企業合併でシステムが止まらない方法教えます!システム部門Q&A(6)(2/4 ページ)

» 2005年08月09日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

合併における「IT部門戦略」

 トラブル続きになったのは、なかなかニーズが決まらない、決まったはずのニーズが変更になるといった、非ITの要因が原因です。そのような非IT活動にまでIT部門がリーダーシップを取るだけの権限を与えられることはまれでしょう。それなのに、情報システムのトラブルは、少なくとも直接的には、IT部門が非難の矢面に立たされがちです。

 昔からSE仲間では「222の法則」がいわれていました。「情報システムの開発では、予定した2倍のコストと2倍の時間がかかり、1/2の機能しか実現しない」というのです。合併システムの開発では、機能についてはニーズそのものが不明確で不安定なので、対象から外しましょう。コストの面では、緊急時の対策ですので、平素より大目に見てくれるでしょう。しかし、時間は絶対厳守です。すなわち、合併システムで重視しなければならないのは「時間」です。IT部門をスケープゴートにさせないためには、IT部門としては、合併発表からシステム開発着手までの期間、システム開発中の期間を効果的に運営することが大切です。

 教科書的なあるべき論としては、双方の経営者に情報システムの重要性を理解させること、全社的な合併システム推進委員会を設置すること、全社員に新会社の理念を説明すること……など多くのことがいわれています。それは正しいことですし、それが適切に実施されれば効果が大きいのですが、現実の合併を前にして、経営者や利用部門がことさらにITを最重要課題として行動するとは思えません。

 多くの企業では、CIOは他部門との兼任ですし、ITが副次的になっています。そこで、CIOは合併に際して、ITよりも他部門のことに関心を向けるでしょう。それに、合併においては、「○勝×敗」というような主要人事が大きな関心事になりますが、ITの重要性や開発での困難性が十分に認識されていない環境では、他部門人事の後でのパワーバランス調整でCIOを決定することになります。このような状況では、合併システムをCIOのガバナンス下に置くのは危険です。むしろ実質的なIT責任者であるIT部長が、主導権を取るべきなのです。

 ITが合併のクリティカルパスになるのは絶対に避けなければなりません。しかも、経営者も利用部門も支援してくれないのです。自分たちで対策を講じなければなりません。合併システムを成功させることが、IT部長の唯一無二の最大任務であることを認識してください。もうすぐ廃止される旧システムでのトラブル対処などは枝葉末節の事項です。それに関与する必要はありません。適当な部下に押し付けてしまいましょう。

 IT部門としてどのような戦略を取ればよいかを、ホンネで考えなければなりません。そこで、次の戦略を提案します。

・代理戦争に引き込まれるな

・バベルの塔を解決せよ

・ユーザーをうまく使え!

 これらは、IT部門のエゴイズムではありません。このような戦略を取ることにより、期間内で合併システムを完成できますし、「良いシステム」になります。利用部門の満足も得られやすくなります。すなわち、全社的にも「良いこと」なのです。

代理戦争に巻き込まれるな

 時間ロスの原因となり、最も非生産的なのが、両社がお互いに自社の旧システムやベンダに固執して綱引きをすることです。しかも、IT部門がベンダ、経営者、利用部門の代理戦争をさせられたのでは、泥沼に入ってしまいます。双方のIT部門が団結して、ベンダ、経営者、利用部門に対処することが重要です。

図2 IT部門の団結

   利用部門の旧システムへの固執   

 情報システムは、仕事の仕方を規制します。それを変更するのは面倒なだけではありません。長年使ってきた情報システムは、組織文化にもなっています。相手側の情報システムに移行することは、仕事の面でも相手側に主導権を取られることになります。そこで、利用部門は旧システムをベースにすることをIT部門にけしかけます。利用部門の圧力を抑えるのには苦労します。同社のIT部門だけで説得しようとしても、逆にけしかけられる事態になる危険もあります。相手側のIT部門が同席するだけでも、かなりの緩和剤になります。

     ベンダと経営者       

 従来のベンダにとっては、合併システムの受注は死活問題ですから、平素とはまったく異なり、積極活動を展開します。また、これを機会に新規ベンダが参入してきます。そこでは強力なトップセールス競争になります。ところが経営者はITの知識が低いので、セールストークをうのみにしがちですし、つまらぬ事項に関心を持ち、IT部門に指示(本人は助言のつもり)をします。

 経営者に変なノイズを与えない方法として、トップセールスには双方のIT部長(あるいはスタッフ)を同席させること、ベンダが退席した後で、双方の部長から再説明することが効果的です。この「双方」が重要で、これにより経営者に客観的に思わせること、IT部門が協力体制にあることを示すことができます。また、双方のIT部門が同じ情報を得ることにより、代理戦争を回避することにもなります。


   IT部門の旧システムへの固執     

 IT部門は、自分が手塩にかけた旧システムに愛着があります。長年付き合ってきたベンダのSEとは、個人的にも親密な関係があります。レガシーシステムでは(オープンシステムでも)その環境に特化した知識ノウハウがあり、それを捨てるには抵抗があります。

 しかし、IT部門内での固執は、比較的容易に回避することができます。IT部門は「企業競争とIT活用の方法論とは別だ」と考えており、他社IT部門とのIT技術の相互交流にはむしろ積極的です。自社の成功例を公表するのにも積極的ですし(場合によっては失敗例も)、他社の新しい技術や進んだ方法を学ぶのに積極的です。それを実現した同業者に敬意を持っています。他社のシステムが優れていれば、それを採用することについては、他部門ほど抵抗を持っていません。情報化を進める方法論に関しても、自社がそれを採用しているかどうかは別として、その方法論がどのようなものかについては共通の認識があります。

 このような長所を生かして、相互信頼を深めること、共同して経営者や利用部門に働き掛けることが重要です。

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