第3世代情報マネジメント基盤に求められる5つの要件“情報洪水”時代の情報流通戦略論(4)(3/3 ページ)

» 2006年04月11日 12時00分 公開
[吉田 健一(リアルコム株式会社),@IT]
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メタ情報管理

 ポータルだけで「必要な人にだけ必要な情報をタイムリーに」という世界は実現されない。アイデンティティ管理と並んで重要な情報マネジメントの機能は、「メタ情報の管理」である。

 メタ情報とは、情報に付随している属性情報のことである。情報に付いているラベルだと考えるとよい。例えば、「提案書.ppt」という文書それ自体では、いつ誰がどういうシチュエーションで活用すればよいのか分からない。これに「分類:好事例」「種類:提案書」「アクセス権:社外秘」「評価:星4つ」とラベルが付いていけばいくほど、情報の品質が高まり、いつどのようなシチュエーションで情報を活用すればよいのかを把握できるようになる。

 メタ情報にはさまざまな種類がある。1つ目は範囲に関するメタ情報である。「この情報はどの範囲までアクセスを許すのか」というアクセス範囲に関するメタ情報を付与することでセキュリティが確保できる。セキュリティは「閲覧」だけではなく、「印刷」「改変」「転送」といった細かいアクションのレベルごとに設定する。

 セキュリティに加えて「あて先」も重要だ。「アクセス範囲」はあくまで「見せてよい人」の範囲であるが、それだけでは必要な人に情報が届かない。「見せてよい人」の中に、「見なければいけない人」がいるはずである。こうした「あて先」に指定されている人だけポータルに表示するといった工夫をすれば、情報洪水を避けることができる。

 情報の分類体系も重要なメタ情報である。分類体系は、「種類」「業界」「商品」など複数の軸が存在し、前述のとおりインデックス構造で保持するのが好ましい。「サービス化」「ブロック化」が進展していくと、アプリケーションごとに分類体系がばらばらになりがちであるが、情報マネジメントの観点ではアプリケーション横断の統一的な分類体系を持ち、各アプリケーションがその分類体系を呼び出す形にするのが好ましい。統一的な分類体系を持つことで、「社内にある商品Aに関する情報は?」という視点でさまざまなアプリケーションから必要な情報を瞬時に引き出すことができるようになる。

 メタ情報というと情報の作成者が付与するものと考えられがちだが、利用者が付与するメタ情報もある。例えば、「どれだけその情報が利用されたか」という閲覧数や、情報の有用度は利用者が利用する中で自然と付与していくメタ情報である。こうした、さまざまなメタ情報をどれだけフレキシブルに蓄積できるか、アプリケーションと分離して統一的に管理できるかが、第3世代情報基盤において情報の整理・整頓を実現するポイントである。

活動履歴トラッキング

 最後に、ユーザーのすべての行動の記録を残し活動を「見える化」する「活動履歴トラッキング」も忘れてはならない。コンプライアンス時代の今日ではユーザー行動の証跡を残すことは必須要件であるといっていい。

 先日のライブドア事件でも取りざたされたが、今日、メールやチャットなどのコミュニケーションツールを利用して企業の財務諸表にインパクトを与えるような重要な意思決定が行われるケースが増えている。日本版SOX法では、財務諸表にインパクトを与えたり、企業にとってリスクが大きいとされる意思決定に関してコミュニケーションの証跡を残すことが求められる可能性が高い。

 例えば、米国の証券会社では証券の売買に関するコミュニケーションにインスタントメッセンジャーを利用しているが、SOX法により証券の売買行為という重要な活動の証跡はすべて記録することが規定されたため、すべてのインスタントメッセンジャーのログを記録し不正な動きがあればアラートを出す仕組みが全証券会社に導入されている。

 日本企業において、どの分野のアプリケーションの証跡を重点的に取る必要があるかはその企業のリスクがどこにあるかによってくるが、情報管理基盤としては要求があればすべてのアプリケーションのすべての活動のログをトラッキングできるようにしておくべきであろう。

 こうしたトラッキングはコンプライアンスに限らず、情報品質の向上にも寄与する。トラッキングにより情報の活用度・有用度が見える化されることは前述したが、それに加えてトラッキングされたログを活用して情報流通の最適化を図ることもできる。例えば、Googleには、「Googleパーソナライズドサーチ」という仕組みがある。この仕組みは一見普通のGoogle検索に見えるのだが、各個人の検索履歴──各個人がどのようなキーワードで何を何回検索しているか──をすべてトラッキングし、そのログをベースにその個人の興味・関心に最適な検索結果を提供している。つまり、いつも「石油の価格動向」を調べているAさんの検索結果には石油価格関連の情報が上位に出てくるようになるわけだ。

 この「Googleパーソナライズドサーチ」に代表されるように、膨大なデータの中からその人が本当に必要な情報だけを適切に提供する「パーソナライズ・レコメンデーション」はトラッキングされたログを活用した最適化の好例である。


 以上、情報マネジメントを実現する情報基盤の5つの要件について簡単に説明した。情報洪水もコンプライアンスも待ったなしの時代になりつつある。こうしているいまも情報の量は日増しに増え続けている。一刻も早く、情報の量から質への転換へ向けた取り組みを始めることが、個と組織の能力向上を実現する第一歩である。

筆者プロフィール

吉田 健一(よしだ けんいち)

株式会社リアルコム 取締役 マーケットデベロップメント担当

一橋大学商学部卒。戦略系コンサルティングファーム、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンにおいて、国内外の大手企業に対する戦略立案・実行支援のコンサルティングに従事。その後、リアルコムにてプロフェッショナルサービスグループのディレクターとして、ソニー、NEC、ニコン、丸紅など大手企業に対する情報共有・ナレッジマネジメントによる企業変革コンサルティングを手掛ける。主に、情報共有をベースにした全社BPR、企業組織変革を専門とする。これまでに培った方法論と事例をまとめた書籍『この情報共有が利益につながる 〜経営課題に適した4つの実践アプローチ〜』(ダイヤモンド社)を監修。

株式会社リアルコム Webサイト


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