情報活用に必要な“捨てる技術”と“残す技術”“見える化”によるグループウェア再生術(3)(3/3 ページ)

» 2006年09月21日 12時00分 公開
[砂金 信一郎(リアルコム株式会社),@IT]
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主管部門の整理

■みなしごDBの洗い出し

 DB、文書を作成、管理している部門は把握できているだろうか? 度重なる組織改編で「みなしごDB」は増え続けていないだろうか?

代表的な仮説

情報の主管部門 は常に最新の状態に保たれ、担当不在となったDBにも、代わりの部門がアサインされている



 われわれが棚卸しを支援する際にも、何割か主管部門不明のものが出てきて、今後の方針を議論する際に宙に浮いてしまう。まったくアクセスがなければ後述のように保存ゴミにでもしてしまえばよいのだろうが、不定期にアクセスがある場合にはそうもいかない。

 これほどまでにコンプライアンスが重要な視点となってしまった現在、その情報の正否も分からないまま、意図せず誤って情報を流通させてしまうリスクは避けなければならない。各DB単位、ものによっては文書単位で、その情報の内容に責任を持つ主管部門を定義できないみなしごDBは思い切って廃棄すべきである。

図9 みなしごDB

■全社展開? 部門内?

 Notesを全社情報基盤として使っている企業であれば、全員が閲覧することになっているDBも少なくないのではないか。総務・人事部門などからの連絡事項や情報システム部門が主管しているヘルプデスク、経費精算や設備予約などのワークフローDBなどがそれに当たるであろう。

 ここで確認しておくべき点は「全員が本当に使っているDB」か「全員がルール上使うことになっているDB」かの判別であり、問題なのは後者である。

 全社向けDBはその影響範囲が広いことから、管理者のアテンションやポータル一等地へのリンク掲載なども含めると、その管理コストはほかのDBより高い。アクセスログ分析からルール上使うべきなのに活用されていないDBが判別できた場合、なぜ使われていないのか検討し、やはり必要なものであれば活用度向上施策を考え、不要なものであれば特権をはく奪するなどの対応が必要であろう。

 反対に、部門内限定のつもりが、ACL(Access Control List)設定が甘く、想定外の他部門から閲覧されていることはないだろうか?

 特に昨今多く見受けられるのが、エンタープライズサーチ導入後に見えてはいけない文書が問題になるケースである。これまでDB横断検索ができなかったときには顕在化しなかった不明確、不適切なACL設定がその原因である。「こんな文書が社内に存在していたのか!」という新鮮な驚きが、よい方向に活用されればよいのだが、存在すら把握されては困る文書のタイトルがなぜか見えてしまったという事態は避けなければならない。

 いうまでもないことだが、これはサーチエンジン・システムの問題ではなく、明らかにNotesDB管理上の問題である。とばっちりを受けるシステム担当者は悲運としかいいようがない。

代表的な仮説

全社公開の情報共有DBの内容は、全社員が把握している。反対に、部門内でしか活用していない情報は、セキュリティポリシー上、他部門から一切見えないはずである



■情報の輸出入

 部門やロケーションの視点が加わることで、情報の出し手と受け手の分布やそれぞれの経路で流れる情報の分量を「見える化」することができる。組織間の情報の輸出入の状況は、各部門の情報生産能力や利用状況を俯瞰(ふかん)するための分析である。

図10 情報の輸出入分析

アーカイブ

 容量当たり価格の低下で、ディスク容量自体は問題にならなくなった。ディスクの空き容量を確保することだけが目的であれば、そもそも情報の棚卸しは不要ともいえるが、ほかの視点でとらえると状況は変わってくる。

 まず、メンテナンスコストはどうだろうか? 特にNotesの場合、異なるバージョンで互換性が完全に担保されないため、過去の資産を引きずり続けることがバージョンアップ時の確認・改修に掛かるコストの累積的な増加につながる。

 また、利用者の視点で使いやすさを考えた場合、活用されない「ゴミファイル」はノイズになる。例えば、全文検索エンジンを導入した場合、活用度によるソートが現状では難しいため、使われていない身元不明確な文書がリストされることで、情報を探す時間が増えてしまうことになる。

 さらに悪いのは通知・通達のような文書で、有効期限切れにもかかわらず利用者の目に触れるようになっていると、間違ったオペレーションを引き起こしかねない。物持ちの良さがあだとなることを認識すべきである。

  このような状況では、企業ポータルや検索エンジンを導入しても効果は見込めない。ゴミためからはどんなに探してもゴミしか出てこないのである。今回ご紹介した分析を通して不要な情報を分別していただきたい。

■保存ゴミ

 とはいっても、データはなかなか捨てられないのが現実である。DBオーナーが必要性を主張してくれるのであればまだよいが、度重なる担当変更でオーナーが不明な「みなしごDB」は、Notes管理者としても安易に消してしまうわけにもいかないだろう。

 そこで、ゴミためと化してしまったNotes資産の解決策として、保存ゴミ戦術を取る企業は多い。物理的にファイルを廃棄するわけではなく、Windowsのゴミ箱に当たるような一時保存領域に移動するのである。その際、忘れてはならない点は、賞味期限をあらためて明確化することである。そうしなければ、保存ゴミがたまり続け、ゴミの保管場所が変わっただけにすぎなくなってしまう。

 さらにNotesの場合、Designer/Domino/Notesクライアントそれぞれのバージョン互換性の問題があり、保存ゴミ用に旧バージョンの環境を残している企業もある。ただ、これも根本的な解決にはならないため、最終的には多少不便が生じても、文書ファイルをPDFやそのほかの一般的な形式に変換してしまうのが良策といえる。

 旧バージョンのNotes環境は、アーカイブしたファイルを監査そのほかの目的で復元する際にも必要になる。都度環境を立てるか、常時用意しておくかは各企業の復元ニーズの頻度によって決まってくるであろう。

図11 保存ゴミ環境での一時保管

分析に必要な3要素

 本稿では、われわれがNotes棚卸し・調査コンサルティングで用いている分析方法の一部を紹介した。文中、代表的な仮説として記述した内容を手掛かりに、自社環境で確認してみるのもよいだろう。手持ちの資料とアクセスログを組み合わせることで、すぐにでもできるものもあるはずだ。その際、データだけに頼ることなく、管理者やユーザー自身の現場感は大事にしていただきたい。

 最初から完ぺきを目指すのではなく、できることから現状把握に取り組んでいただければ幸いである。分析に必要な3要素は下記のとおりである。特に、現場感は大事にしていただきたい。

■アクセスログ

 すべては客観的な状況把握から始まる。アクセスログは分析のよりどころとなる非常に強力な事実情報である。

■メタデータ(各種マスタデータ)

 アクセスログだけでは、その実態を十分にひもとくことができない。本稿で紹介したユーザーの分類によるクロス集計などがその例である。

■担当者の現場感

 事実を基にした分析の際に忘れてはならないのが担当者の現場感である。現場での肌感覚と大きくずれる結論が出た場合には、仮説や調査方法が間違っている可能性が高い。データをうのみにせず意味合いを咀嚼(そしゃく)し、必要に応じて適切に補正していただきたい。

筆者プロフィール

砂金 信一郎(いさご しんいちろう)

リアルコム株式会社

コアテクノロジグループ プロダクトマネージャー

shinichiro_isago@realcom.co.jp / shin@isago.com

東京工業大学工学部卒業後、日本オラクルにおいて、ERPから情報系ポータルまで、技術コンサルティングからマーケティングまで幅広い立場で経験。ナレッジマネジメントソリューション責任者も務める。その後、ドイツ系の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーにて、国内自動車メーカーを中心にオペレーション戦略立案プロジェクトに従事。現在は、リアルコム株式会社にて、自らも情報共有基盤戦略やNotes移行プロジェクトにかかわりながら、Notes関連製品のプロダクトマネージャーを務める。


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