情シス部と委託先企業との役割分担は?情シス部のリバイバルプラン(3)(2/2 ページ)

» 2006年08月31日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]
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人材ギャップの明確化を図る人材ポートフォリオ

 では、どのような人材をどの程度外部に依存し、どのような人材は内部で育成すべきなのだろうか? これらを検討するためには、まず、人材ポートフォリオを作成しなければならない。

 人材ポートフォリオとは、対象範囲の人材を人材像(職種・専門分野・レベル)別に分類したものであり、多様化する人材の全体を把握するために欠かせないものである。

 どのような人材をどの程度外部に依存し、どのような人材は内部で育成すべきなのかを検討するためには、現状の人材ポートフォリオと求められる人材ポートフォリオを作成する必要がある。現状の人材ポートフォリオとは、どの職種・専門分野・レベルの人がどの部署に何人いるかを示したものであり、求められる人材ポートフォリオとは、情報システムに関する全業務機能を担うために、どの職種・専門分野・レベルの人材を何人必要とするのかを示したものである。

 求められる人材ポートフォリオと現状の人材ポートフォリオとの差が、人材ギャップと呼ばれ、どのような職種・専門分野・レベルの人材が何人不足しているのかを示す。漠然と「ベテラン要員が不足している」とか、「若手が足りない」という人材要求ではなく、「コンサルタントのレベル4が2名足りない」とか、「プロジェクトマネージャのレベル3が5名足りない」など明確な人材要求を行うことが、人材ギャップを明確化することにより可能となる。

人材ギャップを埋める一施策としてのアウトソース

 人材ギャップの解消策として、1. 人材育成、2. スキルシフト、3. 採用、4. アウトソースの4つが考えられる(図5参照)。

ALT (図5)人材ポートフォリオの位置付け

 そのうち、人材育成とスキルシフトには即効性がない。なぜなら、人の教育には時間がかかるからだ。研修を受講させたからといって、すぐにスキルが身に付くわけではない。座学で学んだ知識を活用する場が与えられることで、初めて知識はスキルとなる。そのためには、ある程度の時間が必要となる。

 従って、即効性を求めるなら、採用かアウトソースになる。このうち、いずれを取るかは、対象職種が担当する業務機能を内部に保有するか外部依存するかによる。

 判断のベースには、業務機能の重要性、技術的な重要性、経済性、内部人材のキャリア育成方法など留意すべき点が多い。短絡的に経済性だけで判断すると、情報システム部の弱体化を招くことになるので注意しなければならない。

 アウトソースは、あくまでも人材ギャップ解消の1つの施策である。90年代のアウトソーシングへの過多な依存を招いた「情報システムは企業のコアコンピタンスではないので、情報システムをコアコンピタンスとするIT企業へアウトソーシングし、自社のコアコンピタンスに人材を集中すべきである」という主張はもはや通じない。自社の事業活動と密着している情報システムは自社のコアコンピタンスの一部である。

 従って、自社の情報システムに関する全業務機能は、本来自社ですべて賄うべきである。しかし、必要とされる人材があまりにも多様化、専門化しているため、自社内ですべて育成することが難しいことから、どうしても人材の不足がスキル面、人数面で発生する。それを解消する1つの方策がアウトソースである。

多くの企業の現状と人材ポートフォリオ基盤構築の必要性

 人材ポートフォリオを活用し人材ギャップを明確化したうえで、人材ギャップ解消策の1つとしてアウトソースを検討すれば、適切な情報システム部とアウトソーサとの役割分担を設定することができる。

 しかし、多くの企業では人材ポートフォリオを作成する基盤を構築されていない状況にある。人材ポートフォリオを作成するためには、自社の情報システムに関する全業務機能を担う人材像(職種・専門分野・レベル)が定義されていなければならない。人材像が定義されていなければ、現状の人材をマッピングすることもできず、また、必要とする人材を明らかにすることもできない。

 また、人材像が明確に定義されていないために、人材育成体系が構築されておらず、目先の技術を追う技術研修、人材育成しか実施されていないのが実態である。このような状態では、情報システム部の機能役割を担う人材を育成することは難しくなる。組織機能を担うのは人材である。そのため、ますます情報システム部は弱体化してしまう可能性がある。

 従って、多くの企業の情報システム部のリバイバルプランを立案するには、まず人材ポートフォリオを作成するための基盤を構築しなければならない。

 次回は、人材ポートフォリオの基盤をどのようにして構築すればよいかを紹介する。

著者紹介

▼著者名 井上 実(いのうえ みのる)

横浜市立大学文理学部理科卒。多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了。グローバルナレッジネットワーク(株)勤務。人材ポートフォリオ構築、人材開発戦略立案、キャリアパス構築などに関するコンサルティングを担当。中小企業診断士、システムアナリスト、ITコーディネータ。

第4回清水晶記念マーケティング論文賞入賞。平成10年度中小企業経営診断シンポジウム中小企業診断協会賞受賞。

著書:「システムアナリスト合格対策(共著)」(経林書房)、「システムアナリスト過去問題&分析(共著)」(経林書房)、「情報処理技術者用語辞典(共著)」(日経BP社)、「ITソリューション ?戦略的情報化に向けて?(共著)」(同友館)。


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