プロジェクトの遅れを防止する早め早めの進ちょく確認企業システム戦略の基礎知識(8)(2/2 ページ)

» 2005年06月24日 12時00分 公開
[青島 弘幸,@IT]
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いつ、レビューすべきか

 レビューはいつ行うのが効果的だろうか。建築検査では最低でも、基礎工事、棟上げ、竣工の各完了時に3回実施することが推奨されているが、システム構築では、基本設計(外部設計)で2回、詳細設計(内部設計)で1回、統合試験で2回行うことを推奨する。

 基本設計は、作業進ちょくが30%と70%の時点で実施し、詳細設計は進ちょく70%の時点、統合試験は、試験計画作成時点と試験70%完了時点で実施する。いずれにしても、作業完了時点では、問題が発見された場合、即、スケジュール遅れとなってしまうので、その前に実施する。

 問題発生による手戻りは「必ずある」という前提で考えておけば、残りの作業の中で対策を事前に打って遅れを防止できる。あるいは、遅れても被害を最小に抑えられる。基本設計では、大きな方向性が固まるのが30%程度の進ちょく時点。ここで、一度レビューを実施し、方向性に大きな違いがないかを確認しておくことで、後から、大きな手戻りが発生するリスクを抑えることができる。

 レビューをせずに完成間際に全体の方向性を覆すような設計変更が発生した場合は、かなりの手戻りを覚悟しなければならない。これは、ちょうど基礎を全部作らずに、間取りが決まった部屋から家を建てるようなものである。

 統合試験では試験を実施する前に、試験計画を作成した時点でレビューを実施することで、試験の妥当性をチェックする。試験の内容が必要十分であるか、人手を必要以上に掛けていないかをチェックする。万一、スケジュールが遅れているようであれば、比較的業務に影響が少ない機能については、試験内容を簡略化することで、さらなるスケジュール遅れを防止することもできる。発注者側がイニシアチブを取って、機能ごとに重要度やリスクを考慮してメリハリを付け、重要な機能は徹底的に集中して試験し、そうでなければ、良い意味での手抜きをすることも必要である。

どこを、レビューすべきか

 レビューのポイントは、要求仕様書に基づいた確認だ。つまり、コンピュータ上の技術的な視点ではなく、あくまで顧客からの観点に立って確認する。

 1つは、設計や試験計画の内容が、どの要求事項に対応するものか、その追跡性を確認する。専門用語ではトレーサビリティというが、すべての設計内容とプログラムおよび試験内容は、必ず要求事項から文書上で追跡できなければならない。その追跡が文書上ではっきりしなかったり、質問しても明確に答えられなかったりするようなら、危険度大である。これが明確になっていれば、漏れや抜けがないかを容易にチェックできる。漏れや抜けを事前に発見できれば、手戻りを防止できる。

 漏れや抜けのほかにも、過度の設計や試験にも目を光らせたい。要求仕様書で指示されてもいないのに、過度に機能を盛り込んだり、信頼性を上げたり、必要以上に執拗な試験をしたりと、これらは追加費用は発生しないかもしれないが、スケジュール遅れや余計な問題を誘発するリスクを抱えている。トレーサビリティを確認することで、「過不足なく」仕事が進んでいるか否かをチェックできる。

 もう1つ確認すべき点は、要求事項を満足するために「なぜ」そのような設計やプログラムにしたのか、あるいは、その試験内容で良いといえるのかである。設計結果については、専門用語を使って詳細に説明できるが、この「なぜ」という根本的な質問に答えられないことがある。慣例的に、あるいはマニュアルに書いてあったからという答えでは、はなはだ心配である。

 専門的な内容はさておき、要求事項に対して、しっかりした技術的根拠を持って、設計やプログラムを作成し、試験を実施したことが確認できれば、ほぼ、レビューは成功である。反対に要求事項に対するトレーサビリティも不明確で、明確な技術的根拠もなく作業が進められており、専門用語ばかりを並べてしどろもどろ──、顧客が分かるように説明できないようであれば、危険度はかなり大である。

 このようにレビューは、必ずしも専門知識を必要とせずとも、仕事が順調に進んでいるか、この先、問題が発生する可能性がどの程度あるかを知ることができる。レビューを重ねることで、内容以前に、技術者の説明の仕方や態度で「危険なにおい」を感じ取ることができるようになる。また、質問も表面的なことだけでなく、深く突っ込んだ質問もできるようになる。たとえ、専門的内容に対して判断を下すことができなくても、その技術的根拠がはっきりしていれば、ほかの技術者に意見を聞くこともできる。少なくとも、システム構築プロジェクト全体が、泥沼に陥ることだけは、かなりの確率で防止できるのだ。

 次回は、納品時の受入検査について取り上げていこう。

著者紹介

▼著者名 青島 弘幸(あおしま ひろゆき)

「企業システム戦略家」(企業システム戦略研究会代表)

日本システムアナリスト協会正会員、経済産業省認定 高度情報処理技術者(システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、システム監査技術者)

大手製造業のシステム部門にて、20年以上、生産管理システムを中心に多数のシステム開発・保守を手掛けるとともに、システム開発標準策定、ファンクションポイント法による見積もり基準の策定、汎用ソフトウェア部品の開発など「最小の投資で最大の効果を得、会社を強くする」システム戦略の研究・実践に一貫して取り組んでいる。趣味は、乗馬、空手道、速読。

システム構築駆け込み寺」を運営している。

メールアドレス:hiroyuki_aoshima@mail.goo.ne.jp


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