ITプロジェクト推進などで最も普遍的な課題に「有能者の不足」がある。通常、移転・共有できないと思われている有能者の知恵・能力も記述可能だ。今回は、独立系SI企業“E社”を舞台に、有能者から抽出されたPMノウハウがどのようなものか、見ていこう。
E社では、社内指折りレベルのプロジェクトマネージャからえぐり出されたPMノウハウを実際に見て、そのパワーと普及の可能性を感じ、PMノウハウ移植のためのプロジェクト(以下、プロジェクトHK)を開始した。
プロジェクトHKでは、まず「できるPM」を特定するところから始めた。実際に現役のPMで、成果を出している人たちを選び出そうというのだ。最初に、「成果を出している」ことの定義を行うことになったが、事業部長たちは話し合いを始めて、すぐに「できる」基準自体が共通認識になっていないことに気付いた。
そこで事務局が呼び掛け、各事業部長および各ライン部長を集め、ブレーンストーミングを実施した。
ブレーンストーミングでは、誰かが「できるPM」候補を挙げ、併せて「できる」基準についても議論した。「できるPM」の特定は、中長期的に利益を上げていること、困難が予想されるプロジェクトのPMに真っ先に名前が浮かぶこと、逆に問題プロジェクトの火消しに投入するPMが必要になったときに真っ先に名前が浮かぶこと、という切り口で行うことにした。
ブレーンストーミングの結果、「できるPM」には、ほかにもいくつかの類型があるという結論に達した。整理した類型には次のものがあった。
E社ではプロジェクトマネージャの認定制度があり、認定された人は100名前後である。「できるPM」推薦対象はこの中から選抜を行うことになった。結果として「できるPM」として推薦されたのは、当初から指折りとされたPMを含めて19名であった。第1 SI事業部から7名、第2 SI事業部から6名、アウトソーシング事業部から6名の構成である。
推薦されたPMへのインタビューを開始した。実施の結果、多くのPMノウハウが集まった。さすがに事業部長たちの推薦を受けたプロジェクトマネージャは有能で、1度のインタビューで抽出し切れないくらいたくさんのPMノウハウを持つ人もいた。
「協力会社責任者との1対1の対話」というPMノウハウを持っていた第2 SI事業部のG氏へのインタビューは次のようなものであった。
コンサルタント 「Gさんが常日ごろ、気に掛けているとか、こだわりを持って実施されているようなことがあればお聞かせ願えませんでしょうか」
G氏 「そうですね。気に掛けていると言えば、私は協力会社の方とはできるだけ対話を持つようにしています」
コンサルタント 「それはどのようなことですか」
G氏 「特にリーダーの方とは、努めて定期的に話をするようにしています」
コンサルタント 「何のために話をされているのですか」
G氏 「いやあ、彼らもガス抜きが必要ですから……」
コンサルタント 「というと、どんなシチュエーションで話をされているのですか」
G氏 「だいたい、2人で職場を離れてお茶を飲みに行って話をします。彼らにも普段無理をいっていますのでいいたいことがありますし、私からもそんな場でお願いをすることがあります」
コンサルタント 「最近のことで構いませんから、生々しい事例をお聞かせ願えませんか」
G氏 「つい先週ですが、協力会社リーダーのIさんから、顧客の担当者のJさんが請求書の明細出力のバリエーションとそれが使われる条件を決めてくれないから何とかしてくれ、と頼まれました。Iさんがいうには、Jさんはまじめに利用部門に対して働き掛けをしていない、というのです」
コンサルタント 「それを聞いたあなたはどうしたのですか」
G氏 「私から顧客PMのKさんに状況を伝えて是正をお願いしています。明日にはKさんにも同席してもらって、私とIさんも出席する形で利用部門の方に条件を決めてもらう打ち合わせを設定してもらいました」
コンサルタント 「なるほど、それは重要な話ですね。ほかにお2人で対話をされたことの事例はありますか」
G氏 「先月は逆に私の方からIさんに注文を付けました」
コンサルタント 「どんな注文でしょう」
G氏 「Iさんの部下で、集配信系のモジュールを担当しているL君というメンバーがいるのですが、彼が技術的に優秀なのは分かるのですが、会話のプロトコル(約束事・儀礼)が守れないというか、プロトコルが理解できていないというか……、当社に了解も得ずに顧客のところに勝手に説明に行ったり、思い込みが強くて要求機能の不足を指摘しても必要性を聞く態度にならなかったりして困っていると伝えたのです」
コンサルタント 「あなたがそれを伝えたところ、協力会社リーダーのIさんはどんな反応だったのですか」
G氏 「Iさんが責任を持って統制してくれると、約束してくれました」
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