さて、このフレームワークを見た一般のいわゆるユーザー企業の人は、ITスキル標準をどのように受け取っているのでしょうか。私がいろいろな方々にお話を伺ったところ、おおむね以下のような意見に集約できます。
ITスキル標準として未整備の部分を鋭く突いた意見もありますが、ITスキル標準センターが公開しているITスキル標準をしっかり読めば分かるような部分が理解されていなかったり、明らかに誤解されているのではないかと思われたりする意見も含まれています。しかし、これがいまのユーザー企業における、ITスキル標準に対する認識の実態なのです。
そこで、ITスキル標準をしっかり読んでみましょう。まずはITスキル標準センターのホームページから、全職種分をダウンロードしてプリントアウトしてみてください(……すみません、冗談です。決して本当にやらないでください)。本当にプリントアウトすると、A4で厚めのチューブファイルに収まり切らないぐらいの紙が吐き出されてきます。量に圧倒されながらも、せっかく印刷したのだからちゃんと読もうとすると……。
なんだか妙に同じような表現が繰り返し出てきたり、まったく同じかというと微妙に違っていたり。でもどこが違うのかといったリファレンスも用意されていない。おまけに、「達成度指標」とか「スキル熟達度」といった耳慣れない言葉が出てくる始末です。正直にいって、「とてもじゃないけど、読んでいられない」のです。結局、先のフレームワークに戻り、このフレームワークだけですべてを判断し、我流でなんとか解釈しようということになってしまいます。
これが、ITサービス産業全体で「ITスキル標準を、業界内の標準として共通で比較できる指標としよう」と試みることになれば、無理にでも理解し、社内の制度に取り込んでいこうとかするでしょう。あるいは、一般のユーザー企業に比べると、社員が“ITプロフェッショナルがほとんど”という構成が多いため、人事考課に直接的につなぐことも可能です。いずれにしても、ITスキル標準をなんとか理解して取り入れようというモチベーションが働きます。
一方で一般のユーザー企業の場合はどうでしょうか。「別に無理にそんなややこしいものを導入しなくてもいいよ」となるのがオチではないかと思います。そもそも導入メリットがないのであれば、負荷を掛けて難解なものを理解しようという意識は生まれません。これが、いまの一般のユーザー企業におけるITスキル標準に対する偽らざる気持ちなのです。そもそも、「ITスキル標準なんてよく知らない」「それってベンダ側のものでしょう?」「知らないけど別に困らないし」というところが、せいぜい関の山でしょう。
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