屋からなっています。これらの部屋が適当な配置にコーディネーションされています。それぞれの部屋は独立に設計されるわけでなく、壁や床などの素材・色など全体のバランスを考えます。

ALT 図3 住宅は単なる部屋の集合ではない

 キッチン、子供部屋など各部屋のコーディネーションはそれぞれ独自に単独で行うのではなく、全体のコーディネーションにマッチしたものでなければなりません。なぜならそれらは1つの住宅という全体に含まれる部分だからです。

 “House 2 Home”というコンセプトを名前にした「住」関連の店が西海岸にあったそうです(会社経営上の問題で現在どうなっているか筆者にはわかりません)。このコンセプト日本人とはかなりギャップがあるようです。Houseという物理的な建築物を人が実際に住んで生活しやすいようにHomeに仕上げていく。ホームデポやエクスポなどそのための住宅関連の店が実に多い。日本人の発想だと、家を買ったら照明器具、空調、家具、カーテン、じゅうたんなどでHomeがほぼ完成してしまう。Houseをfurnish(装う)あるいはimprove(改善する)するというアメリカ的発想である“House 2 Home”というコンセプトはHomeに対する付加価値をどこまで高めるか、それは自分の住みやすさに加えて転売するときの資産価値にもつながるものです。中古住宅が新築より高くなるという日米の住宅に関する価値観の違いがありますが、そのため住宅関連のマーケットは日本より大きいのです。

ALT 図4 House 2 Home

「ソフトウェアは機能の集まりにあらず」

 住宅のコーディネーションの考え方を参考にして、ソフトウェアについて少し考えてみましょう。「ソフトウェアとは機能の集まりにあらず」ですね。これは「バスルームは体の洗い場にあらず」あるいは「住宅は部屋の集まりにあらず」と同じです。機能集合にどこまで付加価値が付けられるかがソフトウェアの品質というべきものです。その品質を決めるのがソフトウェア・アーキテクチャです。個々の機能が優れていてもシステムとして全体最適あるいは全体性というものが必要です。

 人が使うためのソフトウェアを単に機能が動けば良しとし、オペレータの快適さは贅沢と考えるのかという問題です。企業内の情報システムを取り巻く人々が快適に仕事ができればその企業の顧客も幸せなはずです。今回見学してきた繁盛店舗というのは活気がみなぎって客も従業員も生き生きしています。情報システムにも機能以上のものが必要です。この機能以上のものがソフトウェア・アーキテクチャです。それは情報システムに全体性を与えるものです。

ALT 図5 ビジネスの全体最適

 このシステムの全体性はさらにはビジネスと一体化したものでなければなりません。ビジネスは顧客・パートナーも含めて大きな全体性を構築します。部分の集まりが全体となり、その全体を部分としたさらに大きな全体となってゆくのです。ソフトウェア・アーキテクチャの上にビジネス・アーキテクチャがあるのです。ビジネス内部の経営者・社員に外部の顧客・パートナーを含めた人々が快適で皆幸せな姿−それが成功するビジネスです。これについてはいずれあらためて考えてみたいと思います。

 筆者主催のオブジェクト指向教育オープンコースを開催します。詳細はホームページをご参照ください。皆様とお会いできることを楽しみにしています。

プロフィール

河合昭男(かわいあきお)

 大阪大学理学部数学科卒業、日本ユニシス株式会社にてメインフレームのOS保守、性能評価の後、PCのGUI系基本ソフト開発、クライアント/サーバシステム開発を通してオブジェクト指向分析・設計に携わる。

 オブジェクト指向の本質を追究すべく1998年に独立後、有限会社オブジェクトデザイン研究所設立、理論と実践を目指し現在に至る。ビジネスモデリング、パターン言語の学習と普及を行うコミュニティ活動に参画。ホームページ「オブジェクト指向と哲学」 。

 著書に『JavaデベロッパーのためのUML入門』『明解UML−オブジェクト指向&モデリング入門』など。



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