なぜストレージをネットワーク化するのか上司のためのストレージ・ネットワーキング (1)(2/2 ページ)

» 2006年05月24日 12時00分 公開
[辻 哲也,ブロケードコミュニケーションズシステムズ]
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ストレージのネットワーク化はなぜ必要?

 そもそも「ネットワーク」は、前述のとおり、接続されたモノ同士が何らかの「やりとり」つまり「通信」を行うニーズがあるからこそ、構成されるものだ。現在インターネットに接続されていないIT機器(サーバやクライアント)はほとんどないといっていいが、それはネットワークに参加することで、ほかの機器から情報(データ)を入手したり、逆に提供したりすることができるという、非常に大きなメリットを享受できるからである。

 ストレージ・ネットワークに関しても同様に考えることができる。ストレージ・ネットワークではストレージが、ホストとともにネットワークにより接続される。これによってもたらされるメリットとは、例えば1台のホストが複数のストレージにアクセスできるようになり、また複数のホストで1台のストレージを共有することである。さらにストレージ間で自由にデータを移動してストレージ変更をもっと簡単に行い、OSやアプリケーションをホストから切り離して外部ストレージに格納することで、ホストも自由にスケールアップすることが可能になる。つまり、ストレージをネットワーク化することで、ホストとストレージの関係は「1:1」あるいは「1:n(もしくはn:1)」から「m:n」に変わる(図2)。

ALT 図2 ネットワーク化でホストとストレージの関係は「m:n」に変わる

 ネットワーク化することの本質は、この「関係性」の変化であるといっていい。ホストは自由にストレージを選択し、ストレージも自由にホストに割り当てることができるようになる。「m:n」へ関係が変化することで、インフラに柔軟性をもたらすことができるのである。

 「m:n」の関係性を構築したいのならば、ストレージはネットワーク化すべきだ。例えばテープ装置は常時稼働しているわけではないから、ホスト1台ずつに対して台数分個別に接続するよりも複数のホストで共有する形態の方が、トータルでのコストが抑えられ、テープ装置をより有効に活用できるといえるだろう。

 ストレージ・ネットワークでは、ホストとストレージがその構成要素となる。従って、ストレージに求められる役割やストレージの重要度が高くなればなるほど、より高い柔軟性が求められる。前述のとおり、今日あらゆるデータがストレージに格納されているという現実をかんがみると、ストレージをネットワーク化するのは必然とさえいえる。

 ストレージ・ネットワークも「ネットワーク」であるから、その上で通信するモノ同士の間では何らかの「プロトコル」(通信手順)に従って通信を行う必要がある。ファイバチャネルやiSCSIなどがそれに該当するわけだが、プロトコルに関する詳細は次回解説する予定である。

ストレージのネットワーク化で得るもの、失うもの

 ストレージ・ネットワークを導入するメリットは、前述した導入の目的を振り返ってみれば、おのずと明らかになる。前述のようにホストおよびストレージに「柔軟性」をもたらすことが、ストレージ・ネットワークの本質であり、特徴である。逆説的にいえば、「柔軟性」を必要としないのならば、ストレージ・ネットワークを構成する必要もない。「バックアップ統合」「ディザスタ・リカバリ」などよくいわれる「SANソリューション」は結局、この柔軟性から派生するものである。大切なのはソリューションを知っていることよりも、ソリューションを可能とする本質を理解することだと筆者は考える。

 ストレージ・ネットワークの導入にも、やはりコストが発生する。それはホストアダプタ(コンピュータをSANに接続するためのアダプタ)やSANスイッチ、ソフトウェアを購入するのに必要なコストである。前述のSAN導入におけるメリットを、費やしたコスト以上に感じることができなければ、結局はそのコストが「デメリット」と認識されてしまう。

 「SAN(ストレージ・ネットワーク)はコストが高い」といわれるが、本当にそうなのだろうか。ここで言及している「コスト」について考える際には、「初期コスト」と「ランニングコスト」を厳密に区別する必要がある。

 ストレージ・ネットワーク導入においては導入コスト、つまり初期コストがプラスアルファとして掛かるかもしれないが、ランニングコストは導入しない場合に比べて、大幅に低下するかもしれない。「TCO」(Total Cost of Ownership)や「ROI」(Return On Investment)は使い古された言葉ではあるが、投資を行ううえではあらためて考慮する必要がある。もしかするとランニングコストは初期コストなどとは比較にならないくらい大きいものかもしれない(図3)。

ALT 図3 ランニングコストは初期コストより大幅に高くなり得る

 もちろん、これは使用形態や運用形態等によって変わってくるため一概にはいえないが、大切なのはコストをより広くとらえ、自分たちのシステムの「本当の」コストを知ることだ。そうでないと「ストレージは高い」「SAN(ストレージ・ネットワーク)は高い」といった、漠然とした議論に終始するだけでせっかくのメリットを見逃してしまう。ランニングコストは「計算できない」ともいわれるが、多くの場合「計算していない」だけなのではないだろうか。

 IT投資において「サーバ台数はどのくらいになるのか」「ストレージ容量はどのくらい必要か」「新しい技術が出てくるのではないか」など、多くの不確定要素が存在する。ストレージ・ネットワークによってITインフラに柔軟性を持たせておくことで、このような不確定要素にも柔軟な対応が可能となる。

 次回は「ストレージ・ネットワークの技術」として、DAS(Direct Attached Storage)、NAS(Network Attached Storage)およびSANの技術的な特徴と、ストレージ・ネットワークで使用されるプロトコルに関して紹介していくつもりであるので、ぜひお付き合いいただければ幸いである。


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