「見える化」は、ドイツの戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガー会長の遠藤功氏が「現場力」に続いて世に出してきたコンセプトである。それまで可視化という言葉が使われてきたが、最近は「見える化」が一種のブームのような状態になっている。筆者はローランド・ベルガー在職時代、オペレーション戦略立案にまつわるプロジェクトにかかわってきた経緯もあり、ここであらためて本家「見える化」をおさらいしておきたい。
「見える化」はそもそも、他社との競合優位につながるオペレーショナルエクセレンスを実現するために現場力を高めることが大切であり、そのために必要不可欠である──との気付きから生まれている。ビジネスインテリジェンスなどのITツールありきの発想ではなく、あくまで現場力を高める手段であることを忘れてはならない。
「見える化」には、現場主導と管理目的の2つのアプローチがあり、ともすると管理目的のみがクローズアップされがちである。しかし、「見える化」が現場の気付きや自立的な行動変革を促すものであることからも、管理の「見える化」だけで十分な結果が得られるものではない。
「見える化」の目指すゴールは、共通の物差しにより共通認識を醸成することで、最終的に組織一体となった行動を実現することにある。闇雲に売り上げや在庫のグラフを情報ポータルに表示すればよいというものではない。
現場で、全員が共通の物差しとして使う以上、シンプルさへの徹底したこだわりが重要となる。100や200の指標を提示されても管理しきれるはずもない。行動の変革へとつながる、考え抜かれ、絞り込まれた指標のみを「見える化」することが成功の鍵となる。それら指標を絞り出すためには、徹底した議論が必要である。成功する「見える化」は対話と思考を生み、行動変革へとつながっていくのである。
さて、Notesを「見える化」するに当たっても、「見える化」の本質を見失わないことが重要である。ここでは、Notesを「見える化」する際のポイントを3つにまとめる。
情報漏えいがあった場合のリスク、業務が規定通りに行われていなかった場合のリスクを、把握できているだろうか?
個人情報保護法の施行以来、情報漏えいに対するリスクは日に日に増している。多くの企業ではメールのログ監視や、Winny対処ツールなどを導入して対策を講じているだろうが、Notesについてはどうだろうか? 現場での情報共有に使われていることから、意外と重要なデータが含まれていることは多い。
例えば、顧客リストが社外に漏えいしたことが発覚し、その元情報がNotesの文書DBだった場合、「いつ」「誰が」その情報を持ち出したと考えられるか、追跡することはできるだろうか? また、業務規定上定められた通知・通達文書がしかるべき相手にしっかりと伝達され、ルールどおりにオペレーションが回っているか、どの程度確認できるだろうか?
昨今、度重なる会計不祥事と法規制により、内部統制の強化が必須となりつつある。日本版SOX法でもベースとされているCOSOフレームワークにおいてもモニタリングは欠かすことのできない要素であり、情報伝達の状況が「見える化」できていないリスクへの対応はよりいっそう重要になってきている。
これは管理目的の「見える化」と思われるが、各自が管理している情報をトラッキングする仕掛けを用意することで、現場での情報伝達のあり方を改めて考えさせ、セキュリティへの意識変革を促すことも可能であり、自律の「見える化」にもつながる視点である。
次の「見える化」は、Notesの利用状況である。これには静的・動的の2つの面がある。ある時点でのDB数や文書数、ユーザー数を把握しているNotesユーザーは少なくないと思われるが、これは利用状況の静的な「見える化」にしかすぎない。
一方の動的な「見える化」は、机上の空論的な数値ではなく、実際の利用状況をつまびらかに把握することを目指している。全DBのうち、いまでもコンスタントにアクセスがあるDBはどれか? アクセスの内容は参照か、文書作成か、レプリカか。全ユーザーのうち、毎日ログインしているユーザーは何割で、NotesクライアントとWebブラウザからのアクセス比率はどのように推移していて、それぞれどの部門、どの地域の人々なのかを把握できているだろうか?
特に、情報のジャストインタイム性が重要で、年に一度の決算棚卸し的な取り組みではなく、継続的に把握することができる仕組みを作り上げてこそ、「見える化」と呼べる取り組みとなる。これも同じく管理の「見える化」で終わらせず、現場にフィードバックして「自律の見える化」へと昇華することが目指すべき姿である。
Notesに限らず、情報系システムに対するROIに関する議論は長年続いているが、どのような状況でも必ず当てはまるような指標は、残念ながら近々見つかりそうにもない。
ROIのR──リターンを測るための指標として、例えば情報の浸透速度を「見える化」しようとしている企業がある。ある情報が発信されてから、届くべき人々の50%が文書を読むまでにどれだけの時間がかかるかを継続的に測定し、ポータル構築などの情報共有に対する取り組みが狙いどおり機能しているかどうかをチェックしているのである。
人間の脳の中のシナプスが進化していくように、情報共有の取り組みが適切に行われていれば、この指標は日々改善されていくはずである。この指標はエンドユーザーにもフィードバックされ、浸透速度が遅かった際には、発信したコンテンツの内容やタイミングなどを省みて次への改善へとつなげようとしている。
一方、今後Notesにどのくらいの金額を投資すべきかROIのI──インベストメントを評価するに当たり、いままでNotesにどの程度投資してきて、それが資産としてどの程度残っているかを把握しておく必要があるだろう。情報共有基盤の資産には、ソフトウェアライセンス資産だけでなく、基盤に蓄積されたデータやアプリケーションの資産、さらにはエンドユーザーへの教育資産がある。
特にNotesの場合、エンドユーザーの教育資産の持つ意味は大きい。今後の情報共有基盤の方向性を巡って、社内でNotes信者対アンチNotes急先鋒の戦いになった場合、主観的に好き嫌いの議論に終始することも少なくないが、Notesを擁護するにも棄却するにも、Notesの総合的な資産価値を正しく把握している方が“妥当な結論”に着地するために有用である。
グループウェアに限らず、ITはお金を出しさえすればいくらでも機能追加できる。将来どの程度投資すべきか判断するに当たっては、過去のインベストメントを適正に評価して使えるものを可能な限り有効活用しながら、ROIを高めていくべきである。
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