企業合併でシステムが止まらない方法教えます!システム部門Q&A(6)(3/4 ページ)

» 2005年08月09日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

バベルの塔を解決せよ

 自社の常識は他社の非常識といいますが、合併システムでは、用語や概念が違うことが大きなトラブルの原因になります。例えば、商品を納入する相手先のことをA社では「得意先」というのに対して、B社ではそれを「納入先」といい、「得意先」とは請求書の送付先を意味しているとか、A社では「出荷」とは自社倉庫から商品を搬出すること全体を指しているのに、B社では販売における流通のことに限定しており、自社の倉庫間での移動は「転送」といっているなど、基本的な用語すら概念が違っていることが多いのです。

 しかも、お互いにそれらを一般用語だと信じているのですから困ります。話し合いのかなり後の段階になってから「なんだかおかしいな」と気付き、「ところで、得意先とは何ですか」と質問する人がいて、初めてお互いの違いに気付くのですね。そして「得意先がそのような意味だとするならば、話が全然違いますよ」となり、「最初からやり直しましょう」という大きな手戻りになってしまいます。

図3 会社によって用語が異なる

 用語や概念の違いは、仕事の仕方の違いでもあります。それを変更することは仕事の仕方を変えることになります。利用部門が旧システムに固執するのは、これが大きな理由だとも思われます。しかし、早期に用語や概念の違いに気付いて統一しなければ、要求仕様も作れませんし、後になって気付いたのでは大きな手戻りになってしまいます。

 逆に、早期に統一して、それをデータベース化しておけば、情報システムをデータ中心アプローチにより開発することも、EUCによる情報検索系システムを普及するにも便利です。しかも、用語や概念を統合することは、業務を統合することにもつながります。

 このようなことは、常識的に行うことができますので、正式な合併システムの着手以前にも検討できますし、これを行うことにより、合併システムの開発期間を短縮することができます。

 概念の統一などのような抽象的な作業は、即物的な発想しかできない利用部門の人たちには不向きで、IT部員の得意とする分野です。例えば、売り上げ、出荷、移動などを「ものの動き」ととらえ、それを例えば下表のように体系的に整理することなどはIT部門は得意です。しかも、旧システムではそれにどのような用語を用いていたかも知っていますから、それぞれに、A社・B社で使っていた用語の対応表も作れます。それを関係者に示して、新会社では何と呼ぶかを決めさせればよいのです。

倉庫における、商品が減少する際の呼び方の例
社外への移動
  所有権の移動を伴うもの
  代金が得られる(売上出荷
代金なし(見本出荷
所有権は移動しないもの(預け出荷
社内の他場所へ
  管理主体が変わる(転送
変わらない(預け
同一場所内
  保管場所が変わる(移動
変わらない(保管ロス
 

 しかも、単に用語の統一だけでなく、この作業のプロセスにおいて、用語のデータベースを作成し、それに情報システムでの項目名なども対応させてオーソライズすれば、自然にデータ体系ができますし、EUCの普及にも役立ちます(「第9回 情報システム部門の生産性が上がらない理由」の「オンライン・ユーザー辞書を整備する」を参照)。

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