理想的な上司と部下の関係とは――部下の育成方法何かがおかしいIT化の進め方(17)(2/4 ページ)

» 2005年06月21日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

“聴く”と“訊く”が上司の務め――問題に自ら気付かせる

 新しく管理職(課長やマネージャなど)に登用した人の行動を注意して見ていると、部下に“知識”を熱心に説明している人が多い。一通りの説明が済むと、部下から1つ2つの質問が出てくる。これに対して、またひとしきり親切な説明が続く。

 皆さんの中で、このようなパターンになっている人はいないだろうか?

「そんなことをしている余裕は、時間的にもない」という人もおられるだろう。しかし、ここでいっていることは、かけている時間の長短ではなく、“上司=教える人、部下=教わる人”といった関係を、何となく作ってしまってはいないかという問題である。 受験塾や昨今の学校教育の延長で、「知識は教えてもらうもの」と思っている若者社員は多い。従って、このような関係に対して、部下が疑問を感じることは少ない。面倒なことを自分で考えるよりも、どうやればよいのかを教えてもらい、そのとおりにする方が楽だというマニュアル人間もいる。上司も、自分の得意分野の説明をしていれば優越感に浸れる。そもそも人間は教えるのが好きな動物だ。

 しかし、こんなことを続けているうちに、時には上司がその場で答えられないような問題や時間切れによって、上司が部下から宿題を課せられるという大変つたないパターンでその日の試合終了といったことにもなりかねない。上司が守勢に回るようでは、指導力は発揮できない。

 そのうち上司も疲れてきて、対応がぞんざいになり、いいかげんなところで突き放してしまう場合も多い。しかし、これは部下にしてみれば、教えてくれるはずの上司が、突然予想外の行動に出たことになり、“逃げられた”という上司に対する不信感や、これからの仕事に対する不安感にもつながりかねない。

 何よりも問題は、“上司=教える人、部下=教わる人”といった関係では、人は育たないということである。これでは、「教えてもらっていなかった」ことを仕事の失敗のいい訳にするような組織体質になる。常識的な業務機能のシステム上の不備に対し、「仕様書に書いてないから」をいい訳にするようなSEを作ってしまう。

 上司(管理者)は、仕事や指導の面で主導できる立場を保たなければならない。部下が質問して上司が答えるという、主導性の逆転したパターンから抜け出す方法は、部下の質問内容に対して上司が逆に質問することである。「あなたは、どう思うか?」「どうすればよいと思うか?」と、その場で一言聴いてみることだ。 部下が「知りたい」と思って質問したことは、上司にとっては、本当は部下自らに考えてほしいことのはずである。部下も何も考えていないというわけではないから、何かの返答はするだろう。部下の答えに対して、「それはそれでもよいが、こんな場合にはどうする?」などと、さらに考えるべき問題について、次の質問をすればよいのだ。このような方法で、問題の核心に向けて部下の思考を誘導することができる。相手がまったく答えられないときには、宿題にして、試合は翌日に再開ということにする。宿題は上司から部下に与えるものだ。

 これは、1人の上司と1人の部下の間でのやりとりにとどまらない。管理者は自分が管理する組織の全員に対して、現在・将来の問題についての問い掛けを続けていくことが大切である。力が育っていく組織は“自ら考える組織”である。

 “傾聴力”と、的を射た質問のできる“問題の把握力(分析力と構成力)”は管理者に必要な大切な能力である。

コーヒーブレーク

 しかし、“聴く”と“訊く”はともに結構難しい問題である。聴くには辛抱、訊くには準備と工夫が要る。

 企画を担当していたとき、新しい課題があると自分なりに問題を分析してポイントを整理し、解決の鍵となるいくつかのプロジェクトの成功要因(KFS:Key Factors For Success)を考えていた。このKFSは、課題によって毎回異なるが、例えば、「セキュリティ対策と利便性のバランスをどう取るか(適当な商品がなく暗号化を断念したことがある)」であったり、「ユーザー現場の古参の強者を、いかに攻略するか」であったりする。そのテーマを担当した部下から結果の報告を聴くときには、このKFSを気にしながら聴いているのが常であった。

 こちらも真剣だ。部下への質問は当然ここに集中する。管理者としてやる気になっているほど、こちらの質問の突っ込みも鋭くなってしまう。ここで問題が起こる。部下にしてみれば、自分の検討結果に対して次々と問題点を指摘されるのは、上司(筆者)がこの企画に賛成でないのではないかと、事実と反対の推測をし始める。筆者の訊き方が適当ではなかったのであろう。訊き方にも相手の性格を意識した工夫がいる。また、質問はいま議論している問題と同じレベルか、1つ掘り下げたレベルにとどめる必要がある。2レベル以上異なる問題は、議論を混乱させる場合が多い。一歩ずつ、急がば回れである。筆者の過去の失敗談である。



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