前回は構造化スキルについて解説した。今回は“柔軟な発想力”の強化について解説するが、そのためには顧客満足度を理解しなければならない。レストランやソリューションにおける顧客満足度を初めに解説する。
前回は構造化スキルについて解説しました。今回は“柔軟な発想力”の強化について、前半部分を説明します。そして次回は、“柔軟な発想力”の後半を解説する予定です。
柔軟な発想力は問題発見力を構成するスキルの1つですが、また、問題解決の際に利用するスキルでもあります。柔軟な発想力を強化することによって、問題発見力を高めるだけではなく、問題を解決するための斬新な解決案を練り出すことができるようになります。
このように、柔軟な発想力は問題発見にも問題解決にも有効なスキルですが、発想力自体を生かすために重要な前提条件である“目的”の理解をしておきましょう。柔軟な発想力は、問題発見や問題解決を実行する際の“加速装置”のような役割があります。例えば、ある目的地を目指して徒歩で移動する代わりに自転車を使う。自転車で移動する代わりに飛行機を使う、というような効果があります。発想力はそれほど強力なスキルですが、目的地を正しく認識せず、誤った方向にどんなに速く進んだとしても、決して目的地には到達しません。この目的地の理解に当たるのが顧客の目的を理解することであり、それを測る尺度が顧客満足度になります。
まずは、顧客満足度を理解することからスタートします。
顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)、よく聞く言葉ですね。顧客満足度は「商品やサービスを購入した顧客が、それに対してどのくらい満足したのか?」といえます。この満足というのがなかなか厄介なモノです(以降、商品やサービスを総称してサービスと表現します)。
その理由は、提供されるサービスについて、顧客1人1人の求めているレベルやポイントが違うところにあります。そのため「わが社では、顧客満足度の向上に重点を置いています」や「今月の重点目標は、顧客満足の追求です」など、顧客満足度は具体性の乏しい掛け声だけのものになってしまいがちです。この現象は、顧客満足がポイントとレベルの2つの要素からなっていることを理解していないために起こります。顧客満足を構成する2つの要素はそれぞれ次のとおりです。
ポイント:サービスのどの部分(何を、どこを)を重視するのか
レベル:サービスのポイントに対する満足の度合い
例としてレストランで食事をした場合を想定してみます。ポイントには次のようなものが想定されます。
レベルには次のようなものが想定されます。
料理 | → | 同じ価格帯のほかのレストランと味を比較する 味が自分の好みと合っているか |
---|---|---|
従業員の接客態度 | → | 予約を入れるときの電話の対応が親切だったか 注文をタイミングよく聞きにきてくれたか |
店内の雰囲気 | → | 建物の造りが近代的でおしゃれである 店内の内装が落ち着いているが清潔感がある |
窓からの景色 | → | きれいな夜景が見下ろせる 緑豊かな中庭に接していて落ち着ける |
などなど、「顧客がなぜそのレストランで食事をしようと思ったのか?」が重要なのです。ある人はおいしいイタリア料理を食べたいと思ったのかもしれないし、ある人は何年かぶりに来日した(外国に住んでいる)古い大切な友人と久しぶりにゆっくり話をしたいと思っているのかもしれない。いずれにしても顧客1人1人にそれぞれの目的があり、その目的に沿ったサービスポイントでサービスレベルを判断します。そして、その総合評価が顧客満足度につながります。顧客満足度を構造化してみると次のようになります。
そして、式にしてみると次のようになります。
顧客満足度 = ポイント × レベル
構造化し、さらに式に置き換えてみることによって、次のことが見えてきます。サービスを提供する側が考えているポイントのレベルをどんなに高めても、顧客が満足を感じるポイントを外していては、決して顧客は満足しないでしょう。また、ポイントを意識せず、漠然と顧客満足度を高めようとしても結果は得られないでしょう。掛け算で構成される計算式に1つでも“0(ゼロ)”の項があれば、答えは“0”になります。これらの場合、顧客満足を高める努力をしているにもかかわらず、顧客はなかなか満足してくれないということになります。このような状況が続けば、「顧客満足度は努力しても向上することはできない」と、結果的に顧客満足度の向上が形骸化したスローガンになってしまっていたのです。
逆に考えれば、顧客の立場に立ってポイント見つけ出し、そのレベルを高めることができれば、顧客満足度を高めることが可能になります。先ほどの古い友人との会話を楽しむための食事であれば、料理そのものがおいしいことはもちろんですが、「静かな落ち着いた雰囲気をいかに提供できるか?」がポイントになるでしょう。
このように顧客の目的を意識すること、すなわち、「なぜお客さまはわれわれのサービスを選択してくれているのか」を考えることができれば、顧客満足度を限りなく100%に近づけることも可能になるでしょう。実際には、1人1人の目的を聞くことはできませんが、「落ち着いて話をすることができるレストラン」など、ある目的を持った顧客に選んでもらいやすくする努力は可能です。
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