マニュアル作りに燃える坂口、でも本当に必要なの?目指せ!シスアドの達人−番外編(2)(2/2 ページ)

» 2006年09月22日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]
前のページへ 1|2       

マニュアルもテストが大事

 3日後、坂口は人材開発部をのぞいてみた。そしてすぐに、デスクワークをしている松嶋を見つけた。冷房が効いているのか、明るい色の薄いカーディガンを羽織っているのがよく似合っている。

坂口 「先日は本当にありがとうございました。目からウロコが落ちる思いでした!」

松嶋 「大したことはしていないのに、坂口さんは大げさね。どう? 納得のいく形にできた?」

 坂口は、自分の考えたことを松嶋に報告した。

 やはりマニュアルだけでは、「まず一度使ってみる」というハードルを超えることはできそうにないと思った坂口は、ごく短時間での操作教育を行おうと考えたのだった。マニュアルはその場で「教育のテキスト」として使い、持ち帰ってもらうことを想定している。その場では覚えたつもりでも、実際の利用場面ではやはりマニュアルを見ながら操作を行えるのが、安心感につながると考えたのだ。

坂口 「内容も、業務に直結した利用方法に変えました。それと、マニュアルの情報量もかなり少なくしましたから、最初に『これだけ読めば、使えるんですよ』とアピールして、教育につなげたいと思ってます」

松嶋 「マニュアル自体を、動機付けの小道具として使うのね。面白いアイデアだわ。宿題はOKね」

坂口 「あぁ、よかった。松嶋さんにそういってもらえて、安心しました!」

松嶋 「製品に付いてくるマニュアルって、情報を網羅しようとしているから、どうしても情報量が多くなっているでしょう? 量が多過ぎると、読もうという気持ちが起きにくいのよね。シスアドが作るマニュアルは、それとは別のアプローチを取っても許されると、私は思うの」

坂口 「シスアドには、利用者の顔が直接見えていますからね。その人たちが必要としているものは何か、それを形にするのがシスアドが作るマニュアルだってことですよね」

 松嶋はうれしそうにうなずいた。坂口はコツをつかんだようだ。

 坂口が今回作成するマニュアルは、新営業支援システムプロジェクトのメンバーしか読まないし、坂口自身もマニュアル専任のライターではなく、本来の仕事を多く抱えている。マニュアル作成に、あまり時間とコストを掛けてしまうのも問題があるだろう。最小限のコストで、効果を狙うためにも、情報を絞り込むという考えは、いい判断だったといえるだろう。

松嶋 「もう書き終わったの?」

坂口 「えぇ、まぁ」

松嶋 「それじゃ、1つ質問させてね」

坂口 「松嶋さん、何だか先生みたいですね!」

松嶋 「うふふ。ときどき社内講師もしてるからね。ねぇ、マニュアルの作り方はシステムの作り方と似ているっていったわよね。じゃあ、開発つまり執筆の次に来る作業は何でしょう?」

坂口 「えーっと、テスト、ですか?」

松嶋 「正解! マニュアルもテストが大事よ。特に操作マニュアルは、書いてあるとおりに操作してみて、望んだ結果が得られるか、ちゃんと検証しておくといいわ。できれば、今回のメンバーと同じような立場の人にマニュアルを渡して、実機で検証してもらうのがいいんだけど、誰かに頼めるかしら?」

 坂口の頭の中に、谷田の顔が浮かんだ。

坂口 (そういえば、谷田さんがこの前、力になりたいっていってくれてたっけ。彼女も電子会議室を使ったことがないといっていたし、ちょうどいいな。戻ったら、頼んでみよう)

 松嶋に礼をいって、坂口は職場へ戻った。

 操作テストを谷田に頼むと、谷田は二つ返事で快く引き受けてくれた。今日はすでに作業のメドがついたから、すぐにでもテストをしてくれるというのだ。これから別件の打ち合わせに出席予定の坂口は、残念ながらテストに同席できない。後で連絡するといい残して、心も軽く打ち合わせの場へと移動していった。

 残された谷田は、張り切っていた。坂口の役に立てると思うと、うれしくてしようがない。うまくテストをこなして、坂口から連絡が入ったら喜んでもらおう、と作業を始めた。

 しかし、たちまち操作が行き詰まってしまった。結果が、マニュアルに書いてあるとおりにならないのだ。谷田も電子会議室を使うのは初めてなので、その原因が分からない。あいにく、周りには教えてくれそうな人も見つからない。谷田はすっかり困り果ててしまった。

谷田 「どうしよう……」


◆次回予告◆

 最初に簡単な操作教育を行い、その教材としてマニュアルを使うことにより、「まず一度使ってみる」というハードルを超えることを思い付いた坂口。また、マニュアル作成でも、システム構築と同じようにテストが大事なことを教わった坂口は、早速適材だと見込んだ谷田に操作テストをお願いする。しかし、張り切ってテストに挑んだ谷田は、早くもマニュアルに書いてあるとおりにならない事態に……。

 次回、困っている谷田のところへ様子を見に来た松嶋が訪れます。坂口と松嶋の関係を疑っている谷田に、松嶋が救いの手を差し伸べて……。2人の関係は意外な方向に展開します。

「目指せ!シスアドの達人」登場人物関係図
(番外編の坂口回想中時点のもの:クリックで拡大)

ALT 「目指せ!シスアドの達人」登場人物関係図
(クリックで拡大)

東京本社・営業1課 メンバー構成

課長 浜崎 雅則(はまざき まさのり) 43歳


課長代理 江口 章輔(えぐち しょうすけ) 38歳


主任 椎名 純平(しいな じゅんぺい) 33歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 30歳


チーフアシスタント 松下 真樹(まつした まき) 35歳


アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ) 26歳


アシスタント 水元 優香(みずもと ゆうか) 24歳


営業部 部長 田所 譲司(たどころ じょうじ) 50歳


上級シスアド 豊若 越司(とよわか えつし) 38歳


今回登場メンバー

人材開発部主任 松嶋 七海(まつしま ななみ) 37歳


配送センター主任 木村 俊哉(きむら としや) 32歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 41歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 33歳


情報システム部主任 福山 雅人(ふくやま まさと) 36歳


筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


石黒 由紀(いしぐろ ゆき)

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。ソフトウェア会社勤務


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ