企画書作成の難しさと酔った男女の行方(第7話)目指せ!シスアドの達人(7)(3/4 ページ)

» 2005年12月15日 12時00分 公開
[那須結城(シスアド達人倶楽部),@IT]

新営業支援システムプロジェクト企画書の作成

 営業部員の要望調査もまとまってきたが、今後、プロジェクトをどのように展開していくかについては、坂口らは初めての経験でもあり、悩み始めた。そこで坂口は、上級シスアドの豊若にアドバイスをもらおうと、なじみのバーへ誘ったところ、豊若は二つ返事でOKをくれた。

坂口 「豊若さん、新営業支援システムのプロジェクト企画書の作成を始めようとしたのですが、どのように展開していいのか困っています。ベンチマーキングをしてみた結果、他社のシステムはどれも良く、そのまますべての機能を導入してもよいのではとも思われ、それらを考えると、どのようにまとめてよいか分からなくなっています。豊若さんだと、ささっと作られるのでしょうが」

豊若 「ポイントは、『システムはまずは、大きく考え、そして、小さく始める』ことだ。すなわち、全体像は、例えば、物流システムや、生産システムとの連携も考えるが、まずは、小さくても、効果が出せるところのシステム化から始めるということだな。そして、順次、ステップを踏んでシステムを拡張していくのがいい。そういう観点で考えてみるといいぞ」

坂口 「なるほど、ありがとうございます。その考え方だと、何となくまとめられそうな気がしてきたのですが、プロジェクトの企画書をどのようにまとめていっていいのかも悩んでいるのです」

豊若 「そうだな。最初のときはよく分からなく悩むと思うが、何回か経験するとポイントがつかめるようになるさ」

坂口 「といっても、社内であまり相談できるような人がいないし……」

豊若 「私が全面的に参画できれば、一緒に作ってもいいのだが、いまはそうもいかないからなぁ」

坂口 「何か名案ないですかねぇ……」

豊若 「そういえば、確か君は先月上級シスアドの試験を受けたよな?」

坂口 「え〜! なぜ、それを知っているんですか? 確かに受けましたが、午後IIが完敗でした。初級シスアドとは、レベルが違っていて……」

豊若 「でも、少しは受験参考書で勉強したよな?」

坂口 「一応、目を通したのですが、忙しくて、ほとんど勉強に時間が取れなかったので……」

豊若 「参考書は、何を使って勉強したか覚えているか?」

坂口 「はい、豊若さん。いや豊若先生が執筆者の1人となっている『上級シスアド合格完ぺき対策』です」

豊若 「その“先生”というのは、やめてくれよ。それはさておき、『上級シスアド合格完ぺき対策』なら、プロジェクトの企画をどうすればよいか的確に書いてあるから、もう1度読んでみなさい。きっと、悩みが解決すると思う。そして、それでも、分からなかったら、また、相談に来るといい」

坂口 「ありがとうございます! この話をもっと早く聞いていたら、もっとしっかり上級シスアドの試験勉強もしていたのに……と反省です。いつも貴重なアドバイスありがとうございます」

 そこに、水元と谷田が現れた。

水元 「あら、坂口さん、やっぱり豊若さんと一緒にここにいたんですね」

豊若 「やあ、優香、久しぶり。でも、やっぱりって、どうゆうことだ?」

水元 「実は、会議が終わって事務所に戻ったとき、坂口さんがもういなかったんで、谷田さんに聞いたら、深刻そうな顔をして、豊若さんに電話をかけた後、珍しく『お先に』といって帰っちゃったというんです。谷田さんもついて行きたかったみたいですけど、深刻そうな顔をしていたので、声を掛けられなかったんですって。それなら、きっと、ここにいるだろうからと、2人で来ることにしたわけです。正解でしたね! 谷田さん」

谷田 「さすが、水元さんですね!」

水元 「坂口さん、もっと深刻そうな顔をしているのかと思ったけど、そうでもないようですね」

坂口 「豊若さんのアドバイスで、少し明かりが見えたからね」

水元 「じゃあ、グッドタイミングですね!」

谷田 「押し掛けたら、迷惑じゃないかと思っていましたが、水元さんがぜひ、行こうというので来てしまいました。でも、来て良かったです!」

水元 「深刻な話って、豊若さん、何の話をしていたんですか? 坂口さんの女性問題の相談ですか?」

坂口 「おいおい、まさか!!」」

水元 「だって、谷田さんが本当に心配そうな顔をしていたんですもの」

 谷田は、少し顔を赤くしながら、

谷田 「そんなんじゃないってば!!」

豊若 「それじゃあ、せっかくだからみんなで乾杯しよう」

 4人はしばらく酒を飲み交わしながら、歓談した。谷田は、少し酔いを感じていた。

坂口 「じゃあ、そろそろ引き揚げようか!」

水元 「もうそんな時間ですか? 坂口さんは、谷田さんと同じ方向ですよね。谷田さんが少し酔ってしまったようだから、送っていってくださいね」

谷田 「私は、大丈夫ですよぉ〜」

 といいながらも、大丈夫そうではない谷田。足元がおぼつかない。

坂口 「じゃ、途中まで一緒だから、僕が送っていくよ」

水元 「坂口さん、それじゃお願いしますね。豊若さん、もう少し、2人でいいですか?」

豊若 「優香は相変わらず、酒好きだな。坂口くん、それじゃ、谷田さんをよろしくな。悪いけど、俺たちはもう少し飲んでいくから」

 坂口は、谷田をつれて一緒に帰路に就いた。ほろ酔い気分の谷田は、ふらふらと坂口の後をついて駅へと向かった。11月の夜、冷たい風が谷田のほてったほおには気持ち良かった。「このまましばらく散歩したいな」と思った瞬間、足元の段差につまずき、よろけそうになって思わず坂口の手をつかんだ。

 「だ、大丈夫?」坂口は、少し驚いたが、そのまま寄り添うような形で歩き始めた。駅に近づくと、少し気の早いクリスマスイルミネーションが2人を包んだ。坂口は、少し緊張し、谷田はちょっと幸せな気分だった。

 恵比寿からJRで新宿まで出て、そこから小田急線に乗り換えた。

坂口 「谷田さんは、確か成城学園前だったよね」

谷田 「そうです。坂口さんは、経堂でしたよね」

 経堂の駅が近づいていた。

坂口 「今日は、家まで送っていこうか?」

谷田 「いや、いいですよ。1人で帰れますから!」

 といいつつも、谷田は座席でウトウトしていた。そうして結局、坂口と谷田は、谷田のマンションの前まで来ていた。

谷田 「坂口さん、本当に今日はどうもありがとうございました」

坂口 「じゃ。お休み」

 坂口は、そこで別れて、成城学園前駅から経堂駅まで戻り、ワンルームマンションに戻った。そのときには、坂口は完全に酔いもさめていた。そして、豊若の話を思い出しながら『上級シスアド合格完ぺき対策』を取り出し、上級シスアドなら、プロジェクト企画に対し、どうするのだろうと読み返してみた。

 対象範囲、期間等の方針決定、情報システムの現状、ベンチマーキングなどの調査・分析、情報化企画の検討・立案、組織のトップ承認、具体化計画策定、システム開発、……。なるほど、結構あるなと思いつつも、今回の場合は、これらの内容を、まずは、企画書にまとめ、トップ、社長の承認を得ることが必要ということだと理解した。

 以前、読んだときは、何のことかピンと来なかったが、今回は違った。非常に役立つことが書いてある気がした。明日から、この内容を参考にしながら、これらの企画書作りを始めよう。今日は、もう遅いので寝ることにした。

※登場人物一覧へ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ