事業継続をどのように考えればいいか事業継続に真剣に取り組む(1)(2/2 ページ)

» 2006年09月27日 12時00分 公開
[喜入 博,KPMGビジネスアシュアランス株式会社 常勤顧問]
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BCM策定の基本的方針

 企業活動を取り巻くリスクには多種多様なものが存在します。またそれらが発現した場合の対応方法(手段、復旧時間など)も多種類あり、それぞれの対応への投資も異なります。すべてのリスクに対して、最大の方法を適用することは、投資額も大きくなります。また策定したBCPを維持管理し、BCPを適切な状態に保つこともやはりコストが掛かります。資源が限られている企業活動では、すべてのリスクに対応することができません。効果的なBCMを構築するためには、企業としてのBCP策定の基本方針を明確に定める必要があります。

1. 目的の明確化1. 目的の明確化

 企業としてBCP/BCMを策定、構築する場合には、その目的と方針を明確にすることが必要です。これは経営方針・事業戦略の策定の範疇に属することであり経営者がその目的を明確にし、企業内に徹底する必要があります。目的・方針を明確にすることにより、BCPが実現する目標が明確になるとともに、事業継続に対する経営者の意思を社内に明確にすることができます。

2. 対象とする事業領域とリスクの策定2. 対象とする事業領域とリスクの策定

 BCMの対象とする事業領域は、すべての領域が望ましいですが、それには莫大なコストが必要です。そのためビジネスへの影響度の分析結果などを考慮して、対象を特定の事業に絞り込みます。しかし、企業規模が大きく、事業が多岐にわたる場合には、最初からすべての事業を対象にした作業には長い期間と多くの関係者の関与が必要となります。そのためには、これらの作業を行わず、あらかじめ基本方針としてBCM構築の対象とする事業領域やリスクを決めておくことが効果的です。

3. BCM戦略の方向性3. BCM戦略の方向性

 BCM構築の基本方針として、事態が発生した場合に対応すべき業務やステークホルダーの優先順位および目標復旧時間の方向性を、経営者などから示すことが効果的です。特に災害の発生など広範囲な事業に影響がある場合は、どの事業領域に限られたリソースに充てるかなどの方針を明確にしておくことが必要です。

BCP構築のポイント

 BCMを効果的にまた効率的に実施するには、多くの工夫すべきことがあります。次に挙げる事項は、その中でも重要なものです。

1. 基本方針の承認と関係者への周知1. 基本方針の承認と関係者への周知

 策定された基本方針は、経営者の承認を得るとともに、経営者から社内外の関係者に対して周知することが必要です。特に社内の関係者に対しての経営者からの意思の表明と周知は、BCMに対するこれからの取り組みを全社一丸となって実施するうえで必須の事項です。

2. 社内推進組織の確立2. 社内推進組織の確立

 BCM構築は全社的活動です。また対象となる領域も社内のさまざまな部署が関係します。BCM構築の推進は総務部としている企業が多いですが、事業内容を熟知した現場の専門家の知識も必要です。このため、全社としてBCM構築を推進する組織として社内の関係部署の参画による組織(BCM構築プロジェクト)を作ります。これにより、個々のBCPが企業活動全体と整合性が取れ、継続的に維持していくことが可能となります。

3. ビジネスへの影響度の分析方法の確立3. ビジネスへの影響度の分析方法の確立

 BCP策定では、事象が発現した場合の影響度の分析が重要です。この分析を行うことにより、多く存在する事業活動阻害要因に対する効果的なBCP策定対象の選定が客観的な視点から可能となります。

BCP策定ガイドラインと策定状況

 近年、これまでの災害対策や緊急時対応計画を一歩進めたBCMの構築の必要性が唱えられてきています。これは、2001年に発生した米国の同時多発テロ以降、特に顕著になってきました。わが国でも、2005年に、経済産業省、内閣府中央防災会議などから3つの報告書やガイドラインが発表されています。

  1. 経済産業省:「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書 参考6 事業継続計画ガイドライン」(PDF)(2005年3月31日)
  2. 内閣府中央防災会議:「事業継続ガイドライン 第一版 ――わが国企業の被災と災害対応の向上のために―PDF)(2005年8月1日)
  3. 中小企業庁:「中小企業BCP策定運用指針」(2006年2月20日)

 BCPの策定は、一般的にどのような状況でしょうか。図2はKPMGビジネスアシュアランスが2006年に実施した調査結果です。BCPに対しての取り組みが進んでいる米国では、策定済み企業が62%であるのに対し、日本では15%とまだまだ低い状況となっています。

ALT 図2 事業継続策定状況に関する調査結果の米国との比較

 次回から、BCP策定と構築の詳細に関して説明します。

著者紹介

▼著者名 喜入 博(きいれ ひろし)

1969年日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。 都銀第1次オンラインシステムの開発、金融機関の情報システムの開発などに従事。 2002年KPMGビジネスアシュアランス入社。2003年より金融庁CIO補佐官を兼務。2005年まで、内閣官房「情報セキュリティ基本問題研究会第二分科会」委員、および経産省「企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会」委員。


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