野球チームにはスコアラーという役割がある。スコアラーは、自分のチームが負け試合で選手も監督もかっかしているときでも、淡々と記録し続けている。だからこそ、選手も監督も後で負けゲームを振り返り、同じ相手に同じパターンで負けないように工夫することができる。
企業には営業や製造の現場にスコアラーはいない。スコアラーが書かない会計伝票に基づく経理資料は、経営分析にどれくらい使えるものなのだろうか? ある引っ越し会社では、引っ越しチームの中に物を運ぶわけでもなく、車を運転するわけでもなく、メンバーの仕事ぶりを記録して本社に連絡するだけの人が配置されているという。
ほかのメンバーからは、本社に告げ口する嫌なやつと思われているが、顧客と何かトラブルがあった場合、本社は顧客や当事者のメンバーから話を聞くのではなく、彼から客観的な事情を知ることができるため、トラブル発生時の顧客満足度は大変高いという。これに対して、あるフランチャイズチェーンではドライブスルーで店員が注文を度々聞き間違え、顧客が商品の受け取り時に苦情をいうときには、別の店員がひと事のように謝り、客を待たせたうえで商品を交換する。中には交換のために発生する追加のお釣りを渡すことを忘れることすらあるという。
客はいったいなぜこんなにも怒っているのかということについて、野球のスコアラーのように淡々と記録した情報があれば、その怒りを共感でき、心から謝ることができ、再発防止を約束できるだろう。
おそらく、前者の引っ越し会社はこの先も発展し続け、後者のフランチャイズチェーンはいつか大きなトラブルを起こすかもしれない。その違いは、ただ、事実を知るということの大切さを知っていたかどうかだ。江戸幕府には目付役という監査人がいたが、あなたは目付役の存在を無駄だと思うだろうか。
どんな会社でも会議は行われているはずだ。社内での会議はなくても、顧客との打ち合わせはあるはずだ。議事録という名称でなくても、営業日誌や電子メールという形態で話し合いの内容が残されているかもしれない。
電話対応では記録を残していない会社が多いが、電話メモとして残しておくべきだ。役所では部外者との電話応対の内容はしっかりと記録され、りん議されている。いつもやりとりしている内容だからといって、顧客とも取引先、部署ともまったく会議も打ち合わせの時間も持っていないというのでは論外だろう。
議事録には、顧客や取引先、部署間で交わされた確認や依頼といったビジネス情報のエッセンスが詰まっている。できれば、コンピュータに登録して全文検索できるようにしておきたい。もし、顧客や取引先、部署間で何か問題が起きれば、そこに何か原因と思われる情報が残されている可能性がある。
目の前で起きている事実を装飾せず、ありのまま記録するという技術は簡単そうで、なかなか難しいものだ。特に、事実をすぐに自分の思い込みや考えによって解釈し、見ても聞いてもいないことをあたかも事実のように伝える人が少なからずいるが、組織にとっては大変危険な存在だ。
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